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4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
三冊目《監禁魔女王の解放》
79/102

6ページ,人族不可侵条約破綻理由

「ケーラ」


 私は、横向きで彼に告げる。回想はお終いでいいだろう。それに……それ以上は、もうわかった。


 といっても、時間としては一瞬。瞬きが始まり、終わると同時に僕はケーラの回想を呼んだ。


「……これから、どうする?」


「ちょっとあるところに行こうかな」


「……僕たちもついていった方がいい?」


 ケーラは目を擦り、尋ねる。


「いや、ケーラはルーラを私の家まで案内してくれ。部屋は今作った。設計的にはケーラの隣になるから」


「わかった」


 ケーラ達はこれから働いてもらうからな……。


「ッ!」


「どうしたの? ケーラ」


「い、いや、悪寒が……」


「じゃあ、アメリはこっちね」


「ん」


 そんなケーラを無視して、僕はアメリと手をつなぐ。『転移(レザス)』を使って、ここを離れる。


 次に目を離れると、豪勢な飾りをつけたおっさんと目があう。


 ……硬直が続いた。


 先に動き出したのは、目を見開くおっさんだ。


「な、なにやつ! おい、騎士よ! なにをしている! 早くコイツ等を排除せよ!」


 数瞬遅れて側近の兵が動き出す。それらは、僕ら二人に向かっていた。


「心外だなあ」


 左手にエーテルを貯め、兵が一定距離に最大で集まるとき、放出する。赤黒いオーラが兵を包みだし、収束する。


「ぐッ……! なんと禍々しい……! まるで魔族が扱うような『魔法』……!」


 オーラが晴れると、いつの間にか兵はすべて倒れていた。


 さて、あとは…………───ッ!


「アメリ、下がって」


 アメリが一歩下がると、俺はトアノレスを片手に持ち、所定の位置に構える。


 そこへ、光の速さで誰かが飛んでくる。幸い、エーテルの軌道で飛んでくる位置がわかったからよかったが……危険だな。


 アメリは、聖に弱い。魔族よりも、聖に対して有効だ。それで、何回も死んだことがある。その特性は生まれ変わっても変わることはない。


 特に……目の前のコイツは聖が強すぎる。勇者であるケーラより聖が強いなんて、反則じゃないか?


「ヴェルト! きてくれたか!」


 ヴェルト……。〈日月之祭ソーマー〉を使って周りの情報を知る。


 聖人ランキング……一位。【聖天】、ヴェルトレンターヴ。


 現、"星王"ヴァートンの息子にして、歴代の聖人の中でもトップの実力を持つ。


 アメリに近づけちゃいけない人物トップ100には入るかな。


 トアノレスで弾き、彼と距離を取る。


「話を聞いちゃくれないかな」


「星王の命令は絶対だ。星王が排除といったなら、命令通り排除するのみ」


 聞かないかー……なら。


「さっさと終わらせるか」


 トアノレスを鎌状に変形し、ヴェルトへ向かって投げる。鎌の刃が首の皮を削ごうとするその刹那にヴェルトは反応し、避ける。そして、姿勢が仰け反ると同時に、僕は縮地でヴェルトの懐まで攻め込む。


 蹴りをいれようとするが、結界が貼られていた。


 私の頭上には針の形状をしたエーテルの塊が無数に生み出されていた。それをヴェトの方へ指さすと針はヴェルトの結界に突き刺されていく。


(結界が剥がれると同時にカウンターをすれば……)


 ヴェルトはそう思ってるんだろう。そして、結界が剥がれる。


 ヴェルトは予想通り、拳に聖力を込めて降りかかろうとするが、その拳は俺には届かない。


 結界の密度が大きいため、剥がれるときは結界の破片で前が見えないはず。となるとヴェルトは、先程見ていた私の場所をまだそこに居ると"予想"して拳を降りかかろうとしたはず。


 だけど───そこに私は居ない。


「⁉」


(気配はなかった……! そこに居ると確信していた……!)


