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4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
二冊目《自称皇帝とジャパニーズ転移者》
67/102

30ページ,裏切り者の転移者

 ───先刻、皇宮三棟───


 新真は、手に持っていた仮面を付ける。すると、様々なバフがそこで付けられた。


『狐の妖面(ようめん):全ステータス80%アップ <力>大量アップ』


 黒のフードを纏い、スキルで存在感を限りなく無くす。新真の職業は、『暗殺者』。そして、新真は存在感を無くすスキルを極限にレベルを上げた。


 現在、新真の存在は空気と同化している。そして、目の前の男にナイフを向けた、その時だった。


 目の前の男は、後ろに移動した新真に向けて<法>を放った。


 ギリギリ避けた新真は、後ろへと下がる。


「なぜ、お前が裏切った?───松林」


 目の前の松林は、笑っている。今まで共に行動していた者だ。だが、帝国に着いてからいつの間にか松林は消えていた。それに気づいたのは隠密に優れた職業を持っている新真と少数のみ。


 皆目、検討は付いていた。松林は、どこか新真と似ていたところがあったからだ。明らかに、実力を隠していた。


 松林は、何故かこの世界に妙に詳しい。確か、新真が思い出せるところだと、『小説をよく読んでたから夢のようだよ』と言っていた。それが、本当だとは、新真は思えなかった。新真は、人を良く見ていた。人間不信の新真にとって、観察力は大事な力だった。


 松林は、教室でも目立たない方だが、それは異世界に行っても変わらなかった。それが異常だったのだ。この異世界のスキルは、個人のポテンシャルが大いに反映される。異世界のことをよく知る松林なら、強力なスキルを獲得できるはずだと思った。でも、そんなわけはなかった。


「やっぱり、お前も実力を隠していたんだな」


 目の前の松林に、新真は深淵を覗くように見据えた。やはり、実力を隠している。今の松林は転移者の誰よりも強い。陰ながらにスキルを獲得していったのだろう。


 新真が〈鑑定〉しているだけでも、数百のスキルがある。馬鹿げている。


「君は前から"僕の殺すリスト"に入っているんだ。今、ここで潰そうか」


 松林は、短杖(たんじょう)を構えて、そこに数十の陣が並べられる。そのどれもが、まるっきり違う<法>。


 それは、この世界に置ける多重法。技術で言えば、最上級と言われるほど。たとえその<法>が初級と言われるものであろうと、熟練の法使いができる多重法の数は、3個が限界。


「全く、嘘つき野郎といい、お前と言い、この世界は狂ってるよ。前の世界よりも」

「僕は、エペラー皇帝に言われたんだ。僕がこの転移者の中で一番天然勇者に近い、って」


 天然勇者。それは、人が勇者と言う特別な存在。その存在を人口的に作るのは、勿論劣ってしまう。しかし、そんな人口勇者の中で、松林は天然勇者に一番近いと言うのだ。


 それは、化物に等しくなってしまう。


「行け、僕の子たち」


 砲塔と等しき陣は、うねりをあげて新真に襲い掛かった。しかし、それは悉く新真に避けられる。否、<法>の軌道が変わっているのだ。


「⁉……そうか。軌道が変わるスキルを使っているんだ。つまり、君に<法>は使えないんか……わかったよ」

「ごちゃごちゃ話すな。隙だらけだぞ」


 松林がぶつぶつと独り言を呟いている間に、新真は松林の背後を取った。そして、その手に持つナイフを振りかざす。確実に、直撃を与えられた。そう、新真は確信した。手ごたえはあった。


 だけど、そこに居た松林はフニャフニャと徐々に半透明になっていき、やがては消えた。そして、新真は気づく。


(これは偽物!)


「君の方が、隙だらけなんじゃな~い?」


 耳元で、声が聞こえた。いつの間にか、松林が背後を取っていたのだ。新真は、冷や汗をかく。殺気がしたのだ。急いで松林と距離を取った。


(コイツは……やばいな)


 松林が<法>を使った仕草すら見えなかった。

 それだけ、静謐性の技術が凄まじいということだ。


 新真は、暗殺者ならではの素早さで、松林を翻弄した。松林の周りをグルグルと周り、隙があればそこを攻撃。しかし、全てが松林に弾かれる。


「随分と脆い剣だね」

「お前はなにが目的だ」


 攻撃を続けながらも、新真は松林に問いを投げかける。


「僕の目的?そうだなあ……まあ、君は殺されるし、話してあげるよ」


 新真を思いっきりその杖で吹き飛ばした松林は、話を続ける。


「ゴハッ……」

「僕はね。生まれた時から優秀だった。小学校の時から既に大学生が習うべきところを僕は知っていた。僕は、優れた人間なんだよ。そして、遂に僕は異世界の到達に成功した。……いや、意図的なんだけどね」

「……は?」


 あまりにも飛躍した単語が聞こえた為、新真は素っ頓狂な声を出す。


「僕の家は金持ちだからね。ありとあらゆる最先端の技術を駆使して異世界の通信に成功したんだ」


 つらつらと、愉快な、軽はずみな、軽快な調子で松林は語る。


「異世界の通信が成功して以来───僕は帝国の人たちと交流していったよ。異世界のこととか。貿易もしたんだ。凄くお金が掛かっちゃったけどね。でも、それ以上に利益も増えたし、結果オーライだったかな」

「…………」


 あまりにも想定していない話だったが為に、新真は絶句していた。


「そんなある日、帝国が人口勇者を作りたいと話しかけてきた。まあ、そう僕が諭したんだけどね。こちらの世界と、あちらの異世界の最先端の技術を使えば、もしかしたら異世界に人を連れていけるんじゃないかなって」


 眼鏡を捨て、オッドアイの目を見せてきた松林が嗤う。


「ちょっと、ヒヤッとしたけどね。でも、成功した───僕は、異世界に来たんだ!スキルや法が蔓延るこの異世界に!……僕は、更なる高みへといけたんだ」


 話が終わった松林に、新真はさらに疑問をぶつけた。


「……なぜ、俺たちも巻き込んだ……」

「えっ?そこにいたから?かな?なんだっけ……あっそうだ!実験台(モルモット)は何人もいた方がいいからねっ!ちょうど僕の近くに居たから、連れてきたんだ」


 そんな軽い調子で物を語る松林に、新真は激動を覚えた。


 スキルで、どこからか刀を取り出した新真は、松林に切ってかかる。それを、余裕で松林はその杖で受けた。


「まるで、俺たちを人として見ていないな……っ」

「えっ?逆に違うの?」

「くそがっ!」


 力いっぱい刀を振るって、今度は松林が吹き飛ばされた。が、それをなんともなく服にかかった埃を払っただけであった。


 新真が持つ刀は、九尾刀(きゅうびとう)黒狐(こっこ)。研鑽されたその刀の切れ味は凄まじいもののはずだが、それでも松林に届かなかった。


「どうやら、僕の防御力の方が勝っていたようだったね」

「一瞬だが、お前に力では勝ったぞ」

「ふんっ、粋がるなよ、孤高気取りやろうがっ!」


 松林もまた、スキルで武器を取り出す。禍々しいほどの剣だった。それを、一回振るう。


 ゴォォォォォォォォオン!


 新真の上部の髪が、数本切れる。後ろを向くと、壁に大きな切傷があった。それが、あまりにも膨大で。新真は呆気らかんとなった。


「ハハハハハハ!どうだ!この力は!昔、王国の巨匠として君臨したガルムが打ったとされる最後の武具───キュームだ!」


 高らかに笑う松林を、新真は歯向かわんとばかりに眼差しを向けた。

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