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4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
二冊目《自称皇帝とジャパニーズ転移者》
64/102

27ページ,支配と花

「『蒼穹消黒螺旋砲(グライズ・ダガーベ)』」


 フレアは、黒き螺旋の砲口を数十発放った。


「ちょ、ちょっと⁉そんなレベルの<法>をポンポンと打たないでよ⁉」


 キャルは規格外の光景にツッコみながらも『蒼穹消黒螺旋砲(グライズ・ダガーベ)』を対処していく。


 ここに攻める前、キャルはあるものをパルから貰った。


『もし、どうしようもない<法>が来たときは、これを使え』


 キャルは、無数の『蒼穹消黒螺旋砲(グライズ・ダガーベ)』を斬った。そして、無数の『蒼穹消黒螺旋砲(グライズ・ダガーベ)』があった場所には、なにも無かったかのように空虚へと晒される。


「その剣、不思議だね」


 そう、キャルが持っている剣は、吸法剣(きゅうほうのつるぎ)、スーペル。パルが〈創之極地テスカトリポカ〉の権能、【鍛極(たんごく)】を用いて作った至高の剣。<法>を断ち切ると、その<法>を吸収し、力にする。


「その剣に込められている術式……!さっき見た!」


 フレアの頭の中に、先程のパルの『罅球体(ボール)』の術式が(よぎ)る。


 術式とは、陣と同義あるものとされている。だが、"新たな陣を考える"と言えるよりも"新たな術式を考える"と言ったほうが俗にあっている。それに、陣よりも術式の方がより<法>の詳細を指している。


 術式は、人によって向き不向きがある。だから、術式をみることによって人の癖が分かる。でも、その癖に必ずしもパルが当てはまるわけがない。


 フレアは、わざとパルが術式の癖を変えていないことを知る由もなかった。


「私を、馬鹿にした……ッ!あの忌々しい……ッ!」


 フレアは、相当パルの事を恨んでいるようだった。


 ボンッ、ボンッ、ボンッ。息を吸うように容易に『蒼穹消黒螺旋砲(グライズ・ダガーベ)』を放つ。『蒼穹消黒螺旋砲(グライズ・ダガーベ)』は、魔級で、本来そんな容易に放つものではない。


 それを吸収するスーペルも、常識外であった。だが、それが突如として止む。


「なんでキャルは攻撃してこないの?」


 その理由は、フレアが疑問を持ったからである。


 フレアは、この戦いで違和感を感じていた。そうキャルはもっと強かったはずだ、と。

 もっと言えば、そう。キャルは手加減をしているとしか言えなかった。


「攻撃しても無駄だと思うから」


 キャルは、あっけなく、端的に述べた。続けてキャルは話し出す。


「話し合おうよ。一体、フレアになにがあったの?」

「ふんっ、五月蠅い。五月蠅い。しつこいよ。私になにかあってもキャルには関係ないでしょ」


 フレアが短剣を振りかざすと、キャルはそれに応えるような形で長剣を振りかざした。それは、キャルが今まで見せてこなかったほどの力であり、フレアの短剣を見事に破壊した。


 キャルは、眉を(しか)め、フレアを慈愛の瞳で見つめた。


「お願い、話してよ。私達、親友でしょ」


 その言葉に、フレアは歯軋りをして怒りの顔に染めた。


「五月蠅い。なにも知らないくせに。知らなかった癖にいぃぃぃぃ!」


 なにも持つものが無くなったフレアは自らの拳をキャルにぶつけた。

 だが、その拳は、いとも容易くキャルに止められた。


「弱いよ」


 そんなキャルの一言に、フレアは目を見開いた。


「昔よりも、意思が弱い。相手を仕留めるっていう、昔のフレアがこの拳には感じられない」


 もう一発、今度は逆の方で拳を振るったが、キャルは長剣を捨て、片方の手でフレアの拳を包んだ。

 それは、優しく。全てを受け入れるような、そんな手を。


 そんなキャルに戦意喪失をしてしまったフレアは、その膝を床に付けた。


「全部……全部。なにが間違ってたっていうのよ……」


 急なフレアの独白が始まるも、キャルはなにも言わずにフレアと同じ位置に(かが)む。


「聞かせて。なにがあったの?」

「……別に。なにも、話すことなんて……」


 沸々と、フレアの眼から暖かい液体が流れていく。そして、床にはその涙が水たまりとなって落ちていく。


 フレアは、その涙を見つめた。水たまりは、何故かどんどんと黒ずんでいく。それは、いつしか皇帝の顔になっており、フレアを見つめていた。


 わかってる。これが、幻影だってことは。

 フレアは、そう思っていても、こちらを見つめている皇帝が本物としか思えなかった。


 皇帝の形をした液体は、口を動かし、言葉を発する。


『……戦え』


 たった、それだけでフレアは戦意を取り戻してしまい、辺りに赤黒き火の粉が飛び出す。その火の粉はフレアの背中に羽を彷彿させるものとなり、その姿を見たキャルはとある一言を呟く。


