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4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
二冊目《自称皇帝とジャパニーズ転移者》
62/102

25ページ,天然勇者と人口勇者

「っが……!」


 ケーラを切り裂く鎌の刃は、ケーラの体を貫通して、正面の鳩尾(みぞおち)から飛びだしていた。


「ケーラ!」


 叫んだのは、夕夜。先程、混沌の力を使いすぎてしまったが為に伏せてしまっていた。


 ケーラは、魔剣を床に突き刺してなんとか体制を保つようにしていた。ポタポタと流れる血から、大量出血をしていることが目に見えてわかった。


「ぐふ……っ……がはっ」


 口からも苦し気に血を吐き出す。ケーラの視界は暗がりを見せて、フラフラと体が揺れていた。


「先程も言っただろ、魂不逃聖鎌と。この鎌は魂さえも逃さず、お前にまとわりつく。どうだ?初めて魂を傷つけられた気分は」


 まあ、喋れないだろうけどな、とリャクセランはケーラを下目に見据えた。ケーラとリャクセランの距離からは、まさしく力の差があるように見える。……───だが、それでもケーラは諦められたものではなかった。


 ケーラが、動き出す。ズキズキと魂からは悲痛な叫びがケーラの体に染み渡る。それは、たった一歩動いただけで死に至るほどの痛み。それが何度もケーラを襲った。


 ドクン、ドクン。心臓の音がケーラの心中(しんちゅう)の中で響き渡る。そんな中、ケーラの頭に、とある文字が浮かび上がっていた。


『■■■■』


 それは、生涯にしてどこにも聞いたことのない言葉。だが、それがはっきりとしてケーラは理解できた。故に、発す。その<法>を。


「『◆◆◆◆◆◆(レババブ・ブライト)』」


 しかし、その<法>は術式も未完成で効果も()()()()()()()。───しかし、その<法>はここら一帯を渦巻き、無差別に無慈悲にリャクセランにだけ襲い掛かった。


 狂うほどの緑の粒子がリャクセランを包み、弾け飛んだ。そこに降り立つは翼をはためかすケーラ。もはや、人では思えないほどの異形の姿をしたものが、そこに立っていたのだ。


