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4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
二冊目《自称皇帝とジャパニーズ転移者》
52/102

15ページ,帝国の違和感

 ───19(レル)、夕夜の部屋(借)───


「で、どうするわけ」


 普段、仲間内でしか話をしないギャルっぽい谷内(たにうち)さんが、話を切り出した。それぐらい切羽詰まっているということが表している。


 私達、人口勇者は、(クラス)がある。級が高ければ優遇される。そして、夕夜くんは級が1位なので私たちの中で個人部屋が一番広い。


 だから、クラスの頭いい人たちが集まって、こうしてどうしようかと話している。


 話している内容は、今後のことだ。私たちは、皇帝様から、ある"実験"をされる予定だ。その実験がなんなのか未だによく分からないけど、なにかよくないことが起きそうな予感を感じたため、このような会議が始まった。


「俺は別に実験を受け入れてもいいと思う。もし一人が死んだら、俺たちがここに居なくなることは向こうも分かっているはずだ。だから人が死ぬレベルのことは、向こうもしないと思う」


 夕夜くんの言葉に、納得した人もいたけど、谷内さんはそれに反対をした。


「確かに、死ぬレベルにはしないかもだけど、それ以外は?もしかしたら、洗脳で私たちを変えちゃうかもしれない。それも、無理矢理で。そしたら、私達、昔に戻れなくなるかも……」


「ちょ、ちょっと待って谷内さん。なんでそんな話が飛躍してるの?」


 谷内さんの言っていることが少し変だったため、私が突っ込んだ。


「だって、そう思わないの⁉こんななんでもありな異世界に、なんで誰も疑問を持たないの?私達って唯の高校生───ムグッ」


 谷内さんとよくいる仲間の一人が谷内さんの口を塞いだ。


 なにかさっきから谷内さんの様子が変だ。なにか、誰かに操られているような───〈顕在の勇眼〉を使用する。


 すると、なにか線が繋がれていた。これはジューイさんが言っていた"法線"というものだったけ。"法線"をよくよく直視すると、なにか文字が書かれていた。これはよく見かける。"法文字"だ。


 陣を描き出すときに用いられる文字だ。<法>は、通常の文字では<法>は発動せずに、法文字でしか反応を起こさない。他にも、<力>には反応があったりとかはするけど、多分それっきりだ。


 術式を描くのには法文字が必要だけど、職業が『魔法使い』の系統だったら大体、誰でも〈法文字破棄(ほうもじはき)組術式(そじゅつしき)〉を持っている。稀にでもなく、剣士などの系統の職業でも持ってるくらいなので、覚えている必要はあまりなかった。


 でも、この法文字の中に、"しんま"の文字が書かれていた。つまり、この法線を繋いでいるのは新真(あいつ)のせいだ。あいつが谷内さんをおかしくしてるのか!


