表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
二冊目《自称皇帝とジャパニーズ転移者》
69/102

32ページ,皇の力

「……」


 目を見開く。そうか、そんな感じか。


「過去を見たな」

「流石に鋭いな」


 皇帝(コイツ)はなにかと鋭い。いや、スキルかなにかを使っているのか?


 にしても、怒りによってこんな力を手に入れたのか。全く、世界の管理者たちは……。アイツらは、情に興味があるからこういう情の厚い奴に力を授ける。


 いや、そういう問題でもないか。この世界の絶対法則があれなんだから。


「私の過去を探ったなら……この気持ちがわかるよな?」


 静かに、エペラーは語り始めた。てか、勝手に言い始めた。え、これから戦うっていうのにそんな一人語りして───「この、私の中に渦巻くこの心が」……勝手に続けてどうぞ。


「昔、仲間に裏切られた、私の、右腕だった。そんな心から信頼していたものに、私の大切なものを殺した。二つ。その気持ちが、お前にわかるか」


 分かるさ。そんなん。なにを当たり前のことを言っているんだ。


「あれから、私はなんでもした。あの二人を取り戻すように。そしたら、ある教団に出会った」

「まあ、神にも縋る思いっていうもんがあるもんな。それは同意する。けど……一体、これはどういうことだ?お前の国では時代遅れの奴隷制度を採用している。それに他の国へ奴隷を連れて、テロ行為をする」


 俺は、偽りの怒気を込めてその言葉を放った。でも、深紅を纏う皇帝はそれを物ともせずにフンッと鼻で笑った。


「それがどうした?そんなもの、あの二人と比べるなら天と地の差ほどのある」


 見下すようなそんな言い方と共に、エペラーは虚空に手をかざした。

 それは、僕を勧誘するような仕草。


「どうだ?お前は私と同じ思考回路している。私の仲間にならないか?」


 その言葉は、とても威圧があり、思わず油断したら同意してしまいそうな感覚があった。しかし、そんなヘマなんかするはずがない。


 ……はあ、虚言が。


「馬鹿だろ」


 そんな侮蔑たっぷりの言葉を目の前の男に言った。これは本当のことを言った。全く、そんなことをして、本当に亡くなった二人が喜ぶのだろうか。そんなので喜ぶなんて、居ないはずだ───いや、居たわ。そんなやつ。


 そう、私には心当たりがあった。亡くなった相手の事を思って人を犠牲にして喜ぶ奴。


 それは、皆さんも御存じのアメリさんだ。


 今はそんなことしないと思うけど───昔はヤバかった……。いや、今はそのことを思い返すのはやめよう。


「そうか、前言撤回だ。お前とは、気が合いそうにない」


 刹那。エペラーの全身に陣が包み込み、エペラーの姿が消える。僕の目にも追えないとなると、本当の転移魔法か。


「戦闘中に転移魔法をするなんて、すごく久しぶりのことだ」


 およそ───分からないな。


 転移魔法は、陣に座標を書く必要がある。それを戦闘中で理解して発動するのは凄いな。いや、あらかじめ用意していたみたいだな。


 じゃあ、俺も。


「戦闘中の転移魔法は、なるべく陣を見られないようにしなければならない」


 陣に描かれている座標は、暗号化されていても読み解くのは簡単だ。

 だから、コッソリと陣を描く必要がある。まあ、静謐性が必要だな。


 まあ、ああも表に陣をだされてしまうと───皇帝の転移した先、僕の後ろに手を振り下ろす。


「ほら、こうやって転移した先がわかってしまうんだから」


 そのまま吹っ飛ばされた皇帝だが、受け身はとれたようだ。やっぱり、身体能力が著しく向上しているようだな。


 これだから、世界の管理者たちは……


「油断しているのも、今のうちだぞ」


 エペラーの周りから、マナの消費が視られる。スキルが使われているな。周りに、物質が浮かんでいる。へえ、なんか地味だけど強そうだね。


「【皇の力】。私はそう呼んでいる」

「周りの物質を浮かせただけで皇なんて、だっせえな」

「ほざいてろ」


 ただ挑発しただけなのに、短気なやつなんだな。宙に浮かぶ物質も荒々しく動き回る。そして、その物質たちが私に向かった。


 簡単だな。まるでリズムゲーだ。売れるかな?


 右、右上、左、下、真っすぐ、反り、上、右……


「密度が足りないな。もっと増やしなよ」


 くっだらない。まったく喰らわない。拍子抜けにもほどがある。


「物質を走らせるだけとは言ってないぞ」


 クインと私から通り過ぎて行った物質たちがコントロールされているようにまた僕の方へ迫ってくる。


 今度は、全部片手で迫りくる瓦礫などの物質を破壊していく。うん?なにか魔力が纏われている。


 魔力が流れているので聖力を物質で流し込んで崩壊させる。すると、物質がコロッと落ちた。


「なるほどな。お前は物質を操るんじゃなくて物質のエネルギーを<力>で操るのか。そして、一度<力>を込めた物質は二度と<力>は込められない、といったところか」

「軽口を叩く余裕はありそうだな」


 その声と同時に俺の首に衝撃みたいなものが当たる感じがする。振り返ると、皇帝がいた。


 そして、その回答は凡そあっているようなものか。


「これでもダメか……まるで化物だな」

「さあ、どうだろうな」


 皇帝は距離を取り、玉座にあるボタンを押す。

 ゴゴゴゴゴゴゴと玉座の部屋が変化し、皇帝の後ろに不気味な機械ができる。


「本当はこんな技、発動させたくなかったが……致し方ない」


 キュイイインと機械から音がし、光始める。こんな使用、金がかかったんじゃないか?こんなことをするよりも、もっと帝国民にできたことがあったんじゃないか?