 拳を握りしめ、緑の粒子を凝縮する。その力は凡そ勇者とは思えないほどに荒れていた。


「ケーラ!」


 ケーラがリャクセランに止めをさそうとするその時、夕夜が目の前に立ちはだかった。


「もうやめろ、相手は戦闘不能のはずだ。というよりもお前、ケーラなのか?」


 揺るぎないその夕夜の眼に映し出されるケーラの姿は無表情で、機械のように動じなかった。


『否定、個体名、未設定。名前、ケーラの体を借りて代行を実行するためにこの地に舞い降りた』

「……どういうことだ?」


 ケーラであるはずのものから発せられたその声は、抑揚のない淡々と述べられた。


『これは結構まずいな』


 突如、通信聖法によってパルの声が夕夜に届いた。次いで、夕夜もパルに通信聖法を飛ばす。


「これはどういうことです?クライシスさん」

『ケーラが"外の世界"のやつに乗っ取られた。おそらくトリガーは……<法>か。なにかケーラがああなるまえに<法>を使ったか?』


 外の世界などの不穏な単語が聞こえてきたが、それを聞くのはマズイと思い、夕夜は思考を切り替えて、先程のことを必死に思い出していた。


 そして、先程ケーラはなにか<法>を使っていたことに気づく。


「はい、なんらかの<法>を使ってました」

『じゃあ、その<法>の術式を思い出せるか?』

「はい」


 なるべく覚えている範囲で術式を頭の中で描き出す。


『よし、じゃあこの<法>をなんとかして今のケーラにぶつけてくれ』


 その言葉と同時に夕夜の頭の中に見たことのない<法>が浮かんでいた。


「わかりました。なんとかしてみます」


 拳をぎゅっと握りしめて覚悟を決めた。

 それと同時にパルとの通信聖法が途切れた。あとは任せたということだろう。


『攻撃。邪魔するもの、それ即ち排除すべきもの』


 ケーラが夕夜に向かって陣が浮かばれるが、それはあまりに遅く、隙だらけすぎた。


 その隙に夕夜はパルに貰った<法>をケーラに穿つ。


冗費(じょうひ)。この体はどんな体も受け付けはしない───⁉』


 その瞬間、ケーラは驚きの表情を浮かばす。


 体がふらついたのだ。別に、体感が崩れたわけでもない。ただ、人格が離れただけなのだ。

 ケーラから離れた人格の"それ"は突如として口調を変えた苦痛の一言を漏らす。


『たった不安定な<虚次元>の住人如きが……!図に乗るんじゃないぞ……!いつか、必ず……!』


 そう言い、それは跡形もなく消え去った。


「……あまりに呆気なかったな……」


 息を切らしながら、夕夜はポツリと言葉を吐いた。


「そうだ!ケーラは!」


 先程、ケーラの居た方へ眼をむけると、起き上がるケーラが居た。


「ケーラ、大丈夫か!」


 夕夜はケーラの傍に駆け寄り、体を支える。でも、それをケーラは拒否した。


「大丈夫、動けるよ。ありがとう。でも、まだアイツは生きてる」


 ケーラを見据えるその先に、夕夜も視線を注ぐと、岩が退かされ、這い上がるリャクセランがいた。

 ケーラもその場にフラフラと立ち上がる。


「今のはなかなかだったぞ……」

「アイツ、頑丈すぎだろ……」


 リャクセランは<力>の量に自信があるのか、何個も陣を描いていく。再び『聖操作支配人形(ガダダググランゼロン)』がその場を映し出された。


 そして、それは先程よりも多い。


「この数に耐えきれるかな?」


 リャクセランが槍を振るうと、聖を纏った人形がグググと動き出す。

 再び、転移者組は人形と戦うものとなった。


「これじゃあ、さっきと一緒だ……」


 夕夜は、これ以上の戦いに絶望しながら人形と相対していた。人形の体力は無尽蔵にして、転移者組たちの生身の体は体力が限られている。度重なる再戦によって、転移者組は一人、また一人と倒れていった。


「耐え続けろ!ここを凌げば───」

「ここを凌げば、なんだ?」


 夕夜の目の前に、リャクセランが槍をダラリと構え、悠然に立っていた。


「君の相手は僕だよ」


 リャクセランが後ろを向くと同時に槍で守りの体制を取った。そこに、弱弱しい剣筋が通った。


「まだ戦うか、愚か者」

「『位置場所入替(ピャリュリャリュ)』」


 残り少ない貴重な聖力を使って聖法を行使する。その聖法は、ただ対象との位置交代だけの聖法。


「ケーラ、お前……」「そういえば」


 夕夜の言葉を遮るようにケーラは語りだす。


「君と僕の出会いは、その性格故だったよね」


 ケーラと夕夜の性格はよく似ている。そんな二人は、同族嫌悪などなく、意気投合した。


 ケーラは、奥歯を噛みしめるように、その一言を言う。


「───僕は天然勇者なんだ」

「……ケーラ?」


 ポツリ、涙のような、その具現化の言葉を、ケーラは漏らす。


「僕は、君たちのような転移してきた勇者とは違って、最初から勇者なんだ。だから、僕のせいで、君たちは、こんな苦労をして───」

「ケーラ」


 そんな涙のような一言を、夕夜は名前だけで止めた。


「……お前、何言ってるんだ?」

「……え?」


 瞬間、ケーラは虚が突かれたように固まった。

 だが、夕夜は言葉をつづける。微笑みを浮かべて。


「そんなん、もう俺ら全員が知ってるぞ」


 ケーラが辺りを見渡せば、倒れていた転移者たちは治療されていた。そう、牢屋にいた転移者たちが起き、解放されていたのだ。


「お前は、言葉の節々から勇者と思わしき言動があふれてるし、<法>を使うときだって聖が溢れすぎてる。お前が勇者だってことは、誰だってわかってるさ」

「じゃあ───」

「でも、誰もお前を憎んでなんかない」

「……ッ」


 その一言に、ケーラは窮した。


「俺さ、疑問に思ってるんだよ。逆に。なんでこんな人口勇者(出来損ない)を救ってるんかなって」

「それは───」

「俺()()は、お前に感謝してるんだよ。いや、確かにお前が帝国に居れば俺らが呼ばれることはなかったはずだ。でも、そんなもしもなんて話は俺たちはしない。あったものは仕方ないし、それで前に突き進むだけだ」


 一単語、一文字に感謝の気持ちがケーラにはいかに伝わってきた。


「人間関係も、いい方向に変わった奴もいるからな」


 ハハッと微笑んで一言付け足した。


「……そうか」


 ケーラは、胸に手を当てて、その温かみを確かめた。

 そして、向き直る。リャクセランの方へ。


「お話は終わったかね」

「ああ、待ってくれて感謝するよ」


 二人は再び相対する。そして、ケーラは夕夜に静かに告げた。


「ありがとう、夕夜。───【覚醒】」


 命の覚醒が、その場を包み込んだ───

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