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4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
二冊目《自称皇帝とジャパニーズ転移者》
63/102

26ページ,散りゆく花の更生

『貴方様は、選ばれる運命にあったのです』


『このような聖なる人物に出会えて、私共は幸せでございます』


『ありがとうございます。聖人様』


『聖人様。私たちは、貴方様のために生きています』


『聖人様』


『聖人様』


『聖人様』


『聖人様』


『聖人様』


 ……人は、憧れるものに執着を覚える。心の拠り所となる。


 二年前、私は聖人へと至ることができた。皆、私を褒めたたえた。そして、悩みも増えた。毎日の人の拠り所となるために人の苦悩を聞き、それを聞く。


 だが、私の悩みを聞いてくれるものなんて、一人も居なかった。ストレスだけが積もりに積もって次第に食欲もなくなっていき、食べ物が喉に通る事が鬱陶しく感じた。


『聖人様は、悩みなんてないよなー』


 笑う人の声。誰一人として、私を見てはくれなかった。


 そう、あの人以外は。


『悩みを聞く聖人が、悩みをもっていたら意味ないだろう』


 手を差し伸べる彼に、なんと恩を抱いたことか。悩みを聞くはずが、逆に悩みを打ち明けてしまった。


『なんなのですか。あなたは』


『別に、私の手足となるものが必要なだけだ』


 妙な彼に私は惹かれた。私をあそこから解放し、使えさせてくれた。自由にさせてくれた。


 あの日、心に誓ったのだ。この方に、永遠と付いていく、と。



 だから、この戦いに、私は負けるわけにはいかないんだ!