「ちょっとごめん、席外す」


 皆に告げ、一人で新真のところへ向かう。


 ***


 ───新真の部屋───


 新真は、級が下から数えた方が早いので、部屋はこじんまりとしている。そして、その部屋からはまったくとして生活感が無く、必要最低限の物しかない。


「ねえ、谷内さんを操ってんの、アンタでしょ」


 部屋の入るや否やそう突発的なことをいう私に、新真は平然となにもやっていないという風に「違う」と言ってきた。


 でも、その発言は墓穴を掘る言葉であった。


「なんで、なにも事柄を知らないアンタが"知らない"って言うんじゃなくて"違う"って言ったの?それは、なにかを知ってなきゃ言えないセリフでしょ?」


 私がそう言うと、新真はあからさまに"あっ"という顔をした。


「ほら、早く答えて。アンタが谷内さんを操ってるのね?また違うって言っても信用なんかしないよ」


 ぐいっと体を前のめりにして顔を近づける。するとようやく新真は手を挙げて降参の旗をあげた。


「なんでわかった?」


 真っ黒な瞳に映し出される私の顔。そこは、真っすぐと私を見ていることを表していた。


「法線に書かれている法文字にアンタの名前が載ってたの」

「また〈顕在の勇眼〉か……今度、それも対策しておかないとな」

「なんか言った?」「なにも」


 ジーッと新真を訝し気に見て、数秒が経つ。今度は私が降参をして新真から離れる。


「まあ、いいわ。でも、なんで谷内さんを操ったりしたの?動機は?」


 そろー……っと新真の視線が逸れていったので、それを顔を動かすことによって修正。ジーッと目で問いただす。暫くすると、新真は遂に口を開いた。


「……別に、谷内さん?っていう奴なら気が強そうだと思ったから」

「なんでそんなことをしたの?」


 私がそう言うと、新真はそっぽを向き、すぐさま『遮断音(しゃだんいん)結界』を張り巡らせる。


「……皇帝の考えが危険だと思ったからだ。そこら辺は、ジューイと話をつけてある」

「ジューイさんと……?一体、新真はなにをしようとしているの……?」


 新真はこちらに振り返り、催促をかけるような声色で告げる。


「ここから、脱出しようと思う」


 ***

 ───10(メイル)後、夕夜の部屋───


 新真から話を聞き、急いで夕夜くんの部屋に行って、皆に新真から聞いた話をした。


「つまり、皇帝様が嘘を吐いてなくても吐いてても、ここから離れたほうがいいって?」


 夕夜くんの言う言葉に、私は肯定の頷きをする。


「ジューイさんが言うには、異世界に行く<法>なんて未だに完成していないんだって」

「証拠は?」


 図書委員を務めていた(すえ) 学巳(さとみ)さんが私に的確な証拠を求めた。


「この術式は見たことあるよね?」


 そういい、私は『空間聖級聖法』『録画音再生空間(ガッツァ・ト・フォー)』の陣を描き出した。そして、特定の<法>を流し込もうとするけど、圧倒的に聖力が足りなかった。


「ここにジューイさんの映像がある。でも、聖級の<法>なんて、私達には到底、展開なんてできやしない」


 聖・魔級なんて、"聖人"が苦労してようやく展開できるレベルの<法>。まだ未熟な人口勇者では、できない。


「だから、私達に協力してほしい、と?」


 私は頷き、言葉を続ける。


「察しがいいね。そう、一人だけなら発動は難しいけど、協力すれば、ここに証拠を流せる」

「でもさ、同じ"法の波"を流す人なんて居る?」


 今まで黙っていた知尋が口を開く。確かに知尋の言う通りで、法の波を同じ周波数で流し込める器用な人は数少ない。でも、この中に居る。


「俺ができる」


 そう、この転移者の中で(クラス)が一位である夕夜くんが、その人物だ。


 ***

 ───映像閲覧後───


「ほんとな訳ね……」

「じゃあ、脱出するにしても、どこに行くの?」

「そこはもう、候補がある」


地図製作(バン・レ)』を即時展開。皆に見える大きさの空間地図が現れる。その地図をイメージで、ある場所に赤く円を描く。


「ここは?」


 夕夜くんが問うその答えに、私は皆を見て、告げる。


「カイメルス王国。帝国よりは<法>の発達は進んでないけど、世界を代表する冒険者が沢山いる。しかも、治安も良い。さらに言えば───」


 私は『地図製作(バン・レ)』で出来た空間地図を拡大して、とある一家を指さす。


「ファスト家。侯爵で地位が高いけど代々、冒険者を務めていて、その誰もが高ランク。当代のガイラズ・ファスト侯爵閣下はSランクの冒険者で、温厚な人らしい。もしかしたら、私達を匿ってくれるかもしれない」


 私の言葉を、皆はもしかしたら……と期待を漏らした。


「確かに、それはいいかもしれないな」

「決行は?いつにする?」


 皆の視線が夕夜くんへと向かう。夕夜くんは顎に手を当てて、告げる。


「なるべく早めにしよう。明日だ」


 ***

 ───現在───


「どうした?香穂里」


 普段、新真から声をかけてくるはずがないのに、珍しい。

 隣に座ってこちらの顔を覗いてきた。質問の答えを催促してるらしい。


「どうしたって、なに?私の顔、なんか変?」


 こちらも新真の顔を見て、視線をあわせたかと思うと、新真は顔を逸らした。でも、質問には答えてくれる。


「別に、ただお前の顔が少し暗かっただけだ」

「なに?心配してくれるの?」

「どうでもいい」


 即答された。でも、どうでもいいならそんな質問しなくない?


「で、なにがあった?」

「あること思い出しただけだよ」

「……脱出の時のことか」


 私たちは、帝国から脱出を試みた。───だけど、失敗した。気を付けるべきだったのだ。あの話を、録音されているとは、誰も気づかなかった。


『ちくしょう!なんで皇帝のやろうが待ち構えてるんだ⁉』

『やばい、捕まる!』

『二手に分かれよう!』


 ……。あの後、私たちは、予定通りファスト家へと向かった。でも、新真たちは精霊樹林の方へと向かった。


「ようやく会えた、最初にあったとき、そう思ったの」

「ああ」

「離れたくない」

「……ああ」

「ねえ───」

「嘘つき野郎がまってる、行こう」


 私は、新真を睨んだ。でも、新真はなにも分かってなさそうで、思わず吹いてしまった。


 一度、離れてしまった。でも、これで離れることはない。


 クライシスさんは、私達を繋ぎとめてくれた。最初は、非道な人だと思ったんだけど、心は温かくて、とても優しい。


 もう二度と会えないと思ってた。でも、こうして、また出会えた。


 そして、今度は、帝国で捕まっているあの子たちを助ける番だ。


 行こう、帝国へ。みんなを救うんだ。

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