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4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
二冊目《自称皇帝とジャパニーズ転移者》
55/102

18ページ,色仕掛け

 ───同刻、霊世界樹───


「霊王様……」


 翠の粒子が大樹から降り注ぎ、その光を灯す霊王の間。そこに居るは、佇む精霊王と、今なお瞑想を続ける霊王であった。


 霊王。それは数多の『霊』の上にいる頂点的存在であり、滅多としてお目にかかることはできない。それこそ、精霊王や、幽霊王などの一種の霊の族長でないと。


()の者達は大丈夫なのでしょうか?」


 あの日、精霊王は、特別な出会いをした。勇者たちと出会い、これ程に洗練された肉体を持つ者は久しぶりだ。と、率直に思った。だが、その後に出会うパルが異常すぎた。


 あれは、この世の者じゃない。そう、素直に感じ取れた。

 それは、精霊王という他の種族とは、もう一段階上の存在の【王】だからこそ、知れたことだろう。


 瞑想中でありながらもパルが特別なのか、霊王は口を開く。


「……あ奴は……ワシのことを【英雄】と申した……」


 儚く途切れる運命の最中にあった霊王だ。言葉は途切れ途切れながらも、その言の音を一つ一つ、意味を込めるように、強く、噛み締めながら言葉をつづける。


「ワシが為せることは……もう……す、くない。だからこそ、今こそ……やるしか───ッゴホッ!ゴホッ!」

「! 霊王様!」


 突如、せき込む霊王のもとに精霊王は駆け込む。それは、もう霊王が後先短いということを示唆していた。


 そんなこと、精霊王は百も承知だ。もちろん、それはパルも感じていたことだろう。


 霊王は、苦しそうでありながらも、言葉を必ずつづけた。


「こ、んな……愚かで、滑稽な……ワシ、の生を、あ奴は……美しいと言った……ワシを、【英雄】と、答えてくれた……」

「霊王様、もう……!」


 苦しそうに話す霊王を見ていることができなかった精霊王は、申し訳なさそうに口を挟む。


 そんな精霊王を安心させるためなのか、霊王はニコリと微笑み、杖を召喚させてその杖を頼りにさせつつ、腰を上げる。


 ヨロヨロとよろめきながらも、力強きその一歩を踏み出す霊王に、精霊王はもうなにも言えなかった。


 そして、その悠久の時を経たような足取りで辿り着くは、大樹のとある陣が描かれているところ。


 そこに、霊王はありったけの<力>を注ぎ込む。その間も、法文字が飛び交い、辺りを照らす。その姿は、なんとも見惚れるほどの美しさだった。


 だが、その一瞬の美しさも、すぐに消えるもの。霊王は力尽き、その場で倒れた。


「ッ!」


 それに気づく精霊王はすぐさま霊王の近くに寄り、その身を支える。


「霊王様……」


 その憂いを思わず言葉にしてしまった。そして、それは霊王にも気づくことだろう。


 霊王は、表にでることはない。それは、精霊王などの"分王(ぶんおう)"がすることだ。超王(ちょうおう)がすることではない。


 だが、そんな英雄が、日の目を浴びずしていいのだろうか。そのことを、精霊王は常日頃から思っていた。そして、そのことも、霊王はもちろん知っていることだろう。


「なにも……心配、することは……ない」


 霊王は、精霊王の頬に手を添える。ただそれだけ。だが、精霊王から、そこに一滴の涙が落とされる。精霊王はただただ、もう終わってしまうのかという焦燥感が埋め込まれていた。


 この瞬間を、永遠と感じていたい。そう思えるような、長き時間。


 二人の思い出を、想起させる時間が、この翠の粒子が降り注ぐ大樹が示していた。


 ***

 ───帝国入口───


「クー?なにしてるの?ぼーっと突っ立ってて」


 キャルが少し口を挟んできたので、言葉を返す。


「なんでもない」


 少し、嘆きの意味を込めて。蒼天を仰ぐ。まるで、同じ空の下にいたかというように。今はもう、地には居ないというように。


 私は、歩き出す。たとえ、誰かが止まっていたとしても。進み続ける。それが、残された者の運命なのだから。


「クライシスさん、これからどうするんですか?」


 小声で、夕夜が口を合わす。小声で話していたら、いつか敵にバレるかもしれない。これは、ある法を使おう。


『みんな、聞こえているか?』


 その私のセリフに転移者組ならず、他の者達も驚愕をした。唯一、アメリはいつも通り。


『これは、『遠隔念話通信(ハイン・トーバス)』といってな。転移者組に説明するなら……スマホ要らずのL〇NEだろう。こっちの世界でいうと……フマホが要らないMINEだろうな』


