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4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
三冊目《監禁魔女王の解放》
73/102

三章プロローグ【永遠の愛とは】

※【caution、caution】注意、苦手な人は本当にこの話は苦手だと思いますので、以下のコンテンツが大丈夫だと言う人はご覧ください。

・ヤンデレ

・殺害

・依存

・強制

・異世界要素ゼロ


この物語みてる時点でもう大丈夫だと僕は思いますが、苦手だったらやめてください。

 ───(いち)回目転生───


 人は、沈めば沈むほど助けられたときに依存する。また、あの時の恐怖を思い出さないように。


「パル、お茶を頼む」

「はい」


「パル、私の後についてこい」

「はい」


「パル、食事を用意してくれ」

「はい」


「パル、殴らせろ」

「はい」


「パル、私と一緒に寝ろ」

「はい」


「パル、私の子を孕め」

「はい」


「パル、ずっと私の傍にいろ」

「当たり前です」


「パル……一緒に死のう」

「貴方のいない世界など、居なくても意味はありません」


 繋がりが強ければ強いほど、それは沈みゆく沼のように流れ、溢れる。


 空は、狂うほど赤い。明るく、逃げ行く人々を照らすが、耳をつんざくほどの轟音が大気を震わせる。


 またひとつ。爆音が轟く。


 二人は空を見上げ、その隕石を見た。その隕石は、飛行船から落とされる。ゆっくりと、小さな鉄の塊が二人に吸い込まれる。だが、彼らは拒否するような素振りは見せない。


 むしろ受け入れるように手を繋ぎ……それは、沈み込むように、辺り一帯を包み込んだ。


 ───十回目転生───


 糸は繋ぐが、面倒となり、解かれる。


 転生しても、記憶は引き継がれない。


 依存など、ひと時の快楽である。それは、クライシスが見つけた一つの結論でもある。


「やっぱそう思うんだよ」


「いや、なにいっちょ前に僕悟ってる風醸し出してんだよ、きもいぞ」


「だってさ、依存なんかしちゃったら負けだって」


「ふーん、そ。あっ、私こっちだから、じゃあね」


「おう」


 家に帰ると、それは暖かい家族が待っている。ドアを開けると、鼻を刺激する料理の匂いが部屋を充満し、家族には帰ってきていることを伝える。


 そして、自身の部屋のドアを開けると───


「待ってた♥」


 そこに居るのは、家族でもない……ただの友人だ。


「……なんで部屋にいるんだよ」


「だって……家が近いんだから寄ってもいいでしょ」


 そう、ただ家が近い同士の二人。それは、珍しいとされる異性の幼馴染というやつだった。


「はあ……一体誰がお前を俺の部屋に入れたんだよ」「貴方のお母さんよ」


「……」


 頭を押さえる。


(母親───!)


 心の中でクライシスは叫んだ。


「でさ~」


 明後日の方向に目をやっていたが、それを彼女に戻す。そこは、スマホを弄っている彼女が居た。


 顔はいつも通だが、何か違う。それは、恐怖さえも覚えてしまうようだった。


「この■……誰?」


 そこで、クライシスの意識が途切れる。


 次に起きたのは、もう日が暮れたころだ。部屋には電気が点いておらず、暗いままだ。クライシスの視界は、ぼんやりとしており、目の前には誰かが居るとだけ分かっていた。


 体が、寝起きなのかフワフワと浮遊感が湧いている。否、これはベッドの上にいるということ。


 クライシスは、長年の経験にしてそう結論付けた。


「ねえ……■■」


 いつも聞いていたはずの自分の名前が、どうにもドロドロとして聞こえる。それは、人生で一度も感じたこともないはずなのに、心がそれを慣れているような気がした。


 人生では、気持ち悪いと嫌悪するはずが、心では、どこか快感を覚えていた。


 自身の肌よりも暖かい手が、お腹を伝い……頬にまで届く。そこまでで、ようやく目の前に居る相手が見慣れた幼馴染だということに気づいた。


「あの■のこと、好きでしょ」


 冷たい部屋だが、その言葉に心臓がドクンと跳ねる。図星、といわれることだろう。でも、それだけで心臓が跳ねたわけではなかった。



 その声が



 その手が



 その顔が




 その……瞳が

 



 まるで自身の全てを握られている感覚となった。真っ先に考えた感情は……恐怖。生まれたときから一緒だった幼馴染は、まるで別人になったかのように変わっていた。


「はっ…はっ…はっ…」


 息が荒くなり、気が動転する。だけど、その視線はずっと幼馴染に向いていた。


 思考し、結論付けた感情は『恐怖』。されど、心の中にあった本心は───『歓喜』であった。

 

