表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
二冊目《自称皇帝とジャパニーズ転移者》
70/102

33ページ,いじっぱりな剣バカ

 ずっと、剣ばかりをめざしていた。私の妻であったかつての婚約者は、私のことを昔っから『いじっぱりな剣バカ』なんてからかって遊んでいた。


 だが、現実何てそんなに甘いものではなかった。剣だけでは、突き進める限界がある。


『お前も、もう大人だ……チャンバラごっこなんてしてないで、ワシの座を継げ……』


 死に体でベットに寝たきりのお父様は、死にゆく最後に、そんな一言を残した。私は、憤怒に満ちた。こんなにも努力し、頑張ってこれた剣術を、チャンバラごっこ?


『ふざけるな!』


 そんな言葉を、冷たくなった父親に吐き捨てた時もあった。


 それほどに、剣術がなくなった私の心に、(あな)が開いた。


 だけど、それもすぐに婚約者が埋められていった。私が皇帝の座を継ぐと同時に婚約者───ロビーと結婚した。


 決して幸せだけじゃなかった。苦しいことや、悩みに悩み切った夜だってある。でも、そこには、いつも隣にロビーがいた。


 だが───


『貴方のその政治にはうんざりしました。それよりも、私たちは"カシス教"を信仰することにします。無能な貴方より、世界を救う神の方に、皆はついていきますよ』


 前皇帝の腹心であり右腕であったドミニ・クリスタルとそこに付いたドミニ派は、なんとも怪しい宗教集団に入りびたり、我が城を火の海にした。


 後に捉えたドミニの供述によると、フレアの問題の際にドミニ率いる放棄派の考えを無下にしたのが最後のトリガーだったらしい。


 もちろん、ドミニは即刻処刑した。そしてその仲間たちも。


 皇宮の復興が終わって、誰かが横に居ないことに気づいた。もちろん、その前から気づいていた。でも、気づかないフリをしていた。ただのピエロだった。


『なあ、ロビー……答えてくれよ……なんで、傍にいないんだよ……』


 あふれんばかりに、力が込み上げてくる。しかし、手に握っていた黄色い首飾りだけは壊したりなどしなかった。いや、どれよりも大切に、丁重に扱った。


 この黄色い首飾りは、ロビーの誕生日に私が贈った物だった。


『なんでこれ?』


『首飾りが黄色っていうのは、"美しい"を意味しているんだ。だから、これを選んだ』


『えへへ、そんなこと思ってたんだ。嬉しい、ありがとう』


『こちらも、喜んでくれて嬉しいよ』


『……ほんとに、貴方って───』


 何度、黄色い首飾りの上に雫が落ちたことか。

 何度、隣にロビーが居ることを望んだことか。


 何度、何度、何度……。


『……なんで、なんのメリットもない私を救ったの?』


 実際、フレアのせいでロビーが死んだといってもいいだろう。そんな意見もある。


 だが、それは私達がさらなる軍事力を求めてクローンを作ろうとしたのが間違いだ。だから私はなるべくフレアに傷つかない言い方にしようと思った。


『メリットなら、ある。こうして圧力をかけてあの老人たちを黙らせたのも、お前を我らの国の戦力にするためだ』


 ぶっきらぼうに、そう答えてしまった。


 ある日、どこからか帝国の電波受信装置のところに通知が飛んできた。その受信は、幾度となく続いた。そして、ある程度のことがわかった。


 電波を送信しているところは異世界であること。その異世界には魔法が一般化していないことなど。色々なことが知れた。さらに、その異世界のやつは自分の世界の住民を私たちの世界へ招くというのだ。


 しかも、ソイツらを武力として迎え入れていいというのだ。こちらとしては願っても無い。


 数日後、私が気づいた新たな技、ステータスでは映し出されないため、自分が名前をつけた。【皇の力】と。


 それを用いて、異世界人に自分の権威を示したのだが、どうもうまくいかなかった。


 権威を示すというよりも、恐怖を植え付けてしまった。さらに、この異世界の住民を、より私達の世界に順応させるために、<法>で改造しようと思ったが、それがキーになってしまった。


