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4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
二冊目《自称皇帝とジャパニーズ転移者》
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二章エピローグ【勘違いの異世界帰宅】

 ロビーが目を覚ましたのは、寝室のベットだった。

 目を覚ますと同時に、傍にいた皇帝はロビーに抱き着いた。


「エペラー……?」


 ロビーは、未だに理解が追い付かなかった。でも、ただただ目の前にいるエペラーを強く抱き返した。


 その後の話は言わなくても分かるだろうが、説明しよう。


 帝国は今までのことを払拭するが如く、改革を始めた。


 裏で奴隷商売に関連していた者たちは調べに調べられ、帝国憲法によって裁かれた。軽いものでも懲役は免れないようだ。


 そして、奴隷商で買われた奴隷も、解放できるところはできるだけ解放した。中には、本人の強い希望で奴隷をやめようとしない者もいたが、ソイツは買主の養子縁組ということで処理されたらしい。


 あと、行方不明や死体で発見された者も居た。もう少し、早ければ……。そんなことを考えていればアメリさんが癒してくれた。


 受刑者の方なのだが、帝国の牢屋は最先端の<法>の技術が施されており、脱獄する者はどんな強力な者でもしないそうなので安心だ。


 エペラーは、一連の事件が公に曝され一線を退くしかなかった。そして、その幹部たちも。


 じゃあ、一体誰が新しい皇帝を務めるかというと───


「えっ⁉私っ⁉」


 意思と魂の切り替えに成功したフレアが思わず席を立つくらい驚いた。


「頼む、フレア。皇帝をやってくれ」

「え……でも私、外交とか分からないし……(まつりごと)も務まらないから……」

「そんなのはいい。私は、一線を退いたが、皇帝代理職に就いてもらわせてもらった。他にも私の元接近が陰ながらに就いてもらった。お前ひとりではない」


 エペラーが頭を下げながらフレアに説得をする。


 皇帝代理は、皇帝が諸事情で不在のときに代理で仕事をする職。公にでるのは殆ど無いに等しい職業だ。一般人は、元皇帝が仕事を続けているなんて知らないだろう。


「う、うーん……」

「フレア、君は王国でそのコミュ力を遺憾なく発揮していたと情報は知っている。その明るい性格で、民を導いてくれ」


 さらに深く頭を下げるエペラーに、フレアは頭を悩ませる。


 そして、喉からかきでるような声で、「は……はい」とエペラーに伝えた。だが、苦しそうな声を出したはずが、顔はニヤニヤが止まらずにいた。


 フレアは、褒められるのが慣れていないのだ。


 つまり、押しに弱い女だ。


 そんなこんなで、新皇帝はフレアということになった。まあ、フレアは戸籍上、これまでは表にでることはできなかったが、エペラーの祥事が表にでたことでフレアの存在も表にでれるようになった。


