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4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
二冊目《自称皇帝とジャパニーズ転移者》
46/102

9ページ,霊王の言葉

 ───2(レル)長霊(ちょうれい)回廊───


 辺りは、闇に包まれ静かな夜。アメリには、俺の〈多数並列存在(ドッペルゲンガー)〉が居るから、ある意味大丈夫だ。


 スーッと傍から見れば幽霊のような足取りを、風は自然の雨のように通り抜ける。その感覚は久しぶりのような懐かしさを覚えて回廊を歩いていく。


 やがて、回廊からヌウと姿を現すは、エルフの長老。僕の顔を見て事情は知っていると言わんばかりに、ついてこいと促す。


 俺はその待遇に「やけに素直だな」とだけ言っておく。それに長老は「なにを言うか。あれだけの殺気をだしておいて。あれで従わなかったらワシが殺されるところだ」


 ここでは公私どちらかと言えば私的なので一人称がワシと長老はなっている。

 そして、長老には先程、人工勇者と話している際に〈仙王念動力(ヌタール)〉で思念を飛ばしておいた。


 目的は、『最長老に会わせろ』というもの。殺気を長老だけに漏らしながら思念を飛ばしたので、従うしかないだろう。


 コツコツと長老の足音だけが回廊に響きだし、歩を進まれる。だが、暫くすると、その足音は止まり目の前には素朴な扉だけがあった。


 この回廊というのも特別で、精霊とつながりが深いエルフしか使うことができないとされる『空間皇級聖法』『長霊回廊出入口(トメイファスト)』。でもまあ、俺ができちゃったから今、私がここに居るんだけどね。いやー長老が驚いた顔はよかった。


 僕がこう思考している間でも、扉は少しずつ開かれ、その間にも神聖な光が漏れ出る。少しダメージがくるので、『超即(ちょうそく)再生』を常時発動。


 二つの扉が遂に開き、信じられない広さのドーム状部屋が(あら)わとなる。辺りには小さな蛍のような光で包まれており、森のような形状だ。そして、この部屋の真ん中。


 それはこのドーム状の中心となるように(そび)え立つ巨木だった。


 そこまで行くに、古びた苔が生えた階段が連なっている。精霊もそこらに居るようで、見たことが無い私にじゃれあっているようだ。


 私達が最初に居たのは、ドーム状のこの部屋の結構高めの場所だ。


 だから、下にある巨木に行くこの階段は下り階段だった。それに、あまりにもこの部屋は広いため、巨木にいくまでに相当な距離があるが、それを長老は疲れた様子も見せずに淡々と歩いていく。