「悪魔……?」


 その言葉に反応したフレアの目は、狂気に満ちていた。


 フレアは、手に陣を描き、混沌としていた炎を出す。その炎は放たれるものではなく掌に漂っていた。その<法>の名前は───『掌握黒鳶炎(ズドラメラ)』。


 呆然としていたキャルに、容赦なく殺意を取り戻してしまったフレアが襲う。キャルの眼前に映るは、かつての親友。


 死んでしまう、キャルの頭上に浮かんできたその言葉は、キャルを縛り続ける恐怖になってしまった。


 そう縛り続けられ、動けない時間でも、フレアは襲い掛かってくる。


 数瞬、キャルは瞬きをする。いつの間にか、誰もいなかったそこに、男の人が現れた。


 ケルだった。拳には緑色に染められていた。奥義、《緑閃拳》の力で『掌握黒鳶炎(ズドラメラ)』の力を相殺していた。


 奥義は、個人によるが完成度によってはどんなものよりも強い。というのも、奥義というのは、自身の技術やスキル、そして色々な<法>を組み合わせることによって完成できるもの。


 《緑閃拳》。それも例外ではなく、数多のスキルや<法>を組み合わせてできている。

 たった一つの<法>で対抗できるほど(やわ)ではない。


「キャル、よそ見してたら───死ぬよ」


 ケルの言葉に、キャルは、はっとする。

 改めて戦闘に入り、フレアを見た。


「フレア、私はあきらめないよ」


 固い意志の眼差しで、キャルは悪魔の姿の如きフレアを見つめた。


 フレアは、それに対して<法>の弾幕をまき散らした。先程のものではなかったが、数が膨大で、隙間ができたものではなかった。


 その弾幕を対処する中、キャルは進化した〈急速潜考(きゅうそくせんこう)〉を使って思索していた。

 何故、フレアは急変したのか。


 先程のあのフレアの目。キャルには以前、見たことがあった。かつて、皇帝に操られていたガイラズとケーラ。その時の目とそっくりだった。


 つまり───……


「───フレアは操られている……?」


 そう考えたキャルは、さらに思考の渦へと巻かれる。


(思いだせ。一体、クーはなにをしていた?)


 キャルは、ケルがベルゼブブに操られていたときのことを思い出していた。あの時の視線。あの時の挙動。あの時の仕草。一挙一動全てを見逃さないように追思した。


『〈スキル〉、〈鑑定眼〉が特殊進化し、〈往古来今渾然眼おうこらいこんこんぜんがん〉となりました』


 そんな声がキャルの頭上から聞こえたその刹那、キャルの脳内には鮮明に過去の記憶が流れた。まさに、現在で見ているように。その過去は、もちろんパルとベルゼブブのこと。


 いつの間にかキャルの目は、綺麗な紫の渦を巻いたものになっていた。


 現在、キャルには時間の概念が存在していない。過去の全てが現在形で起きているような感覚がキャルを襲う。


 その内、未来も全てを見通せることができるが、今はそれをしようとすると理解もできずに廃人になるだけである。


 キャルがそうしている間も、フレアからの弾丸が飛んでくるが、それを横から《緑閃拳》が守る。ケルはその目を真っすぐフレアに飛ばした。


「いつまで、アンタは邪魔をするの?」

「いつまでも、だよ」

「鬱陶しい!」


掌握黒鳶炎(ズドラメラ)』が次々と飛び交うその中でケルは叫んだ。


「君のことを頑張って救おうとしている人がいるのに、なんで君は突き放す!」


 ケルの拳が突き出されると、『掌握黒鳶炎(ズドラメラ)』は散る。覇気は、<法>に勝る。純粋な属性一個だけでは、猶更だ。


 本当は、もっと強力な<法>なはずなのに、ケル程の覇気で倒されてしまう。


 フレアは、まるでケルとは話す気はないとでも言いたげの顔で無視していた。

 フレアも『掌握黒鳶炎(ズドラメラ)』を拳に纏わせると、ケルの拳に合わせる。


 バチバチと辺りに火花が飛び散り、広間は半壊状態になった。日光が瓦礫の隙間から漏れ出し、辺りをちらほらと照らし出した。


 それでも二人の攻防は繰り返し、どんどんとその速さは増していく。


 ケルが走る所は緑の、フレアが駆ける所は蒼の軌跡が辿っていった。その二つの軌跡は交わるが、そのまま通り過ぎた。


 交差した二人はゆっくりと時間が流れるように互いに振り向いた。


 ───口から吐血をしたのは、フレアの方だった。


 未だ呆然としているキャルの傍で倒れ、下からキャルの顔を覗いた。その時、ちょうど、キャルとフレアの目が合う。


 キャルの意識も同時に復活したのだ。


 キャルは、渦巻く紫の目をしたような姿のままフレアにしゃがむ。ずっと、二人は目を合わせまま、ピクリとも動かない。


 リーン、と。音がした。その音と同時に、二人は倒れる。


「キャル!」


 ケルの心配の声が広間に響き渡ったが、そこになにも返答がなく、その後に残ったのは沈黙だった。

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