10ページ,神が宿る術式
───9時、訓練場───
『君が探している者は、どうやら帝国の皇帝みたいだぞ?』
足を踏み込みながら、霊王が言っていたことを思い出す。まあ、予想通りだけどな。でも、それを何故、霊王がわかっていたことについて、だ。
どんな<法>を使っていたのか。───いや、あれは<法>ではない。動き出していた足を踏み止め、空を仰ぐ。
ふう、と一息吐き、再び思考を巡らせる。
あれが、俺が求めていたもの。だが、まだ足りない。まだだ。確かに、俺が求めれるものなのだが、完璧とは言えない。多分、霊王はあれを『悟り』というのだろう。それは、直感的だ。
理解的に、だれでも、理論的に。それができるのなら、それは正しく、俺が望むものだ。
「なにか悩みがあるの?」
ケーラが『自身自立型土人形』を発動させ、自身と限りなく近いゴーレムと戦う中で私と話す。
流石、勇者ということだけあって、自分とほぼ同じ実力をもつ『自身自立型土人形』を軽々倒した。
すなわち、戦うたびに成長をしつづけているということだ。多分、今の実力なら、この前私と戦った時よりも、心身共に勝っているだろう。
「いや、別に。それにしても、ケーラは凄く強くなったな。もう聖人と肩を並べるほどじゃないか?」
すると、ケーラは、黙り込む。どうした?と目で送ると、目を泳がせて質問をする。
「……聖人て、なんだい?」
ああ、わかんなかったんか。別に気にすることなんてないのに。
「そうか、スラムで過ごしてきてよく分からなかったんか。ほらこれ見てみな」
そうして、僕はケーラにある本を差し出す。その本の題名は、『世界大百科』。ペラペラとページが捲れていき、ある単語のページで止まる。
『聖人について』それが書かれていた。
その後に、説明が書かれている。そこには、こう説明がされていた。
『聖人とは、聖なる人とされており、尊ぶ者とされる。人間が進化した別の種族という見解もあるが、定かではない。だが、ステータス上での種族には、人間ではなく、聖人と記載されている。主な人との差異は、力の上昇、スキル及び<力>の強化、そして、固有進化。力の上昇と、スキル及び<力>の強化は、言葉の通り。だが、固有進化は、個々によって変わってくる。例を挙げれば、獣の姿になる者や、無から有を生み出すほどの創造力をもつ者などが居る。また、聖人は、人間という種族にしかならないので、人間が獣人や小職人族などの種族を差し置いて、種族として発展した理由としても言われている』
「……なるほどね。よくわかったよ。でも、なんでクライシスがこれを持ってるんだい?」
「ん-と、これ、俺がスキルを用いて作ったものだから」
「あいかわらず、君は斜め上を行くね……」
手で額を押さえて呆れるケーラだった。どうして、呆れているのだろう。
それが、今の私にはよくわからなかった。
ケーラは、私と喋り終わった後、再び『自身自立型土人形』と戦うが、今回も楽々倒せて少し悩んでいた。そんなケーラに、ある術式を書いた紙を飛ばして一言。
「この聖法をつかって、もう一回『自身自立型土人形』と戦ってみな」
渡した聖法陣は『制御』。全ステータスを低くさせる術式。
これをすれば、ある程度苦戦するだろ。───ズドン!
……ゴーレムが倒された音がした気がしたが、気のせいだ、多分。
「……そんなことやったって、無駄な事わかってたのに」
横で聞きなれた声が。もちろん、アメリさんだ。宥めるために頭も撫でる。
そしたら、不満の声が、漏れ出してくる。
「……最近、頭なでだけで済まそうとしてない?」
少しだけ、図星だったが、反論を告げ───
「はい、図星って言った」
「……それはずるいよ、アメリ」
読心術で心を読んだ。だから判明したのだ。ホントに、コイツは~……!