 巨木に近づいていくと、木々が少なくなり、草の生い茂りも小さくなる。といっても、多分この部屋の森のどこからでも、この巨木は見えるんだろうなあ。


 それくらい、この巨木はデカく、それに全体だって木々が多いわけじゃなかった。

 ぎっしりと詰められていくのではなく、ちょうどいい感覚で隙間が開かれていた。


 ───そこで、ある一人の老人が見えだす。巨木の根に座っており、巨木のほんの一部分である所の幹に腰かけていた。


 蛍のような小さな光は、座っている老人のところに近づくと、より一層、光を強めていた。


「綺麗だ……」


 ほんのなにも考えずにでた一言。別に、あの老人の容姿が美しいわけではない。


 ただ、あのただずまい、姿勢。その挙動。この部屋の神聖な雰囲気を相まって、それはとても綺麗と呼べるものだった。


 そして、実感する。この人が、最長老だと。


「霊王様。客人をお招きいたしました」


 すると、座禅を組んでいた霊王は、なにも動じずに、静かに口だけを動かす。


「……そちが客人とは……珍しいこともあるものよのぉ」


 喋り終わり、開きだしたその目は、まさしくなにも見えない盲目の目であった。しかし、そのようななにもない眼であったとしても、そこには慈愛の瞳が飾られていた。


 俺は、偽りもなく、一切の躊躇もなく話し出す。


「失礼します。私は、パル゠ヴァデレードと申します。貴方様のような者と出会えて光栄です」


 すると霊王はなにも動じず、ただ正論を述べる。


「よしとくれ。お主は、ワシの何億倍も生きておる。そのような武人に、遠慮などおらぬよ」

「いえ。私は、長く生きているだけのこと。一生の間でここまで上り詰めた貴方様とは違います」


 この人は、英雄だ。まさしく称えられるに等しい。神(なら)ざぬ者でありながら、神の身に限りなく近づいている。これで、寿命が無かったら……───頬に手が添えられる。


「よしてくれよ。悲しむのはやめときなさい。それは本当に最後まで取っとくものだ」


 …………………………………………俺は、この人よりも何億倍も、何兆倍も生きているのに。到底、この人に及ばないと痛感する。


 強さではない。力ではたどり着けないそれを、この人は極めている。私とは、まったくの別のものだ。

 顔をあげ、霊王の瞳を見て告げる。


「今度、私の仲間を連れていきます。その子たちを、見てあげてください」


 すると霊王はニコッと見せ───


「いつでも来なさい」


 ───写し出されるはずのない、虚ろで無色な瞳に、慈愛の色を彩られた。


 ……今日、皆でここに来よう。なるべく、早めに。


 ***


 ───4時間(トマグ)後、エルフの宿舎───


 ここに泊まり、一晩を過ごした。まあ、俺は一晩は過ごしてないけど。


「で、今日はどこにいくんだい?クライシス」


 ケーラがニコやかに告げ、あまりのイケメンスマイルに転移者組の女の子大多数がダメージを負ってしまう。


 症状としては、鼻血や吐血など……


「まあ、見ててくれ」


 ゆっくりと、皆に見せつけるように術式を描く。久しぶりにしたかも。


「じゃあ、これを真似して皆やってみて」


 描かれた術式を皆、悪戦苦闘しながら描いていく。そして、そこにはちゃっかりと、転移者組の仲間も居る。結局、今いる転移者組で話し合って、俺に付いていくことにしたらしい。


 ちゃんと新真も居る。スマイルを送ると、プイッとそっぽ向かれてしまった。


 あとアメリからの鋭い視線も。夜、アメリからは分身のことがバレて抱き枕にされていた。

 そして「パル、また気に行ったところ行った。ふざけるな。ふざけるな」「ずっとここにいなさい」「なんで分身なんか用意したの」「私のこと嫌いになった?」


 ……散々だった。でも、夜は貴重な体験もできているのでプラマイゼロ?


「クー皆できたみたいよ」


 キャルが教えてくれたおかげなんとか我に返る。あとでアメリになにか言われるのは覚悟しないとな。


「じゃあ、描いた術式に聖法を流し込んでくれ」


 といっても、描いた術式───『長霊回廊出入口(トメイファスト)』はバカデカい聖力を使う。


 だからまあ、俺が手伝わないといけない。聖力が足りていない奴の術式に干渉して、代わりの聖力を流し込む。


 このときに大事なことは、<力>の波長を合わせることだ。

<力>の波長は、個々によって違う。そのため、他人の術式に干渉するときは、自分が相手の<力>の波長に合わせないと、できない。


「あっ……できた」


 他にも、できたという者が多くなり、次第に全員ができた。───アメリが袖を引っ張る。


「……他の人にあわせなくていい……波長を合わせるのは私だけにして」


 やばい。すっごい拗ねてる。頭を撫でてなんとか沈めさせる。だが、相変わらず、頬はプクッと膨れたままだ。


 だから、アメリのことは一旦、無視して皆に指示を飛ばす。


「じゃあ、目の前に扉ができたと思うが、そこに入ってくれないか?扉を開けるときは、少しの聖力が必要だが、そんな消費するわけじゃないから安心してはいってくれ」

「クー、これって、皆、一人一人、扉、作る意味あったの?」


 ケルが質問を促す。それに俺は淡々と返事を返す。


「まあ、練習としてな」


 その一言で。

 徐々に、皆が扉の向こうに入り、僕が最後となったとこで入った。


 回廊に行くと、皆はなんとか来れたみたいで、回廊の隅から隅まで見渡していた。


 そして、私が来たことにより、皆の視線は私に向く。


「じゃあ、行くか」


 真っすぐと奥まで続く回廊に対して、こちらも真っすぐと歩き出す。

 皆は歩き出しても、物珍しく辺りをキョロキョロとみていた。結構、殺風景なのに不思議だな。


 だが、アメリはそんなことは気にしないといった様子で俺と話していた。


「昨日、私のところ来なかったのって、これのせい?」

「そうだよ、だから許してくれ」

「やだ」


 即答された。


 扉の前に着き、そこには長老も居た。


「ようやく来たな」


 そこには、威厳を構えた気迫のある長老だった。昨日のようなフレンドリーな感じはあまり感じられない。


 そのような雰囲気に、転移者組は緊張を覚える。


 長老は、おはようと挨拶もせずに無言で合図を促したら扉を開ける。


 二つの扉が、開かれ、現れるは昨日と同じ景色だが、飽きもしない不思議な部屋であった。

 相変わらず、広いところだ。これには、もちろん、転移者組ならず、アメリも多少驚いている。


 ケルやキャルはキャッキャと遊ぶようにあたりを見てコショコショと話している。


「ここにきて、よかっただろ」


 アメリに問いかけると、少しだけ微笑みを浮かべたアメリは私の腕にくっ付く。

 歩き出し、巨木へと向かう。長老によると、あれは一つの世界に9つしかない『世界樹』らしい。


 まあ、確かに納得がいく。


 世界樹の近くに来ると、相も変わらず、全くとして動かない霊王がいた。

 泰然で悠然。そんな言葉が似合いそうな姿勢だが、昨日よりも少し瘦せていた。


 ……やはり、寿命が。


「あわてることなどない」


 ゆっくりとそんな言葉が紡がれた音が聞こえる。音源は、霊王から。しかし、口は動いてなどいなかった。それに、〈読心術〉やそれの進化系統を使った気配がまるでなかった。


 流石、《英雄》と呼ばれる類の───


「そんな大層な言葉でワシを表すでない。お主の方が、よっぽどじゃよ」

「そうですか」


 僕が、敬語を使っていることがよっぽど珍しかったのか、アメリ以外の全員が驚いた表情を僕に向ける。


 霊王は、転移者組などに目を向け、慈愛の表情で告げる。


「もうちょっと、前に来なさい。全員見とる」


 その言葉に、転移者組などの全員が、無意識と感じるほどに自然に、霊王に向かう。

 まずは、転移者から。とそんな意味を含めた言葉を言う。


「お主等は、悩んでおるな?じゃが安心せぇ。そこのワシよりよっぽどのパルが解決しとくれる。でも……お主等は、まだ弱い。相手の事よりも、自分を第一にしないと、相手が守れない。そのことをよく覚えておくように」

