8ページ,樹海の中心
「まったく、冗談ですよ。少し悪戯したくなっただけです」
ルーラはナイフを下に落とすと、その床から陣が生み出され、トポンと音がしながら沈んでいく。
「本当にそうならいいんだけどな」
やっぱりコイツは正体がなんでも、信用がまだ置けていない。
本当の心を聞けたなら、コイツの目的も知れたのだろうが、残念ながら私はまだ全知全能ではない。
そこまで便利なスキルがあるなら教えてほしい。
「許してあげなよ、クライシス、この子は悪戯っ子なんだから」
「まあ、お前が言うんだったら、そういうことにしとくよ」
肩を竦めてケーラを見る。その目を見ても、分かる。『今後の目標は?』だろ?
「そうだな、当分の予定は戦争を止めること。たかが動く物質の塊どうしの戦争なんて興味はないが……まあいい。取り敢えず前線はケルとキャルが率先して食い止めている。死者は未だでていない優先すべきは人命だ」
未だ死者がでていないのは奇跡といえよう。それほどまでにケルとキャルが頑張っているのだ。そろそろ交代すべきだと思うのだけどな。まあ〈多数並列存在〉を発動させておこう。
「ク……クライシス……? これは……?」
「ん? これって言っても〈多数並列存在〉だけど?」
ほら、僕そっくりの存在が鏡合わせに動いてるよー?
「……もうなにも突っ込まないよ?」
「なにをだ?」
昔なんて、〈多数並列存在〉20000体どうしでファムと戦ったときもあったけど……まあいいか。
「いけ」
私は〈多数並列存在〉を〈並列思考〉を使って操る。少し頭が痛い程度だが、耐えられるレベルだ。
「さて、後はもう一つの俺に任せよう」
「で、こっちはなにをするんだい?」
「ドワーフの森に行く」
「「「……?」」」
私のことを聞いていた大半は疑問符を覚える。太陽はちょうど北へ下っていく。そうすれば月が出てくるときだ。
「出発は早朝にしよう。その方が効率的だ」
少しでも早く出発した方がいいが、転移者たちもいる。こういうのは体力勝負だ。万全を期した方がいい。
そうして、皆は寝床に着く。僕はというと、惰眠を謳歌しても仕方がないので、私は黒夜の中へ旅経つ。
それに、〈多数並列存在〉の内の一人がやられた。
かすり傷一つで死ぬとはいえ、たかが人族にやられるとは。私も落ちぶれたものだ。
アメリに監視されながらも、駆ける。たまには一人になりたいものだが、アメリさんだ。それも一生叶うことはないだろう。
『余計な事考えるな』
おっと、考えることすらダメらしい。にしてもアメリ、口調強くない? 前世の癖がでてるよ。
『うるさい』
おっとっと。これ以上は黙るとしよう。
さて、ここからはテンラルト樹海だ。前にもここを通ったな。そういえば、ここでケルと出会ったんだな。懐かしく感じる。
キャルには言っていなかったが、テンラルト樹海は真ん中へ行けば行くほど魔素は強まる。つまり、魔物が強くなるのだ。
まあ、こんなことは一部の者しか知らない。なぜって?
そんなの、中心部分に行ったものは等しく死んでいるからだ。この星は化学がある程度発展しているが、治安がいいというわけではない。
否、そもそもとして価値観が違う。人の命は軽々しいものとなっているのだ。国家はそんなにも個人を尊重していない。聖騎士、という名の警察はいるが、捜査、などの厳重な警備など、しないのだ。
まあ、なにが言いたいかとだ。
「この魔物も色んな人を殺してきたってわけか」
俺に襲い掛かってきたタイガーくん。僕とのすれ違いざまに全身複雑骨折にさせといたから動けないだろう。一番セレスなどの〈再生〉が効かない部分が"骨"だ。
さらにLv99の蝙蝠などもいるが、関節をあらぬ方向に動かせば案外避けられる。
残念だったな。私は君たちに構ってる暇はないのだよ! はっはっはっはー
まあ、ここを通らないといけない理由は単純。近道だからだ。あと172km進めば中心だ。
そんな時でも、魔物くんたちはお構いなしに襲い掛かってくる。
『お助けヒツヨー?』
女神様からの天啓が頭の中へめぐる。
「有難いけど……必要はないね」
ここまでくればリズムゲーとして十分楽しめるだろう。
「トンッ、トトン、トントトン、トトトッからの最後はボーン!」
関節を外しては戻しての繰り返し。あとは正面に劣天使が居たので光線弾!
ちなみに劣天使は天使どもの奴隷みたいな感じだ。
知性も持っている感じは見られないし、爆風ボーンでいいよね!
だけど、アイツラもそんなに軟ではない。なぜなら再生を持っているからね!
まあ私は爆風の威力でさらに加速するけど。
「さて」
ここの崖を下れば中心部。
「まあ無視するけどね!」
要るのは狼ちゃん。まあ知性があるから無理に攻撃をしなくてもいいだろう。
『悪しき存在が私になんの用だ』
「悪しきって失礼だなー。こちとら創造主に認めてもらってるんだぞっ」
一言伝えておいて帰る。この領域では分が悪い。なにせ創造主の力が混じっているからだ。
『我が主が認めても、その存在が認められたわけではないぞ』
……んなこと言わなくたって、分かってるって。
「俺自身も、認めたわけじゃないよ」
見事着地。その時、ゲートが見える。……コイツとは、また会うかもな。
あとは行きと同じだ。
リズムゲーでポンポンと行くと、あっという間に樹海を出れる。
このまま真っすぐに進めば、キャル達の所だ。
『焦ってる?』
「いいや? こんなことで焦るなんて、おかしいことだ」
『嘘。普通だったらこんな全力疾走せず『転移』を使ってる』
「……」
『ドッペルゲンガーが一つやられた。その時点で、貴方は計算外になっている』
「……『転移』もできないとなると、なにか"高貴なる存在"が干渉している」
『でも、予測はしているでしょ?』
「まあね」
街に入った。迷惑になりたくはないので、静かに屋根をつたっていく。
月明り。今日は半月だ。こんな日だと、あの時を思い出す。そう───ボロボロの子が、大人に虐められる。目の前の光景のように。
「なんだよおめえ!」
「コイツ庇ってんのかワレェ!」
「ギャーギャー喚くなよ」
僕は目の前の女の子の前に立つ。
時間が押してるっていうのに、いちいち言うなよ。
「『死滅細胞』」
おじさんたちは藻掻き苦しむ。あーあー、そうなるとさらにやばくなるよ。
「さて、逃げようか、お嬢さん?」
この女の子……まずは綺麗にするか。
『……有罪。処さないと』
投稿遅い?すまんやん。今忙しいねん