「でもさ、アメリも満更じゃないだろ?」
頭を撫でている時、アメリは少しだけ嬉しそうな顔をしている。いや、少しだけじゃないか。
「嬉しくない訳ないでしょ」
ぶーっと率直な意見をするアメリ。こうした意見は、自身にとってもうれしい限りだと思う。
でも、こうしてなんの恥じらいもなく言われてしまうと、居た堪れない気持ちに苛まれる気がする。
そういえば、ケルとキャルが最近、音沙汰ないみたいだけど裏でいちゃついてるの、知ってるからな。今だって、二人だけこの訓練場には居ないし。まあ、自由参加っていったから別にいいんだけど。
「大変だっー!」
声が聞こえる。その声の色は、助力の色彩。すぐに、特異点となる犯人であろう居場所を特定して、転移する。
アメリも、それについてきて転移聖法陣を発動。
白い光に包まれ、光が晴れるや否や、眼下に大柄の長霊族の男。あれはマナ暴走。
マナ暴走は、生き物の、約6割を占めているマナが、急激に増加したことによって体の制御ができず、マナ暴発という大規模広範囲爆発をする状態の事。
対処法は───
「アメリ、サポートは頼む」
「わかった」
上のほうへと転移した為、下に居るマナ暴走エルフに向かって、降下していく。
そして、繊細なほどに微細な力を込めて、殴る。それは、相手の<力>の波長に合わせた<力>を込めた拳。
さらに漏れ出た汚染された空気中のマナはアメリが『聖域』で洗浄をする。
「いっちょあがり」
スタッと着地音が聞こえそうな着地と同時に、無表情でピースをするところがまた可愛らしい。
じゃあ、今度は俺か。
「『可視化聖魔力拘束』」
一応、暴れそうなので、拘束をする。思った通り、ばたばたと暴れている。
「落ち着け」と<力>を込めた言の葉を奴にぶつける。
ヒッと喉からかき出た悲鳴がエルフから聞こえる。そう怯えなくていいのに。……ん?
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
ただ謝り続けるエルフの男。しゃがみこみ、笑顔を向ける。どこか、ぎこちない気がするが。
少し空気が重いので、手刀をエルフに叩き込む。エルフは、力尽きるように膝から崩れ落ちる。気を失ったようだ。
転移者組も合流して、場の状況を把握している。なんか混乱してるみたいだけど。
「ねえ、あれって……」
転移者組の一人が声を上げる。視線の先には暴走男エルフの首。虹色に光る輪が、首を絞めつけている。
綺麗な色彩と裏腹に、その首輪の名は『戦奴隷の首輪』。まだ奴隷なんか発展に無意味な娯楽を続けているのか。
首輪を握りしめ、潰す。直後、黒い瘴気が僕を纏う。これは……悪魔との契約に似ている。
奴隷というのは、主従関係の契約。その起源というのは、ある悪魔契約をした者が、その術式を弄り、人間と人間を、悪魔契約じみたものにしたことだ。
無論、悪魔契約と似るものとなる。だが、契約をするのは下級クラスでも恐ろしい力を持つ悪魔ではなく、魔王にも劣る人間だ。悪魔契約は、時間制限があるのだが、非力な人間では、時間制限などほぼあてにならない。そこまで制限できる力がないからだ。
それが、奴隷関係というもの。
だが、それを強制的に破るとどうなるか。
先程も述べた通り、奴隷契約は、悪魔契約とほぼ似ているもの。契約するものが、悪魔か人間かの違いだけだ。
そして、契約には、神聖な儀式とおなじだ。その術式には、"神"が宿る。契約とは、術式と同義。
さらに、術式を崩壊させると、残影の<力>が発散して、辺りに飛び散る。
その崩壊は、神が崩壊するのではなく、神は、周りの<力>を借りて受肉する。
俗に、"降臨"とういう。だが、その受肉は、明らかな<力>不足により、実力が圧倒的に下がる。
それに、術式に宿る神は、凡そ下級神だ。
その実力は、下級天使とほぼ同等に下がる。
『だれだ、我を妨げるものは』
脳内に響き渡る声を、神は漏らす。いや、ほぼ神ではないな。
「かかってこいよ、雑魚が。すぐに殺ってやる」
また、昔みたいに───な?