 クライシスに、そんな性癖などはない。そんなのは、生まれてこの方感じたことなどない。


 だが、目の前の現状に、そう考える他なかった。


「い、いやだ」


 心では、ずっと喜んでいる。幼馴染の次の言葉を待っている。しかし、クライシスの思考はそれを拒否しようとした。危険と判断した。


「……そう」


 冷酷に、残酷な声で張り詰めたその声は、クライシスを逃げさせる理由に充分だった。


「……無駄だよ」


 だが、四肢には手錠が嵌められていた。ガチャッ、ガチャッと鉄の音と、冷たい幼馴染の声がクライシスの耳に伝わる。


 視線は、未だ幼馴染に固定されたままだ。


 ゆっくりと、幼馴染の顔が近づいてくる。そこは、右耳の隣でピタッと止まった。


「私に慣れるまで、犯してやるから覚悟しろよ」


 ───百回目転生───


 クライシスには、昔からずっと心の中に人が住んでいた。その人は、いつも喋らない。ただ、黙ってこちらを見つめるのみ。


 だけど、その人が過敏に反応するときがある。それは……『誰かが話すとき』。


 その時は、心の中に居る人は徐々に近づいていき、首を絞めてくる。


 ある時。それは、成人となってからの出来事だった。


 この世界は、成人になると心の中に宿っている精霊を体外へ出し、契約を結ぶということだった。


 遂に、クライシスの番となった。


「■■■■!」


 クライシスの名前が呼ばれる。そして円環の図が描かれているところの真ん中に立たれる。それは光り輝き、クライシスの心臓から大きな人型が形作られ、やがて肌などが浮き彫りとなった。


 見たことがある。


 それは、クライシスの率直な気持ちだった。そう、ずっと心の中に居た男がそこに立っていた。


 筋骨隆々、堀の深い顔立ち。なんとも懐かしき雰囲気を(かも)し出していた。


 その男はクライシスを抱きしめる。


「「「⁉」」」


 そこにいたクライシスはもちろん、周りの者さえも驚く。


「ここじゃあ、ダメだ。他のところへ移動しよう」


 その精霊、もとい男はクライシスと一緒に転移する。転移した先は、辺境の荒れ地。息をすることすらままならないその地を、男は一瞬にしてオアシスへと変貌させた。


「……ここは……?」


 クライシスは自分のおかれている立場が理解できずに目の前の精霊に聞く。


「一生俺たちが住むところだ」


「え?」


 ───千回目転生───


 昨日(さくじつ)、クライシスには彼女ができた。しかし、クライシスは早々に別れようかと思っていた。


 その原因がこれだ。


 クライシスは連絡手段の一つであるスマホを見る。そこには、『999+』と書かれていた画面が。


「はあ……」


 思わずため息を吐く。たった3時間見ないだけでこれだ。嫌々ながらもその画面を開く。今も連絡が続いている。

『見てるでしょ?』『ほら』『はやく』『なんで?』『なんで?』『おい』『返信しろ』


 どんどんと送られていく文章は、苛立ちが隠せないようだ。慌ててクライシスは返信をする。


 家に帰ると、そこは真っ暗で人気などあってもないようなものだった。一人暮らしなので当たり前なのだが。


 しかし、誰もいないはずのリビングを見ると、そこには包丁を持った彼女がいた。その目は虚ろで、どこか遠くを見ていた。


「……私、我慢できないの」


 ゆっくりと首を動かし、こちらを見つめる。


「貴方が他の(クズ)と喋るたびに」


 一歩。


「貴方が私以外を見るたびに」


 一歩。


「貴方が……私から離れるたび、私は心臓が痛くなるの。ほら、ここ」


 一歩と進み、クライシスの前に来た彼女は、クライシスの手を取り、彼女の胸に手を当てられる。


 そこでは、狂うほどの鼓動が何回も叩いていた。それは到底、緊張からでてくる心臓の鼓動では決してなかった。


「ねえ……? ───死んで?」


 優しく、ゆっくりとその刃がクライシスの心臓へと至る。血も出ず、完璧なほどまでの刺し技。まるで、長年の達人のような武技。


「…………あっ…………………………」


 クライシスは、呆気にとられた顔をする。


 そんな彼に、彼女は告白をしてきたときのような恍惚とした表情で(わら)った。


「大丈夫だよ、私も一緒に死ぬからね? いや、一緒に死のうね?」


 クライシスは、情けない声と共に、意識はそこで切れてしまう。


 ───千一回目転生───


 クライシスは、幼稚園にいた。年はまだ、齢5歳。そこで、一人の男性と出会う。そう、時刻は昼時。皆はお昼寝の時間だ。クライシスはトイレに行きたくなり、と言っても、先生には言うのが恥ずかしくなり、一人でトイレの前まできたのだ。


 目の前にいるのは、不審者(成人男性)。その背丈は、2mを超えている。5歳のクライシスでは、顔を真上に見上げないと、胸ですら見えない。


「ようやくみつけた」


 優しい声でしゃがみこんだその男は、クライシスに飴を見せた。


「これ、食べる?」


 優男の顔立ちであるそれは、整い、一目でイケメンといっていい人であった。


 無意識に、クライシスはその飴を手に取る。そして、袋を開けると、魅了させるような、今にも齧り付きたい見た目をしていた。


「食べていいよ」


 にこりと笑うその顔は、実に(くら)く、幼き子供に見せられた笑みでは到底思えなかった。しかし、クライシスの視線は、もう飴にくぎ付けで、そのお菓子に、齧り付いた───刹那。クライシスの意識は途切れる。