「私の【皇の力】と、帝国最先端技術を駆使して作られたこの機械は、広範囲殲滅魔法、デウスエクスマキナ。こんなにも先にこれを使うのは、驚いたが……終わりだ」


 キュゥウウウウと今にも発射しそうな音を鳴らしながら光は中心の突起物のほうへ向かっていく。


「確かに私の【皇の力】はエネルギーを操る。そして、一度込めた<力>は二度と込められない」


 確かにこれは凄いな。放ったら最後、ここ一帯が滅びつくされるんだろうな。それにこれはマナ融合が起きるな。


 マナ融合とは、ざっくり言うとマナの粒子ともう一方の性質が違うマナの粒子を高温度で融合させて爆発的なエネルギーを生み出すものだ。


 昔の兵器として使われていたが<法>での対処法が編み出されてからは生産が減少していったものだ。でも、これは何故か<法>で干渉できない。


「だが、私が持つ【皇の力】ならば、<法>に干渉されずにこの機械が発動される」


 そうか。<法>は、厳密にいえば<力>を用いて使う。そして、その<力>も<素>で出来ているから粒子だ。


 そして、物質も粒子でできている。物質をエネルギーで操れるのなら、粒子をエネルギーで操れる。それなら、<法>も自由自在ということだ。


「……ふ~ん」


 なかなかに厄介だな。


 こう思案している間にも、デウスエクスマキナは発射しそうになる。残り0,111秒だな。

 さ~て、目には目を歯には歯をってやつか。


 私はスキルを発動する。スキルを使うためのマナも粒子で出来ているが、僕はこのスキルを日常的に使っているため、マナを使わずに済んでいる。


「さあ!喰らえ!ここら一帯を吹き飛ばせ───デウスエクスマキナ」


 今、ここは誰もいない。それなら、少しだけ力を見せるのも、いいかもしれないな。


「フハハハハハ!」


 玉座が、光に包まれた。そして、帝国が滅ぼされる───はずだった。

 玉座は、また先程の姿が現れる。いつもの光景に戻っていた。


「……は?」


 高笑いをしていた皇帝は、明らかに呆けた声をだした。


 僕の周りに光が迸り、それはやがて掌に収束した。目を細め、皇帝を見据える。


「〈羅針計動脈皇(ロイヤル・エンペラー)〉」


 僕が発したそのスキルに、皇帝は絶句した。


「な……なんで……?」


 私は笑って答える。


「考えもしなかったのか?お前がしている【皇の力】っていうものは、僕も使えるって事を」


 そう、人の身でこれを使えるのは心底驚いたが、この皇帝が言っている【皇の力】っていうのは、僕で言う〈羅針計動脈皇(ロイヤル・エンペラー)〉。


 あまりにも強力すぎるスキルは、ステータスでその名前は見えず、詳細も見えない。自身がそのスキルの力に追いつかなければ、スキルはその姿を現すことはない。


「お前にとって、その力は、不釣り合いだってことだ」


「……そ、そんな」


 今もなお、その絶望した顔でこちらを見ている。俺は、その顔を見ていて、ある声が聞こえていた。


『僕は、この帝国を剣で押し上げるんだ!』


『剣の頂を目指すんだ!』





『僕は、剣で、剣で……け、ん…………』





『私は、今日から皇帝を務める』


 最初、コイツは武人だったはずだ。なら、その志が、まだ残っているのなら……


「おい」


 皇帝は、その声に顔を上げる。そして、僕は自分が作り出した普通の剣を皇帝に向けて投げる。


 皇帝は、まだその瞳に士気がある。気迫が、残っている。そういうところを見たから、自分はこういうことをしたんだろうな。


「お前が、まだ武人だという覚悟があるというのなら、その剣を取れ」


 すると、皇帝は絶望したその顔から活気が満ちた顔に戻り、口角をあげる。


 笑っていた。


「いいのかよ、()()にそんなチャンスを与えて」


「ああ、かかってこい」


 ……どうしたんだろ。僕。こんなことをするなんて。


 センスのある太刀筋で立ち向かってくる皇帝を見ながら、ある結論を導いた。


(そういうことか。俺は、やっぱり───こういう顔をする奴が見捨てられないのか)


 その考えを導いて、私も笑った。

 皇帝の剣を弾いて、その一撃を決める。


 その瞬間、皇帝の心が聞こえた。


(お前のような力があれば、救えたのか……?)


 その問いに、僕は答えた。


「まだ間に合うさ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