 だから、その判断は間違っていなかったと思う。


 事情を知らない人はエペラーの事件の被害者が下剋上を起こした、という考えが生まれるのだから、悪くない。


 さて、あとは。


「松林」


 全ての元凶であるコイツだ。


「知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない」


 さっきからこのままだ。目は狂ったままで、知らない、としか言わない。


 困ったやつだな。


 縛られている松林の髪を掴む。


「なあ、別にまだ俺は何も喋っていないんだが?」

「俺ハッ!何モ、知ラナイッ!」


 松林はこうして抵抗しているだけだ。これはなにかおかしい。新真との対決を見ていたが、コイツは冷静だったはずだ。こんなに取り乱すということはない。


「もう戦うのは勘弁だ。だから、手短にするぞ」


 松林を投げる。そして、壁に当たった穴が、陣の形を模した。そこに<力>を込め、陣を展開する。


「『陰潜引摺(グデラべ)』」


 松林から黒き瘴気がモヤモヤと煙のように上り、松林を覆いこんだ。


 ───この気配は……


「何しに来た?───<■■■■>の住人」


 コイツは、ケーラの戦いに干渉してきた外の世界の住人。


 まさか、また来るとは。


『お前は───……誰だ?私は■■■の命で■■■■を達成するためにここに来た。もう用は済んだのだから構えるな』


 流暢な口どりで話すその瘴気は、不気味なほどに衰えた声だった。


 まるで、死人のような声だ。


「いや、いい。帰るならさっさと帰れ。■■■(ゲート)ならもう作ってある」

『感謝する』


 そんな言葉だけ済ませ、その場の瘴気は消えた。


「……いったい、なんだったんだい?今のは」

「いや、知らなくてもいいさ。───まあ、私に付いてくるのだったら、いやでも知ることになるがな」


 ケーラはその言葉を聞くと青ざめたように苦笑いをした。


「クライシスさま~!」


 ケーラと話していた時、上空から声が聞こえた。この音波は───ナイか。しっかりと迎えができたようだな。


「クアアアアア!」


 それに続いてグリフォンも降りてくる。エルフの里に行く際、エルフを襲っていたグリフォンだ。


「アメリさま~、おつかれさまでした~」

「うん、ナイもお迎えできてて偉いね」

「子供扱いしないでください~!」


 ナイは、僕のことを無視してアメリの方へ一直線に向かった。立場的に向こうが上なのだろうか。


「クエッ、クエッ」


 グリフォンは、倒れている松林の顔をつついている。どうやら、あの時餌をあげたので顔を覚えられたようだ。グリフォンは賢いからな。


「んっ……ん」


 松林は、パチ、パチと瞬きをすると、顔をつついていたグリフォンと目が合う。


 その瞬間───松林は全力で後ろに下がった。


「な……なにこれ……?グリフォン……?どういうこと……?」


 松林は頭いっぱいの混乱を見せていた。どうやら今の状況が理解できていなようだ。


「おい松林」


 僕がそう声をかけると、松林は意味が分からないといった風に呟いた。


「えっ、美人……なんで僕の名前知ってるんだ……?」


 ……?どういうことだ?


「松林」


 新真が声をかけると、松林は待ってましたと言わんばかりに新真に縋りついた。


「新真くんっ!これっていったいどういうこと?こんな変なところに連れてこられて……僕の服だってボロボロだし!」

「松林……」


 松林の言葉がわからないといった風の顔で、新真はこちらに顔を向けた。松林は嘘をついていない。ということは……


「どうやら、記憶の大半が失っているようだな。そして、大方性格も操られていたようだ」

「はっ……?」


 新真が信じられないといった風に松林を見た。しかし、松林はなにも嘘はついていないというかの如く綺麗な眼差しをむけていた。


「クアッ!クアッ!」


 そして、松林の後ろに、大鳥の影が。


「えっ、ちょっ!なんで、またこのグリフォンが⁉」


 松林は恐怖のあまりそこから逃げるが、グリフォンは楽しい一心で松林を追っかけた。


「なんで追いかけてくるの~!」


 それは、ただグリフォンが遊んでいるだけだからだ。


「ワ~⁉???‼‼」


 松林は、ここを駆け回った。


「で、あの姿を見て、まだ松林を処罰する気になるか?新真」

「……ねえよ」

「よかった」


 どうやら、一件落着みたいだ。


「みんな!見てないで助けて~⁉」


 そこから、嘘だったように皆の笑顔が響く。どうやら蟠りも無くなったようだ。


 ***

 ───翌日、トアノレスの家、玄関───


「さて、これが異世界へ帰る扉だよ」


 翌日、僕は一個の扉を指さす。なんの変哲もない扉。しかし、この扉は界渡りの陣を刻んでいる。


 そして、座標も指定したから安心だ。


「御別れだな」

「ああ」


 転移者組と、現世組は一生会えないかのように話し合っている。


 一時的な別れなのに、どうして皆そんなに悲しくなるんだろうか?


 まあ、友との別れはいつでも寂しいっていうし、そうなるのかな?


 暫くしても、皆そのままだったので、僕は声をかける。


「みんな、時間だよ」


 そう声をかけると、転移者組は渋々扉の向こうへと行く。そして、扉を開けると、そこは元の世界だった。


「向こうの時間軸は皆が強制転移されてから一時間後ぐらいにしたから。あと人目のつかない近場の山に転移させといたから、安心してね」


「……ありがとよ」


 新真が、珍しく感謝の言葉を伝えた。

 だから、僕は目を見開いた。


「ああ、じゃあ、そろそろ皆学校に戻りな」


 私が、扉を閉めようとすると、その直前に声が聞こえてきた。


「クライシスさん!」


 夕夜の声だ。


「今まで、本当にありがとうございました!」


 その言葉に続いて、転移者組全員が頭を下げる。


「「「お世話になりました!」」」

「……立派に育ちな」


 それだけを言い、僕は扉を閉めた。


 そして、アメリたちの方を向くと、アメリ以外、泣きそうな顔をしていた。


「どうした?皆、そんな今にも泣きそうな顔して」


「だって、もう別れかと思うと……」


「まだ、皆に話してないことだってあるんだし……」


「これで、もう会えないとなると……ね」


 俺は、その三人の言葉に疑問を覚えた。そして、数瞬の思考の末、ようやく僕らの言葉がすれ違いをしていたということに気づく。


「あっ」

「「「……?」」」


 私は笑って、またドアノブに手をかける。


 このドアは、<法>で作られたドアだ。そう、『空間扉(レレドア)』だ。界渡りをするには特殊なことをしなければ行けないが───頭の中で想い浮かべば、()()()()そこへ行ける。


「言ってなかったけど───」


 そして、ドアを開く。


「───何度でもここへ行けるからね?」


「「「……え?」」」


 転移者組、現世組の言葉が、全員合致した。疑問の声が、界を渡り、響き渡った。


「そういうことかー、新真くんが私に向けて、め・ず・ら・し・く感謝を言っていたのはー。なるほどねー。あんなに普段は恥ずかしくて言えない一言も───」


 新真は、ワナワナと体を震わせ、そして叫んだ。






「こ、この嘘つき野郎があああ!!!!!」






 俺、嘘ついてないんだけどなあ……?

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