「やっぱ効いたね~。即効性のサリン。ちょっと改良して子供だったら即死レベルになってるけど。十何年も掛けた甲斐があったよ」


 男は、クライシスの顔を見つめて、もう聞こえないその耳元で囁く。


「何回でもしてあげるよ♥ ……■■■?」


 ───千二回目転生───

 刺突死


 ───千三回目転生───

 殪死(えいし)


 ───千四回目転生───

 相対死(あいたいじに)


 ───千五回目転生───

 縊死(いし)


 ───千六回目転生───

 客死(かくし)


 ───千七回目転生───

 餓死


 ───千八回目転生───

 骨折死


 ───千九回目転生───

 ショック死


 ───千十回目転生───

 水死


 ・

 ・

 ・

 ・


 計、一万八千五百六十四回。それは、全て片思いの相手が原因で死亡した回数である。


 だが、遂に転機が訪れる。輪廻冥界領域りんねめいかいりょういき。そこで転生の法則を弄ることに成功した。


 そう、記憶を引き継ぐことに成功した。


 ───(いち)万九千五百六十五回目転生───


 クライシスは、まず生まれ落ちると同時に、思考した。そう、あの者の存在だ。今のクライシスは性別は男。例外はあるが、大体はクライシスの異性となる者がクライシスを殺す。そして……大方、その殺す者はクライシスと同じ───転生者である可能性が高い。


 まだ目的がわからない。だって記憶が引き継がれるのは今回が初めてだ。しかし、あの者は記憶が引き継がれている可能性が高い。そうなると、狂っているしか思えない。


 一万回も……ひょっとしたらそれ以上の転生を繰り返しているのだ。しかも、記憶を引き継がれている状態で。


 元より、一万回も殺されているのだ。狂っている他ない。


 クライシスは、今まで過ごしてきた生で、この生が一番集中したといえるだろう。


 ───24年後───


 24歳。クライシスが覚えている限りではこの一万回転生の中で最長に生きていた。


 未だに現れる兆候は現れない。


 そして、この生。一回として、殺されることはなかった。


 その次も、その次も。


 いつしか、クライシスはあの者を探すことにした。その次も、その次も。どの生も、必ずあの者を探すことにした。


 古い文献で、読んだことがある。神の言葉で、『探し人アメリ・ヴィネラ・リール』。クライシスは、その者を、"アメリ"と呼ぶようになった。


 そして、遂に二万回の転生を迎えることとなった。


 未だに、アメリのことがわからない。あれっきり会えていない。なのに、どうしてもアメリに会いたい。君を知りたい。クライシスは、アメリに()()していた。


 その日も、クライシスは歩いていた。そこは、アメリに初めて会った時と、同じような場所で───彼女のような、黒いドレスを……。



「……え?」



『彼は、太陽を欲しがっていた』彼女は太陽を見ていた。




『彼は、いつも私をみていた』彼女は、(クライシス)に微笑んだ。




『彼は、私の隣にいた』(クライシス)は、彼女へ走った。



 (クライシス)は……彼女(アメリ)は……僕ら(二人)は……


 僕たち(二人)は───抱き合った。


「アメリ、アメリ、アメリ、アメリ……」


「うん。■■■」


 どうして、クライシスの名前を知っているのか、というのは、もはやクライシスには関係なかった。


 どうして、彼女は、自分がアメリという名前で呼んでいるのか、クライシスには関係ない。


 今は、こうしていたかった。ずっと、これを望んでいた。


「家に戻りましょ? ……私たちの家に……」


 僕たち(二人)は家に帰った。そう、二人だけの家に。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 ***


 隣で眠るクライシスを、アメリは撫でた。


「ふふふ……ははは……やった……やっと手に入れた」


 恍惚とした表情で、アメリは嗤う。


「普通の方法では、貴方は手に入らない。手に入ったとしても、それは束の間の幸せ。永遠の愛を手に入れるためには貴方を、私に依存させる。それしかないと思った。だから……まずはいつも貴方を殺してくる相手だと印象づけさせ、貴方が記憶を完璧に引き継ぐその時に、私は居なくなる。……すると、貴方にとって私は謎でしかない。……貴方は、私が何者か分からなくなり、私を探し始める」


 夢は、追い求める内に、それは夢ではなくなる。目的ではなく、手段となり、習慣となる。どれも一緒の話だ。


「もはや、私を探すというのが習慣となる。私に……依存する」


 アメリ、という存在をいつまでも探し続けることで、相対した時に、なにもかもがどうでもよくなる。


「でも、このままでは終わらない。まだ()()()


 アメリは、クライシスに顔を近づけさせ、狂った瞳でその寝顔を見つめる。息は荒い。


「……ずっと、私の隣に居てね? ……()()()()()?」


 狂った愛も、また永遠の愛なのだと、アメリは結論付けた。そして、永遠の愛など、ただの妄言に過ぎないとも、結論付けた。

永遠の愛などないと作者は思いますが、この世は多様性、多様性と宣わっていますので、ちょっと自分と違う考えを取り入れてみました。


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