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4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
二冊目《自称皇帝とジャパニーズ転移者》
65/102

28ページ,花に過去

 ───同時刻、キャルの現在地───


「魔力が繋がった……?」


 キャルが過去を見ていたとき、パルはずっとベルゼブブと"魔力を繋げていた"。


 だから、キャルもフレアと魔力を繋いだ。未だかつて魔力を繋いだことはなかったが、何故か繋げられる予感がした。そして結果的に魔力を繋げられたのだ。


 どうやったのかといわれたら、直感的にやったとしか言えなかった。


 キャルは周りを見渡すと、そこは真っ白な空間だった。何故か、自分が自分ではない気がした。いつもとは、少し違う。たとえるならば、いつも着ている服ではなく、全く別の新品の服を着て過ごすような、そんな違和感だった。


 一度、瞬きをする。すると、先程にはなかった赤い球体が真っ白の空間に浮かんでいた。よく見ると、それは青にも見える。不思議な感じだった。


 好奇心か、それに近づき、繊細に触れる。すると、様々なフィルムがキャルに飛び交った。


 シュルシュルとフィルムは周りだし、何もないところにパサッと落ちると、そこに赤い髪をしたフレアがどこからともなく現れた。


「!フレア!」


 目を閉じていたフレアは眩しそうに目を覚ます。


「……キャル……?」


 綺麗な青い目を開けたフレアの頬に一つの雫が落ちた。それは、キャルの涙だった。

 久しぶりに見るそのフレアの容姿に、涙が溢れてきた。


 先程まであったフレアの戦意は嘘のように無くなり、キャルに抱き着いた。


「はいはい。お姉ちゃんが慰めてあげますよー」

「……ヒグッ、お、お姉ちゃんじゃ、ないでしょ……グスッ……」


 大人びた様子で、フレアはキャルの背中を(さす)った。


「昔はこうやってアンタが泣くと私が慰めてたよねー」

「……それ、人前で言わなかった……?」

「言うわけなじゃーん。私の唯一の親友を裏切らないよ」


 既に泣き止んだキャルは、細目でフレアに言う。


「さんざん、親に私の事を泣き虫って言ったくせに」

「昔の事でしょ?いちいち掘り返さない。というより、あの私をボールで吹き飛ばした人は誰?アタシカチーンと来たよ」

「あれが今の私たちのリーダーだよ。少しおかしい人だけど」


 すると、フレアは目を見開いてキャルに聞く。


「あれがリーダー⁉……とんでもない人ね。……でも、なんか人を惹きつけそうだよね」


 パルの事を疑問に思ったが、よく考えると、ああいうネジが少し飛んでそうなやつが人を惹きつけるものだとフレアは結論付けた。


 キャルは、フレアから離れその目を覚悟に染めた。


「ねえ、フレア。どうして、あんな暴走してたの?髪の色だって、違ったし……」


 すると、フレアは少し泣きそうな、哀れんだ顔をした。


「……彼は、悪くないの。別に、別に───アタシが間違っただけだから」

「彼って?」

「……エペラー」


 キャルは、その名に聞き覚えがあった。転移者が言っていた皇帝の名前だ。

 フレアは、一息吐いて、語りだす。決心の顔をして。


「あれは、アタシが死んだ時の事」


 フィルムが、再度シュルシュルと辺りを回し、白い空間を包み込んだ。

 キャルの記憶が、流れる。


「あの、死んだとき。私は確かに意識が途絶えた」


 フレアが鍾乳洞のような岩が貫かれていた映像が流れた。目を凝らすと、そこに半透明な青白き火の玉のようなものがフレアから出て行った。


「魂は、この<界>を彷徨い、やがては浄化される」


 フレアの魂は二か月ものの間、世界を旅していた。しかし、この魂の漂流の長さは、通常ではありえない長さだ。


 そんなフレアの魂は、彷徨い流れ、やがて帝国に辿り着く。


 フレアの魂は、帝国のある一室に入る。仄暗い部屋。中央には大きな陣が描かれており、複数人の法使いがいた。細長い杖を用意しており、<法>の補助をしようとしている。


『よし。これより、"クローン製造"実験を開始する』


 赤と金を基調とした服を着た優男の青年───エペラーが口を開いた。


「エペラーは、人材不足の帝国のために、クローンを作ることにした。その為に用いられた陣は、意識を司る陣が一部あった」


 チリチリと火花が飛んで、陣を中心に数多くの法使いが苦戦していた。


「魂は、意識に依存している」


 クローンの製造。それは、魂が移されていないが、空っぽな意識だけがクローンの中に宿るようにしている。限りなく人間に近いロボットを作るためだ。


 魂のいない、空っぽの意識だけのクローンが創られたら、どうなるか。帝国の者たちはそこを考慮していなかった。


 魂が、近づいていくことを。


 半透明の青白き魂はクローンの中に吸い込まれ、宿ってしまった。クローンの形は、急激に変化した。髪は青くなり、目は血のように赤くなった。


「もちろん、場は騒然となった。それを、エペラーが静めた。それから、私が故人と理解されるのに、そう時間は経たなかった」

 