 そんな思いとは裏腹に、リャクセランの態勢が変わる。その一つ一つがリャクセランの姿勢を崩す。ケーラの力が増していく。余裕がにじみ出てきたのか、ケーラが口を開いた。


「そういえば、聖人には聖人ランキングというのがあったよね。君は何位なの?」

「……ッ!化け物め!ハア……ハア……私は、聖人ランキング84位だ」


 ケーラが聖法で炎を打ちだせば、それに対抗するようにリャクセランの周りで水の壁が反り立った。炎を全て防ぎ、水の壁が上から無くなっていく。


「確か今年で聖人は126人だよね。思ったより下だね」


 その言葉にリャクセランは昔を思い出していた。なにせ、昔、散々告げられた言葉だったからだ。

 だが、皇帝の言葉を思い出し、それを紛らわせる。


『別に、強さというのは力だけではない───』


「───本当の強さというものは、その心にあり!」


 鎌が純白に纏わり、魔を打ち砕く聖へとなる。そして、ケーラが携える魔剣へと迫っていった。


 だが───


「───なら、僕は絶対に負けないよ。だって」


 ケーラは後ろを振り返る。そこは、ケーラを守った転移者達。


「僕は、皆の心があるんだから!」


 ケーラの魔剣が灰紫色(かいししょく)と変わり、純白の鎌を砕いた。


「うぉおおおおおおおおお!」


 全力で振るわれた聖を纏う魔剣は、リャクセランへと襲い掛かったのだった。


 ***

 ───同時刻、皇宮二錬広間───


「まったく……なんなのよ、アイツは!」


 爆風が収まる中で、フレアは地団太を踏んでいる。よほどパルのことが気に入らなかったのだろう。そして、殺気を消さずにケルを睨む。


「だいたい、あんたも悪いのよ!私はキャルと話がしたいだけなのに……全部上手くいかなくて……もう最悪!全部消してやる!」


 フレアの体から魔力が漏れ出し、紫の目が幾何学模様に映し出す。


 それと同時に広間のありとあらゆる所に(ひび)が入り、壊されていく。まるで、制御ができていないように。


 いつの間にかフレアの掌に収まっていた短剣は物凄い魔力を出して威嚇するようにケルに牙を向けた。


 青紫の粒子が短剣から溢れだし、それに応じるようにケルへと迫りだす。

 一方、ケルは「すう」と息を軽く吸い、その次に凄まじい勢いと共にその息が噴出された。


 それは、覇気を纏った吐息。威力は莫大だった。フレアもその勢いには勝てずにまたもや吹き飛ばされた。


「……く、くそっ!お前もそうなの⁉なんなのよ!それは!」


 恨めしい声を出したフレアだったが、ケルはケロッとマイペースに応える。


「別にただ息に覇気を纏わせただけだしなあ。でもまあ!これだけは言える。キャルと話す前に、僕と話したらどうだ!」


 ドオン!と効果音が付きそうな仁王立ちをするケルに、キャルはこんな修羅場な状況にも関わらず思わず吹きだしてしまいそうだ。


「ホントに、なんなのよ……」


 フレアはぼやきながら口から(ただ)れる血を拭う。


「さっきも言った通り、僕と少し話したら?」


 ケルは、キャルの過去を知っている。そのことを、キャルは知っている。何故、彼がフレアとの会話を求めているのかが、分かるのだ。ケルも、キャルも知っている。フレアの性格を。残虐ではなかったし、なりふり構わず敵意を向ける子ではなかった。


 フレアは、唇を重くしたまま、ゆっくりと開いた。


「なにを聞きたいわけ?」


 そこから滲み出る一言は、なにも話すことがないと言っているようなものだった。


「まずは、色々と聞きたいんだよ。君は、死んだはずだって僕は聞いてるんだけど」

「別にそんなの。あんたらに言ったところでなにも利益になんかならない」

「そんなわけないよ」


 キャルが前へと進む。


「心配したんだよ、ずっと。フレアが目の前で死んでから、ちょっと前まで、ずっと苦しんでた」


 その言葉に、フレアは疑問を挟んだ。


「ちょっと前?」

「昔と比べたら、少しだけ軽くなるようなことがあっただけだよ」


 フレアが死んでキャルが苦しんでいた理由。それはフレアが死んだことによってガイラズとの溝が深まってしまったことだ。しかし、それはパルたちとの迷宮(ダンジョン)のおかげで無くなった。


「まあ、いいや。でも、私はそれでもあなた達に話すことはない」


 フレアは短剣を再度構え、キャル達へと向かっていく。ケルが拳に覇気を纏わせて攻撃しようとするが───横から火球が飛ぶ。


 慌ててケルはそれを避ける。そしてそこに焦点を向けると、帝国軍の聖法士がいた。どうやら回復したようだった。


「僕の相手は、君たち?」


 ケルは、それを喧嘩を売られたと思い、挑発に乗った。


 両拳を握り、合わせる。すると、緑の覇気が拳を包みだす。ふう、と一息ケルは吐いた。そこから一気に身体速度が上がり、気づいた時には帝国軍の後ろを取っていた。


「"奥義"《緑閃拳(りょくせんけん)》」


 その言葉と同時にケルは拳を振るう。すると、緑色の覇気が帝国軍全員を包んで吹き飛ばした。


「防げた者は二割、と。十分だね」


 そのケルの表情は、ニッコリと満面の笑みだった。


 一方、キャルの方。そちらもそちらで短剣と長剣の攻防を繰り広げていた。


「まったく!フレアはどうしてそんな聞き分けのない人になったの!」


 キャルが力一杯長剣を振るうが、フレアはそれを避けてキャルの横腹を短剣で掠めた。


「キャルこそ、どうしてそんなに態度が横暴になったの!昔はもっとオドオドしてた癖に!」

「それは昔でしょ!」


 まったく、姉妹喧嘩と言っていいほどだった。

 フレアは陣を不特定多数、描き出すとそこから青い炎が飛び出した。


「昔は<法>なんて得意じゃなかったはずなのに!」

「人は成長できる生き物なのよ」


 青い炎は宙を大きく美しく舞い、ダンスのように軽やかに踊りだす。

 それをキャルの剣で相殺するのは容易いことではない。キャルは〈全視破眼〉を使った。


 辺りがゆっくりと流れた。時間が、動きが、流れが。全てが遅くなった。


 ───フレア以外は。


「私を忘れないでね」


 背後に立ったフレアは短剣を振るうが、そこまで手ごたえがないことに違和感を感じた。


「知ってるよ」


 キャルは〈全視破眼〉を使うときと同時に、『剛体(グラム)』を使い、体を強化した後、『聖法隠蔽(クラトム)』で『剛体(グラム)』の聖法を隠していた。


「にしても、驚いたよ。私の〈全視破眼〉に追いつくなんて」


 キャルが剣を振ると、フレアに当たりそうになるが───消えた。蜃気楼のように。

 キャルがゆっくりと進む時間の中、辺りを見渡すと、黒き螺旋を描くフレアが居た。


「これでも、避けてね?」


 フレアがそう言うと同時に、漆黒の螺旋の閃光が放たれた───

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