4ページ,遇人
───クライシス家、パル=ヴァデレード───
「さて、と」
家に戻った俺は、やつを探す。が、いない。やっぱりなにか隠しているな。
アメリさんはずっと私の袖をつかんでいる。そんなに今日見た夢が怖いようだ。他に恐怖があるかこの前聞いてみたのだが……
『私に恐怖なんてない。……でも、もしあるとするなら…………あなたが、あなたじゃなくなること」
その言葉に、どう探っても分からない。やっぱりアメリ心はわからない。
エーテルを辿り、奴を探す。私の考えでは、奴はここら辺に……ビンゴ。
「アメリ、スラムに行くよ」
「……他人の恋心なんて、ほっとけばいいのに」
「俺が情で動けない人間なんて、とっくにわかってるだろ」
「……ごめんね」
「謝らなくていいさ」
とっくに壊れたんだから。
僕が歩き出すと、アメリさんは後ろからついてくる。『転移』で一緒に転移する。
そこはあっという間に"元"スラム街であった。そして、とある声も聞こえた。
「ケーラおにいちゃん! こんなにいいの!」
「悪いねぇ、こんなにもらっちゃって……」
「いいんだよ、さつきのおばあちゃん。今まで世話になったんだから」
王がここを正式な都市へと認めようとしても、ここはスラム街。そう簡単に覆せるほどはない。経済に関してはアメリがやっている。
もう少しで大丈夫だが、そのもう少しで救えない命も、もちろんある。
だから、こうやって救おうとする命も、大切だ。
ケーラは話し終わると、薄暗い所へ行く。とても怪しげな雰囲気だ。少なくとも、勇者が行くようなところではないな。
道を進むと、ピタピタと雫が落ち、日の光は遠ざかっていく。進めた先に、人影がある。それは、ベッドで横たわっている。髪は恐ろしいほど整っている。
ここで育ったとは思えないほどに、容姿は優れており、寝ている姿ですら様になっている。
……本当に、人間か?
色欲の悪魔といわれても、納得できる。
辺りは魔素で充満しており、常人の人間では居るだけで廃人になる。
ケーラは、彼女に近づき、声をかける。
「ただいま。調子はどうだい?」
手を取り、彼女の顔を見ると、死人のように動かなかった彼女の瞼が、ゆっくりとあがる。
「おかえり、ケーラ。いつも通りよ、ケーラの方は、最近どう?」
「それがね───」
そこからは、他愛のない話が続く。二人は、とても幸せそうだった。だが、急に二人は黙りだす。会話から察するに、彼女から先に黙りだした。
ケーラは困惑している。
「───いつから、ここは見世物小屋になったのかしら?」
笑いながら目を閉じる彼女に、流石に騙せないかと僕は思った。
『いくよ、アメリ』
姿を隠すセレマを解き、二人に姿を現す。
「クー……?」
ケーラは突然現れた僕たちの姿に困惑を隠せない。
「ようこそ、ケーラのお客さん? こんな住みにくい場所だけど、ゆっくりしていってください」
「いやいや、長居する気はないよ」
僕たちは歩き出す。って、痛い痛い、アメリさん。つねらないで。えっ喋りすぎ? たった13文字しか喋ってないじゃん!
「失礼ですが、名前をお聞きしても?」
「ルーラよ」
「なんでこんなにも魔素があるのに、ここにいるんですか?」
「ルーラは、魔素がないと生きていけないんだ」
ケーラが暗い顔をして答えた。
「原因は?」
「今でもわからない」
勇者は、聖の代表。だいたいの病気やなんやらだったらセレマで吹き飛ばせる。
ということは、病気ではない、ということか。
「なんで今まで言わなかったんだ?」
「……───それは」
「私が言わないで、って言ったんですよ」
ケーラの言葉を遮るように、ルーラは答える。その目は、"ケーラを責めないでください"と訴えているような目だった。
私は肩を竦める。
「まあいいでしょう、俺は喧嘩しにこの場に来たわけじゃない」
「そういえば、クーの来た目的ってなんなのさ」
「そ、れ、は、最近お前がトレーニングに意欲的じゃないからだ」
その言葉を聞くと、ケーラは目を見開く。
「……僕のせいだったか。悪かったね」
「でも、このままだと、なにも変わらない。そこで……」
「「……?」」
僕は、ルーラの目を見る。
「貴女も、私達と一緒に来ませんか?」
「……私も、できるなら、そうしたかったですね。ですが、私はここから動くことができません」
ほう、そう来たか。でも、それだとケーラはここまで来るのに現を抜かし、力が向上しない。
「では、俺が見ましょう」
有無を言わさず陣を展開。こういうセレマを使う診療は陣を使った方が正確性が高い。
「ちょ───……⁉」
何か喋ろうとしても邪魔なのでお口はチャックしてもらう。
『解析鑑定……術式補助……重点集中……相互対比……───異常検索……完了』
……なるほどね。
全てわかったけど、さてさて……どうしようか。
ルーラを見ると、彼女も察しがついているような表情をしている。
「……クー……?」
考え事をしている僕に、ケーラは恐る恐る私の顔を除く。
「いや、どうやらこれは魔素優障害だ」
「魔素優障害?」
オウム返しにケーラは尋ねる。
「通常、魔素を変換してエネルギーに換算する器官があるんだ。その器官の働きが常人よりも何千倍も悪い障害だ」
実際は、違う。そんな障害なんて今作ったデタラメだ。
ルーラは驚いた顔でこちらを見つめている。
「そ、それって……治るものなのか?」
「……任せろ」
若干、人形の扱いは不安だが……。
『アメリさん、補助よろしく』
『かえったら、あたらしい"おしおき"、ついかー』
……勘弁してください。
新たな陣を追加。ベースは、人形の改良をするセレマ。
魔素を還元してエネルギーにする部位だけを改良して……あとは少量の魔素だけで足腰も動けるように……
「よし」
ルーラは、まるで嘘かのように、指を動かす。目は見開き、徐々にその脚を、地面に着ける。
ゆっくりと体が起き上がり、その地面に、体重をかける。
「……ル、ルーラ……?」
信じられないものを見るかのように、ケーラは彼女を見上げる。
ルーラは、立っていた。
その状況に彼女自身も驚いていた。
「ケーラ……?」
「あっ……あぁ……ルーラ……」
彼女に近づき、その体を抱きしめる。雫が、重力に従った。
「これしきのこと、私ができないと思った?」
「っ……! ……思ってないよ……ありがとう……」
ケーラはその体を、大事に、大事に、確かめた。
『アメリさん……これって……まだ物語の後半じゃないよね⁉』
『……』
『なんでこんな展開にしちゃったのよ! もうこれからどう物語を展開すればいいの!』
『パル……なにを言ってるの……?』
あ、セレマとかエーテルとかはカタカナに変えました。
次回はケーラ泣いた理由とか書こうかな