 シュルシュルとフィルムは流れる。時間は止まっているとは思わせない。ただ、その音が流れているだけだ。


『だからって故人を見捨てるのか!私は道徳心までも捨てた覚えはない!』


 青年の主張が耳朶を大きく打つ。

 そこに目を移すと、エペラーが怒り、他の法使いを説得している姿に見えた。


「あの実験の後、既に死んだ者をどうするのかと、議論になった。結果は、二つの派閥に分かれた。一つは保護派。もう一方は放棄派に別れた」


『フレア……と言ったか。私は、君に悪いことをしてしまった。他の者は、君を見限ろうとしているが、私は違う。必ず、君を我が国で保護する。そして、君を責任もって祖国に帰すことを誓おう』


 エぺラーは背を低くし、フレアに言っていた。その頃のエぺラーは、まだ皇帝ではなく、幼かったが、威厳はその時から既に存在していた。


「昔は……エぺラーは帝国民にも慕われていた人だった。変わってしまったのは、数年前。あの事件がキッカケだった」


 フィルムが映し出される映像は、燃え盛った帝国の姿が。


「『帝国大火災事件』。帝国の家臣による裏切りにより、帝国が火の海に晒された。さらに───」


『やめろ!中に私の許嫁がっ!腹の中に子供も居るんだぞっ!』


 エぺラーは、他の衛兵に取り押さえながら燃え盛る皇宮に手を伸ばしていた。皇宮の中には、エペラーの許嫁が居る。


『おやめください!貴方様さえも、あそこに行ってしまえば……あの()()()のようになってしまいますぞ!』


 その言葉に、エペラーはピクッと眉を動かした。


『あの二人のように……?それはまるで、もう死んでいるような言いぐさではないか!』


 エぺラーの力がグングンと強くなり、取り押さえている衛兵を圧倒し始めている。

 聖力が腕力を包んだことによって衛兵を吹き飛ばした。


 後方では、『おやめください!皇帝様!もう!もう!……お二人の生存反応など感じられません!』とエペラーを阻止しようとしている。そんな言葉はエペラーに通じなかった。


 グングンと燃える皇宮に向けて青年の皇帝は歩く。その足取りは、迷いなど微塵も感じられなかった。


 なけなしの聖力で耐熱聖法を展開させる。エペラーが、皇宮を見上げながら呟いた。


『聞こえるのだ……我が、赤子の産声が。きっと、そこに居る。今も、そこで助けを求めている。唯、生存反応が微弱なだけなのだ。生きてる……。そう、生きてるんだ』


 その独白に、その場にいる者は、なにも言わなくなった。皆、動きを止めた。皇帝は、足をさらに進めた。火の皇宮に踏み入れた。


 そして、エペラーが許嫁がいる部屋に辿り着いたころには全身に火傷が大量にあった。


 燃えて脆くなった木の扉を蹴り飛ばして、エペラーは部屋に入る。……───そこに、居た。燃え盛って、灰と化した赤子と、それを抱いている灰となった母。


 許嫁が死ぬ直前、赤子を産んだのだ。


『……………………』


 狂う程の水の聖法を二人にかけ、残る火を消した。近寄り、自身の許嫁と赤子を触ろうとしたが灰となって消えた。


『……あっ…………』


 目を点にして、地面に残された数少ない灰塵に触れる。それと目に入るのは黄色のペンダント。

 エペラーは、涙がでなかった。呆気ないほどに乾いた声。掠れているようにも聞こえた。


「───人は激情になるほど、その<力>を増す」


 フレアが、口を開く。


 その言葉通りに、エペラーの聖力は力を増した。これ以上にないほどに、光り輝いていた。

 だが、


『こんなにも力が溢れているというのに、目の前にいる最愛の者を救うことなどできない……ああ、なんて虚無なんだ……』


 エペラーの聖力は、既に人の域を達していた。しかし、それでも許嫁を助けられることができなかった。


『ああ……ああ……こんなにも上手くいかない。それなら……一体、何を為せばいいのだろう』


 最愛の者を目の前で亡くした。それは、許嫁が生活の中心であったエペラーにとって光が無い道の如く、生きていく(すべ)が見いだせなかった。


「裏切られた皇帝(エペラー)は、その後、誰も信用しなくなり帝国は独裁国家となった」


 復興中の皇宮の中。映像には、エペラーに問うフレアが映し出される。


『……なんで、なんのメリットもない私を救ったの?』


 変わってしまったエペラーには、もはや損得でしかものを考えられていなかった。だから、人徳的なだけで、救うメリットがなにもないこの状況にフレアは疑問を持った。


『メリットなら、ある。こうして圧力をかけてあの老人たちを黙らせたのも、お前を我らの国の戦力にするためだ』


 無機質な声で、淡々とエペラーは告げた。


「変わったエペラーに、皆が寄り添えばよかった。でも、それをしなかった。恐かったんだ。皆。あのエペラーに逆らう者はいなかった」


 仰ぐフレアの言葉は、実に後悔の念にかられている声であった。

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