 ヴェルトから焦りの心の声が聞こえる。


 だけど、そこには居ないんだよ、ヴェルト。


 ハッとヴェルトは後ろを振り返ると同時に、僕の拳がヴェルトの鼻っ先へと届く。その拳が発生させた風圧は、後ろの星王の髪すら靡かせる。


 その衝撃は、ヴェルトも気を失うほどの威力だった。気を失ったヴェルトに、踵落としを決める。


 すると、そこから同心円状に物が壊れる。ガラスは罅が入るどころではなく、破裂。


 だが、その踵落としは寸止めでやめる。これ以上続けてしまうと彼は死んでしまうな。


 アメリが縮地でこちらまで飛びつく。


「大丈夫だった?」


「……怖かった」


「そんな風に思ってないくせに」


 実際、アメリと僕とでは相性が悪いとはいえ、ガチ喧嘩をすると、今の僕の勝率は1割未満だ。


 だから、怖いとか、そんなの毛頭思ってるわけがないのである。


 まあ、存在無価値と人外とじゃあ、比べる価値もないな。


「……また、卑屈になってる……」


「仕方ないでしょ? こんなんなんだから」


 ちなみに、周りを見渡すと、私達以外の人間は気を失っている。最後のが仇になったなー。


 セレマでみんなを癒す。


 まあ、目を覚ますのは先になりそうだけど。


「だけど、事が進めない内は星王に目を覚ましてもらわないと」


 星王に近づき───デコピン。


「あでっ⁉」


「もういっちょ」


「あだっ⁉」


「ん-まだ起きないか……」


 とりまデコピン50連。


「アガガガガガガガガガガガガガッ!」


「お─い起きろ─」


 そうして暫くデコピンってると、星王が目を覚ます。


「おっ、起きたか」


「……は゛い゛……」


 ちなみにおでこは腫れている。ナンデダロウナ。


「お前に聞いておきたいことがある」


「……な、なんだ……」


 言葉使いには気をつけろ? 立場はこっちの方が上だ。そう覇気で伝える。


「な、なんですか……?」


「なんで不可侵条約を破った? 戦争をしない意思があるのなら、そのようなことをする必要はないはずだ」


 元から人間側は、戦争はする気がないと公言していた。魔族とは仲が悪いのは周知の事実。それこそ、不可侵条約を破れば戦争が始まるのも自然だ。


「そ、それは誤解なんです!」


 誤解? キャルたちの情報が間違うなんて相当だ。情報操作でもされているのか?


「説明しろ」


「わ、わたくしどもは魔族に嵌められたのです。不可侵条約を破ったのは魔族の方です。ですが……」


「ですが?」


「事情は複雑なのです。私が簡潔にお答えするとなると、我が兵が魔族の挑発に乗ってしまいました」


 はあ、やっぱり駄目だな。相手の言葉で話させたかったけど、具体的な事を知るには相手の脳を見るしかない。……〈全選択眼カナーマファスト〉『記憶視眼(ろくめがん)』、『想念脳内映像化(キュラマス・ツァルル)』。


 私の脳内に……もっと具体的に……その嵌められたとかいう兵に……


 記憶が混ざる。


 ……うん。わかった。


 どうやら、魔族と人族の国境に、魔族の兵は一歩だけ侵入しようとしてきた。だが、その一歩は空中に浮いているだけで地面に付いていない。


 もちろん、人族の兵は目をぎらつかしている。


 魔族の兵は挑発をし、ついには人族の兵は魔族の兵に手を出してしまう。


 なにやら、その時魔族の兵は人族を侵略するやら家族を侮辱したりなど……


 だが、結果的に暴力をだしたのは人族。それを理由に魔族は脅してきた。人族が不可侵条約を破り、魔族領に侵入してきたという名目に、人族にも、魔族にも告知が渡るようにした。


 まあ、情報が誤るのも仕方ない。


「でも、なんで星王のお前がそれが誤りだと言わない?」


「……最近の人族の政治は信用されていない。そして、なによりもその証拠が存在しない」


 随分と世知辛いもんだな。星王の方も、政治の方も。


「アメリ、ここからでるぞ。また魔族領に行く」

クライシスが強行突破で星王の脳を覗かなかった理由は、ただ単に頭が痛くなりそうだからです。

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