 その言葉で、この場に居る殆どが理解できていた。さすが、機械というのは比喩にも便利だ。


『さあ、これから今回の作戦を言う。まずは───』


 ***

 ───2時間(トマグ)後───


 帝国城の門。そこは厳重に何人もの門番がいる。他にも、<法>による聖道具がチラホラ。監視をするための物だろう。そういうのは危険だから妨害しておきましょうね~。


 機械というのは、便利だけど<法>とかで簡単に妨害できるから、ないのと同義だ。


 ちなみに今やったのは、監視されたものとは違う偽の映像を映しこませる。急に遮断されると、逆に怪しまれるからな。


 さて、他の門番は───思考を見る限り馬鹿っぽいから色仕掛けで勝てるか。


『さて、この中で男性経験が多い人ー!』


 突然、言う僕に、驚く人は居ない。なにせ、先程話したからだ。そして、門番に合わせた人数の女の子たちが出てくる。


 なんか慣れてなさそうな()もいそうだけど、気のせいか?いや、気のせいじゃなさそうだな。震えてるわ。あーでも彼氏ポジションみたいな奴が励ましとるわ。がんばれー。


「え、えーと門番さん……?ちょっと私と今でもいいから遊ばない?」


 ガチガチだ。凄いガチガチだ。でも、効かないはずはない。私が『魅了(ラレブ)』という聖法を使っているから。ほら、門番さんも興奮してきた。まあ、指一本触れさせる気はないけど。


 門番の背後に回り、普通に殴る。でも、それで床にバコンッ!と埋まってしまった。これがあっても、他の門番にバレるはずがない。今、『魅了(ラレブ)』の他に『状態異常(タレサバブ):混乱』を使って、門番を混乱させている。


 きっと、今頃は周りが見えなくなって女の子にだけしか眼中にないだろう。でも、そんな奴には女子の敵パンチ(ブレイク・バースト)


「あ、あのぉ……」


 縮こまって頬を赤く染めている子が尋ねてきた。この子は、先程色仕掛けをした子か。名は……諷歌か。


「どうした?」


 優しく返答を返すと、困った感じはなくなって、少し胸を張って……それでも自身が無いように答える。


「私達が……そのぉ、い、色仕掛け……する必要なかったんじゃないですか?」

「なんで?」

「ひゃっ、え、え……っと、クライシスさんなら、<法>で無理矢理することもできたんじゃないかなって……すいません!変なこと言っちゃって」


 諷歌のその答えに、私は図星のようにニヤリと笑った。


「正解だよ」


 だが、その言葉に諷歌は大層、驚きを見せた。


「……え?」


 私は答え合わせをする。


「別に、僕が<法>やらなんやらを使って簡単にちょいっと潰せば済んだかもね」


 その私の言葉に、少しイラついたのか、語気を強めて僕に尋ねてくる。


「じゃあ!なんで、い、色仕掛け……とかしたんですか!」

「それはねえ……」


 妖しげにニヤリと笑って諷歌の反応を楽しむ。思った通り、少し怯えるような表情が取れた。いや、いいね。


「単純にさ。最近、見どころがないと思わないかい?」

「……へ?」

「戦いといっても僕が簡単に終わらせるから、苦戦する描写なんて碌にないんだし……それに誰得なことしかなかったんだから……色仕掛けぐらいしないと、読者にも……(ごにょごにょ)」

「あの……クライシスさん?」


 困惑の表情で尋ねるその子に、笑顔で向き直る。


「なんでもないよ、『さあ、皆。皇宮に入るよ』」


 もう、準備はできてるみたいだ。さあ、ぶっ潰すか!皇帝!

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