11ページ,真体
───大昔───
「何故、お前如きが我らの術式に干渉するのだっ!」
戦乱が響き渡る時代。そこは、命が軽々しく見積もられ、人々が非情に徹していた時。奴隷というのは当たり前で、善人でも、奴隷は当たり前のものだということを思っていた。
だが、"外"から来たものは、違和感しか感じられなかった。その世界が、不気味で、歪んでいるということでしか世界を見れなかった。
その者が取った行動はただ一つ。
ただ奴隷を解放した。偽善と呼ばれるかもしれない。無駄な行為だと、愚行だと評されるかもしれない。でも、なんとなく。そうしたかったからそうしただけ。傍迷惑な行為を永遠と繰り返した。
「この、堕神がぁぁああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!」
そう悲痛な一言を漏らし、倒されていくこの神も、納得がいかないみたいだったのだろう。
こんな奴隷が許される世界で、存在意義を否定されるようなことをされているのだから。
たとえ、許されなくても、罵られようとも蔑まれようと、進み続ける。いつかの目標の為に。
───人々から愚者と呼ばれ、世界で一番の罪人と呼ばれた者。その名は、パル・ヴァデレード。後に、世界を改革した英雄と言われたものだ。
***
───現在───
あることを思い出していた。しょっちゅう、奴隷解放をしていた時のことだ。ただただ、愚者と蔑まれていた日々。
あの後、奴隷の改革を進めて、なんとか道徳という概念をみいだせた。
まあ、そんな過去があるのだから、コイツを倒すのは簡単なんだけどな。
「ふんっ、だが所詮は人の身。我を見るのは初見であろう」
全然、勘違いをしてるぞ。コイツ。竜の姿っぽい感じがするが、列記とした神。だが、力は下級天使と同等。
先手必勝。その言葉と共に流れる首先は、神の歯先が加われる。そのまま、神は俺の首を噛み砕こうとするが、俺は開かれようとする口と、その対象である俺の首を合間に自身の右手が割って入り込み、覇気で神の頭ごと吹き飛ばす。
「遅い」
そう一言漏らし、神に追撃を喰らわす。転移者組は、そんな俺らを無言で呆気らかんにその様子を見てい居た。
1秒にちょうど70発。その感覚で神を殴り続ける。こんなただの殴りで、神は死なない。
「トアノレス」
俺の手には白き光る器具が掌にある。そして、器具特殊付与をさらにする。
「器具特殊付与、対象『トアノレス』。№63。《社斬》」
トアノレスに神を倒すエンチャントを施し、神に向かう。
「っは、先程は油断をしたが、それがなければこんなの余興に過ぎぬ。たかがエンチャント如きで我……を……⁉」
「悠長に話してると、すぐに死ぬぞ」
ぺらぺらお喋りを繰り返すときに、片方の小さな腕を斬った。でも、流石神で、斬られても悲鳴はあげなかった。
「ふんっ、そんなもので、小粋になるなよ」
言葉と同時に斬られた腕は、ニュルッと再生をする。まあ、当然だろうな。
だが、すぐさ神の後ろに転移をして、竜の姿をする神の毛を掴み地面に叩きつける。ドゴオンッ!と土などが舞う。さらに私はスタッと神の懐に着地する。すると、頭上からカチャ……カチャ……と音がする。さらに、無機質な声が響いた。
『個体名:パル=ヴァデレードが、スキル〈暴食悪魔〉のLvupを申請しています……完了しました。今までの功績と経験値によりスキル〈暴食悪魔〉はLv[MAX]になりました。……個体名:パル=ヴァデレードはさらなるLvupを申請しています……失敗しました。圧倒的に経験値及び功績不足です。……これにて、終了致しま───個体名:パル=ヴァデレードは、不足分を補う"何か"を生贄にして進化を申請。魂を代用して、Lvupを申請。……正式な魂が不足しています。生命力を代用します……失敗しました。生命力がありません。<力>を代用します。リスクとして、存在力が低下します。……完了しました。スキル、〈暴食悪魔〉はLv[限界突破]へと至りました。これにて、終了します』
よし、準備終了。この間、約0,7秒。勿論、周りには周知されないし、できない。
じゃあ、早速……〈暴食悪魔〉を作動して、喰らう。対象は、概念である【勇気】。普通、〈暴食悪魔〉は物理などのものでしか喰らうことができないが、[限界突破]というのは時空間次元を飛びぬけたものである。その効果は絶大で、"一つ"でも[限界突破]があれば、[限界突破]が無い者に圧倒できる。
そして、特殊な進化がされる。特化的に超絶進化がされる。今、〈暴食悪魔〉が物理だけでなく、概念をも喰らえるようになったのも、そのせいだ。
ところで、この神の勇気を喰らったのも理由がある。コイツは、今の世界には必要だ。だから、私の奴隷となってもらう。
勇気を無くすというのは、戦意を喪失させるためだ。そうすれば、僕に素直に付いてきてくれるかな?
