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4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
二冊目《自称皇帝とジャパニーズ転移者》
57/102

20ページ,死んだ少女は花を閉じていた

 気配を辿ると、一番濃く、強い気配があるのはこの皇宮の最奥(さいおう)。つまりは、皇帝のいる場所だ。そこには、一人の気配しかなく、周りには殆どと言っていいほど居ない。


 その間にも、兵士は来る。スピードが早いものは、簡単に私たちのスピードに追い付き、進路を防いでいく。


 鬱陶しいから軽くあしらう。


 この皇宮は、四棟(よんとう)となっている。どの棟にも広間があり、そこでは気配が強いものが待っている。一棟目は、先程の広間。もうすぐ抜けるところで、二棟に行くのだ。


 あれ、他と異様なほどに違う気配が近づく。私たちと相対する真正面に物凄いスピードで近づくものも居る。すぐさまトアノレスを召喚して近づくソイツと武器を交える。


 フードを被っている男。随分とやり手のようだ。私との武器の相対でも負けちゃいない。


 後ろから更に気配が近づく。このフードの気配と同格。さて、どうするか……

 俺がそう思案をしてると、転移者たちが前にでてくる。


「ここは僕たちに!」

「任せてください!」


 そのまま転移者たちは向かってくるフードの男たちと剣を交える。……もうなってしまったものはしかないか。そう判断し、僕はケーラに視線を合わせる。


「頼む」


 そう一言だけ言うと、ケーラは頷く。すぐさまフードの男を吹き飛ばし、先へ進む。残って走ってきたのは、アメリ、キャルとケル。そして……新真だった。


「お前はいいのか?向こうに残らなくて」


 一応、この皇宮の地図を夕夜たちに渡しておいたから、捕まっているやつらを解放できることだろう。だから、新真はてっきり捕まっている転移者たちを助けるのかと思ったが。


「別に向こうは天然勇者がいるから俺はいらないだろう。それに……俺はこの奥に用がある」

「……そうか」


 新真が天然勇者のことを知っているのは驚きだが、それにしても、用がある、か。皇帝じゃないと思うのだが、一体誰の事だろうか。


 やがて二棟の扉も見え始めたことなので殴って扉を破壊する。そうすれば、同時に広間にいる敵も一掃できる。そう思ったが───吹き飛ばされた扉は奥の方でバラバラに斬られる。すごく綺麗な剣筋であり、一瞬であのデカい扉を切り裂くほどの剣技。しかもそれを行うは、たった一本の短剣。


 扉を切った際の土煙が晴れていく。そして、その先に映る人物は、蒼いフードを被る女。そしてこの気配……樹海での反応と一緒だ。つまり、ケルを運んだ者……コイツだな。


 キャルに一言告げようと其方(そちら)を向くと、酷く動揺していた。


「どうしたの、キャル。なにかあった?」


 その様子にケルは心配して言葉を投げかけていたが、キャルはなにも反応していない。(から)の言葉だ。


「やあ、久しぶり、キャル」


 蒼いフードを被った女が、口を開く。その声は、なにか聞いたことがある音で……


「ま、まさか……?」


 どうやら、ケルも気づいたようだ。キャルも、その女に向けて言葉を投げる。


「う……嘘でしょ……?だって、そんなはずじゃあ……」


 その声は、どこか生気を感じ取れなさそうな、ようやく喉から振り絞った声だった。

 女の口角が上がり、フードに手を添える。


「何年ぶりだっけ?アハッ♪忘れちゃった」


 キャルと真反対な、その声に軽快さを感じ取れる。それは、嬉しさ。久しく会えていなかった親友にようやく会えたという意味もこもっていただろう。


 女は、フードを外す。そこには、青い髪をした少女が立っていた。年齢は、14歳くらいだろうか。視線は、まっすぐキャルの方へと向いている。


「……フ…………フレ、ア……」


 唇は震えていて、視線が泳いでいる。ようやく出たその一言でさえ、躊躇う一言だった。


 そう、その正面にいる少女は、かつてのキャルの親友に似ていた。いや、波長を見るに、本人だろう。その少女は、二年前に迷宮(ダンジョン)で死んだはずの少女。


 髪は、赤から青へと変化しているが、容姿はこれっぽちも変わっていない。そして、声も。


「じゃあ、まずは───」


 とだけ言い、一瞬にも満たない速さでケルの懐まで移動する。腕は、全力で短剣を振りかぶる動き。


「───邪魔者を消さないとね♪」

「ケル!」


 フレアはもの凄い速度で剣を振りかぶるが、ケルはそれを防ぐ。なんとか反射神経が勝ったようだ。


 その様子に、フレアは笑顔から真顔に変わる。ご機嫌斜めと言いたいのだろうか。

 ギギギと剣と剣の火花が辺りを飛び散らすが、それはそれとして。


「あほかお前」


 フレアの腹に一発、蹴りをかまして吹き飛ばす。こんな四人の間に一人で立ち向かおうとするなんて馬鹿げてる。普通に考えてさあ……そっちにも兵士が沢山いるのに、さっきの吹き飛ばしでボウリングのストライクみたいに兵士が吹き飛んじゃったよ……まあ、ストライク?


 ケルとキャルの方を向く。


「じゃあ、俺たちは先に向かってる。ケル、キャルのことは任せた……。キャル、あれはフレアの恰好をした、ただの偽物だ。全力で吹き飛ばせ。それが納得のいかないんなら……殴れ?」

「どっちも同じじゃない!……はあ、もう。こんなことで動揺するなんて……わかったわよ、こうなったら思いっきり解決(ふっとば)してやろうじゃない!」


 うん、その意気だ。ケルに向かって頷くと、ケルも僕と同様のことをする。任せた。


 (さいわ)い、向こうは扉もなくガンガンと開いているので、普通に通ればいいだろう。


「一体なんなのか、わからないが……取り敢えずはいいのか?」


 新真は頭を掻いて混乱の一言を漏らす。まあ、アメリとかもキャルの過去を覗いてるから事情は知ってるけど……新真からしてみれば全くわからないもんな。そりゃそんな反応もする。


 向こうを見れば、フレアは立ち上がって、兵士はまた列を整えてる。はあ、またそんなことするなら……吹き飛ばすよ?


「『罅球体(ボール)』」


 その場で<法>を使った球体を作り出す。それは、まるでボウリングそっくりだ。さーていくぞ。球体にある三個の穴に指を入れて、そのまま投げる!


「また妙なことを……!こんなもの切り裂けば───」


 フレアがそんなことを言うので、一応その球体の説明をしておく。


「いっとくけど、それ爆発するぞ?」

「えっ───」


 時すでに遅し。フレアが『罅球体(ボール)』を切り裂いたせいで、兵士諸共(もろとも)爆破する。あーらら。


「全く、クーはいつも凄いことをするよ……」


 ケルがそんな迷言を言って、兵士たちは吹き飛んだ。うん、これこそまさしくストライク!


「私は、別に友情の話とか聞きにきたわけじゃないの」


 前へ、一歩踏み出す。


「そんな友情和解とかは、僕視点じゃないときにしてくれる⁉」


 ……場が、静まり返った。多分、僕の言ってることが分からなかったのだろう。さっさとこの場を後にしたいので言葉をつづける。


「まあ、いいや。取り敢えず、そういうのシリアス展開は俺たちが行ってからね!ほら、行くよ」


 アメリと新真に視線をあわせて、行くよと伝える。そのまま走り出し、私たちは三棟へ向かう。


 無事になるといいな。

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