「「「はっ、はい!」」」


 霊王の優しげの言葉に、全員が反応して、霊王はニコッとだけ笑った。


「そして……」


 転移者の中でも、特に、新真に言葉を向けた。


「そこの暗殺者(アサシン)。こちらにきなさい」


 名指しされた新真は心底驚いた顔で霊王のもとへ歩み寄る。その足取りには、緊張が垣間見えた。


「お主は……多分。この中で3番目くらいに強いのだろうな。じゃが、お主をすぐに追い抜くやつなどごまんといる。それを心に刻みなさい。あと、お主は、力だけを磨き上げようとしてるようじゃが、技も磨きなさい。きになること、全てを極めなさい。それはきっとお主が求めているものに近づけるのだから。それの見本は、そこのいる銀髪赤目の子だね。よく手本にするように」


 銀髪赤目。それはアメリのことだ。


「……はい」


 不思議な感覚にいるような返事を新真はした。


「じゃあ、そこの覇気を使っている黄いろの髪をしている女子(おなご)よ。こちらに来なさい」


 キャルが呼ばれ、それに応えるように近くに来る。


「お主のような覇気の熟練を人間で見るのは久方ぶりだ。じゃが、まだそこの黒髪黒目の青年の覇気の方が熟練度が高い。まだまだ精進していきなさい。……心残りがあるようじゃが、暫くすれば、それは目に見えて表れるじゃろうな。安心せぇ。きっとお主なら穏便に過ごせる。常に自分を信じて、相手を信じて進みなさい」

「はい」


 次々と進みだし、次は、ケルの番となった。


「お主は、相当な実力者だ。安心せぇ。なにか伸び悩んでいることじゃが、頭をスッキリとすれば解決すること。なにか気分転換でもすればいい」


 次は、ケーラ。


「凄まじい、魂の持ち主じゃな。ワシでも深淵を覗くのは難しい。才能も溢れて居るが、慢心することではない。その内、大きな戦がくるようじゃが、お主がキーとなる。気を付けて行動するように」

「はい」


 最後は、アメリとなった。


「……お主は、一目見た時からわかったぞ。ワシがいつも感じ取るものと等しい存在じゃ。ワシが教えることも烏滸がましい。じゃが……一つ、言うならば。秘密なことがあれば、それはいつか必ずバレるということじゃ。その覚悟も、するように、な」

「……」


 霊王の言葉を、アメリは無言で返した。返答を返す必要がなかったのか、それとも───


「ありがとうございました。では、私たちはこれにて失礼します。誠に、見ていただいてありがとうございました」

「そうかしこまらんでも。老い先短いワシにとって、久しいものじゃったよ」


 皆が去りだし、俺が後方となる。すると、霊王が口を開く。


「まだ、そちと話していないが?」


 私は、目を見張る。言葉に込められた意味は、少し話をしないか、ということだ。


「アメリ、先に行ってくれ」

「わかった」


 階段を戻りだし、また下っていく。

 霊王の近くにつくと、私も座る。私は、黙って、霊王の言うことを聞いた。


「パル。お主は、物凄い持ち主じゃ。アメリという女子と同じ雰囲気を感じる。しかし、それは与えられた物に近いな」

「流石、あなたは他の人とは違います」

「ふぉっふぉふぉ、笑わしてくれるわい。そんなにワシを棚に上げよって」


 すると、霊王は悲しみの表情を向ける。そして、告げる。


「ワシは、老い先が短い。じゃが、もう充分、生きた。これ以上ないほどに。……が。それでも、今際の際を聞いてくれるか?」

「もちろんですよ」


 すると、霊王はゆっくりと語りだす。それが、今まで生きてきたまとめのように。


「……《英雄》は、儚く消える者。悲しくなどはない。後悔など、微塵もない。……歴史は、数々の英雄を生んだ。じゃが、ワシはこう思うのじゃ。英雄は、ただの"道"でしかない。ワシは、英雄と呼ばれる道になるだけだ。求め、探して、彷徨って。それが人生なのだと、ワシは思う」


 静かに、俺はその声を聴いた。


「───、───。──────、────────────」


「───。───」


「───」


「──」


「─」


 ***

 ───4(メイル)後───


「また、今度」

「必ず、な」


 俺は、ゆっくりとした足取りで、来た道を戻る。


 まるで、進むように。霊王は、残るように。


 私は、終われない。それを、強く感じる時間だった。

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