 クロウ・マツバヤシから、異世界人が逃走を図っていることを知った。


 私は【皇の力】を使ってなんとかしようとしたが、無理だった。


 なんでこんなことをしようとしたか。それも全部、ロビーのためだった。


 ロビーが亡くなって数日後。僕の所へ、へんなフードを被った集団が来た。


 ソイツらは、目の前で死んだ鳥を生き返らせた。もちろん、それだけではまだ私は怪しんだが、近くに居たフードのやつをすぐに殺してまた蘇らせた。


 流石にそんな狂気的な行動を見せられたら、死んだ人間を蘇らせることは疑うことなどできやしなかった。


 だから、私はあの日から、ロビーを生き返らせること一心に教団と協力した。


 ───それが、ロビーが死んだ原因となったカシス教であっても。


 絶対に約束を破らないようにカシス教と誓約を結んだ。これは私の<法>で、作ったものだから誓約を破ることはできない。


 これを条件に私は働いた。どんなに人道の離れたことでも、ロビーの顔を思い出して行ってきた。


 流石に、奴隷などは踏み込めなかった。それを察してか、教団の方もそこを突っ込んできたりはしなかった。


『まあ、神にも縋る思いっていうもんがあるもんな。それは同意する。けど……一体、これはどういうことだ?お前の国では時代遅れの奴隷制度を採用している。それに他の国へ奴隷を連れて、テロ行為をする』


 皇宮に異世界人を連れてきたコイツが、急に意味もわからないことを言っているのは、流石に動揺した。そんなの、見たことも聞いたこともなかったからだ。


 だが、私は生粋の意地っ張りだった。そんなことはないと否定したかった。だって、私の国でそんなことが行われていることが、認められなかった。


 そう思っていたのだが、口では歪んだプライドが開いてしまった。


『それがどうした?そんなもの、あの二人と比べるなら天と地の差ほどのある』


 なんでこんなにも饒舌に口が動くのだろう。なんでこんなにも嘘が喋られるのだろう。


 ───オレって、いつからこんなんだったんだ?


 そんな疑問が頭の中で浮いてい来る。


 本当は、対戦するつもりなんてなかったのに、またもや変な口が走り、戦うことになってしまう。


 さっさと終わらせるために、【皇の力】を使用したが、それをアイツは性質ごと見抜いた。


 一生懸命、研究した【皇の力】を一瞬にして理解したアイツに、純粋に嫉妬した。頭に血が上り、冷静な判断が取れなくなった私はデウスエクスマキナを発動させた。


 この機械は、太古の昔、まだ魔力が未発達で科学が進んでいた時代。空気中のマナを利用し、莫大なエネルギーを生み出す兵器を開発した。


 マナ兵器。デウスエクスマキナは、その兵器の中でも最新式で、マナ融合の温度を、マナ分裂で生み出し、さらにそのマナ融合のエネルギーの余りでマナ分裂を発生する。


 三回の爆発エネルギーを生み出すことができる。


 それを起動した瞬間、はっと我に返った。しかし、もう手遅れ。もう発動間近だった。


 だが、体は高笑い。まるで、この状況を望んでいるかのように。


 その後のことはぼんやりだ。デウスエクスマキナの発動に失敗して、絶望していたのだけは覚えている。他に、どんな感情があったのかは分からない。


 私は、本当にどうなったんだ?


『では、よりよい関係を』


 あからさまに怪しげな笑顔をする教団の一人の顔を思い浮かべる。そして、確信した。あの時点から、私はおかしくなっていた。


 口調も変化し、思ってもないことを言う。昔からそうだったが、最近は特に酷い。もしロビーのせいだったら、もっと昔にこの症状は出ていると思う。


 そういえば───


『こちらにもその誓約を確認させてください。………………はい、ありがとうございます』


 誓約を教団と交わすとき、教団に<法>の誓約を渡した。もしあの時、<法>が改竄(かいざん)されていたとしたら?


 だって、あの時から、私は───


「おい」


 突然、発せられたその声に、顔を上げる。


「お前が、まだ武人だという覚悟があるというのなら、その剣を取れ」


 下を見ると、いつのまにか剣が置かれている。

 その剣は、その剣は……


『いじっぱりな剣バカ!』


『そのあだ名言うなって言ったろ?……で、なに?』


『これ、あげる』


『……なに?剣?』


『……ずっと、大切に使ってね。どこまでも不器用な私の婚約者さん?』


 ……幼いころ、妻が誕生日にプレゼントしてくれた剣と似ていた。


 たったそれだけで、私の───オレの活気は戻っていた。

 気持ちが舞い上がり、口角が上がった。


「いいのかよ、オレにそんなチャンスを与えて」

「ああ、かかってこい」


 ぎこちない素振りで剣を握る。何年ぶりだろうか。そんな、なんも鍛錬もしていない剣術で目の前のコイツに剣を振り下ろした。


 だが、それもあっという間に弾かれる。なんども、何度も、なんども。


 慣れ始めた剣をスムーズに動かそうとするが、やはりうまくいかない。


 やっぱり、こういうものか。


 こんなにも、力があっても、溢れていても、目の前のコイツとは天と地の差ほどの技術があった。


 やっぱり───お前のような力があれば、救えたのか……?


 アイツも、あの子も。


「まだ間に合うさ」


 その声が、ひどく優しく聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