「ガッ……グア゛……ガガガガガ……!」
神は為す総べなく、勇気を喰われるが、流石神というべきか、なかなかに抵抗してくる。
「グググググググググググググ……!」
火花が飛び交い、最早食事どころではいなくなる。後方に退き、神を見据える。どうやら失敗したようだった。
作戦変更だ。神を御する方向だったが、帰らす方へ変更することにしよう。
「なあ、屈服するという考えはないのか?」
神にそう問いただす。目を鋭き、圧をかける。まあ、平たく言えば、怯ませる。
「そんなの、この至上なり神を従属にしようと考えているのか?試練をしているんではないんだぞ!」
そう言い、神は噛みついてくる。やはり、下級神の癖にプライドが無駄に高い。どうせ、<神界>では虐められているくせに。こっちに来た方がいいだろ?
……まあいいや。無理矢理でも従わせてやろう。帰らそうとしたけど、それだと気の毒だからな。私は優しいのだ。
嘴の上下を両手で抑え、一気に閉じさせる。
「グアッ⁉」
驚きを漏らせない声を捻りだす。まあ、急に口が閉じられたのだ。驚くし、痛いのだろう。
更に、追撃を下す。どてっぱらに拳を叩き込み、直線状の先にある崖壁に神は埋め込まる。
自分も神の懐にすぐさま向かい、拳をカクテルを注ぎ込むように叩く。
無表情に、無心に、無慈悲に。ダダダと音が辺りに響き渡り、死にはしないが、苦しそうだ。
「どうだ。降参するか」
「ガベッ!ヴォッ!……こ、コウザッ⁉」
なにか言おうとしてるが、まだまだ降参とは言わないな。まだまだ殴りを続ける。
「どうだ」
「も、もうやめない?」
キャルが横から割って入る。そこに、アメリも来て一言。
「まだまだ。もっとやらないとコイツ懲りない」
頬を膨らませて訴える。一度、殴りを止めて神の様子を見る。
「も、ハア……もう、もう、降参……だ、ハア、ハア……」
竜の姿をしている神は降伏を意味する言葉を発する。その返答に、僕は不満の一言。
「なんだ、もっとやりたかった」
すると、神はビクッと身を震わせ、身体を手で覆わせ、身を守る。なにか危険を察知でもしたのか?
そんな考えもさっさと変えてパチンッと指を鳴らす。すると、神の姿は真体へと変わる。
こういう神のような生命は、仮体と真体がある。仮体は、獣のような体であり、この神のような竜の姿がある。
逆に、真体は、人間のような姿を模しており、力的には仮体とはあまり変わらない。
決定的なことは、一つ。真体は、体力を多く消耗する。だが、仮初の姿から解放される気分から、精神が安定する。
だが、私の『姿暴露』は、そのデメリットを無くす。つまりは、真体の姿でも、多くの体力を消耗せずに、居られる。
まあ、他にデメリットが生まれてしまうが、今はいいだろう。
「こ、この姿は……」
見事、神は真体である女性の姿を現した。随分と、自分の姿を見て驚いているだろう。<神界>では真体のデメリットが消されるからずっと真体の姿でいるが、<現界>ではそうはいかない。
だから、この姿になり、混乱しているのだろう。その上、多くの体力を消耗していない。だから、更に頭は渦を巻いている。
「<神界>なんて退屈なところじゃないか?そんなところよりも、私達に付いていった方がよっぽどいいがな」
神に、手を差し伸べる。拒否権は、もちろんある。だが、それを許すかは僕次第。
拒否したら、ここで滅びることが、コイツにはわかるだろう。
それに、下級神なんか<神界>では下僕にほぼ近い存在だ。それよりも、こっちで自由に過ごせていた方が楽だろう。
神は、おずおずと俺の手に触れた。倒れていた神を引き上げる。
「新しい目標ができた」
そう一息置いて、次の言葉を告げる。
「この世界を変える」