6ページ,グリフォンの餌付け
───同時刻、エーテル中央国、星王宮───
「───して、魔人の動きは?」
初老の男、この星の星王であるヴァートン・エーテルが横に並ぶ聖人たちに問う。
それに息子でありながらも聖人ランキング一位であるヴェルトレンターヴ・エーテル、通称【聖天】が答える。
「現状、戦況は固まっている、ということしか言えませぬ。もう少しで動きそうなのではありますが、なかなか動かぬ故……」
「ふむ……やはり【勇者】の存在が不可欠ということか」
その呟きに、その場に居る全員が賛同を始めた。勇者は、初期の状態であろうと【聖天】であるヴェルトレンターヴの約半分の力が備わっている。
しかし、努力をすれば、あっという間にヴェルトレンターヴを越すであろう。
それほどに勇者は強力な存在なのである。
聖人ランキング三位の【聖将軍】、エムラビエ・オーバーンが、口を開く。
「今のところ、勇者と思わしき者が一人確認されております」
その落ち着いた一言に場が、騒然と化す。その騒ぎに、星王自身も取り入れるが、冷静に手を制し、場を落ち着かせる。
「それはどこのことを言うておるのだ?」
急ぎ早に星王は口を動かす。
その急ぎ目の星王にも、冷静に目を閉じたままエムラビエは淡々と告げる。
「我が郷里。カイメルス王国でございます」
***
───アサレル森林───
「懐かしいな。ここも」
精霊樹林へと足を運ぶ中、倒れている樹木を視認をして、思い出す。
「なにか、ここであったの?」
キャルが見入るように問いただす。それに肯定の意味を持つ言葉を言う。
「ああ、少し前に亜種竜が暴れていたようで。ちょっと殴った」
その答えに、毎日私と居る者は、呆れるか納得をするのだが、転移者はコソコソと話していた。
「なあ、亜種竜って確か……」
「帝国大図書館で資料を見ましたが、確か騎士団が大々的に討伐軍を組んで討伐をする魔物ですね」
「〈破壊級〉だよね、確か」
「⁉おいおい、Aランク魔物かよ……」
なにやら不思議な視線を後方から感じ取るのだが……
そういえば、カムトリエさんにも最近、会ってないな。
少し、意見が欲しいし、話しておきたいかも。───アメリが、袖を引っ張って頬を膨らませている。
「……他の女のこと考えていたでしょ」
……そうだった。アメリが近くに居た。こいうことも気をつけていかないかもな。アメリの耳に近づく。
「後でゆっくりと楽しもうね」
これで満足したかな。私は〈常時強制浮遊〉で、ずっと浮いているからアメリの耳に近づけることも容易なのである。
アメリの耳が少しだけ赤みがかっている。……こういうところだよなぁ。
「カイメルス王国からでた」
ケルは〈星界把握地図〉を持っているため、把握できている。
どことなく、〈空間把握〉と似ている。
「ここから一直線で精霊樹林に入るね」
ケーラの言葉通り、ケルは頷き、僕たちは走り出す。
***
───1時間後───
「あーっもう、もう少しで到着するっていうのに」
精霊樹林は、霊マナが非常に濃く、強い。だから、自然とそこに住む魔物も強くなる。
今、俺たちの目の前に居る魔物はレッサー・リッチ、Lv42。リッチになりきれなかった憐れな魔物だな。
リッチなどは、魔状生命体と呼ばれるもので、物理攻撃は、インパクトが強くないと効かない。
まぁ、インパクトが強かったら普通に倒せるけど。
「【覚醒奮起一撃】」
魔状生命体は、心核と呼ばれるものがある。それを壊すと、絶命をする。
結構、硬いものなのだが、そんなの俺にとってはあまり関係ない。
「おいおい、一発かよ……」
とある男が、絶句している。確か、礼高というものだったか。
「キャァァアッ‼‼」
女性の悲鳴が、森に染み渡る。この声帯は……珍しいとされる長霊族の中でもさらに珍しい、高長霊族と呼ばれる希少種の声。
声のする方に歩を進めようとすると、転移者たちは、急ごうと走り出す。そんな急がなくていいのに。
転移者の者たちに続いて、場に到着すると、そこは予想通りハイエルフの女性と、もう一人、傷を負っている年配のハイエルフが居た。
そして、その二人と相対するものが、鷲獅子、Lv273。流石に強い。よくハイエルフが年配の者を庇ってLv273の魔物をよくここまで。
「待ってろ」
グオォォォオッ!とグリフォンが叫びだし、気配に気づいた私に飛び掛かってくる。
今、〈強制気配探知〉でグリフォンのヘイトは私に向かせた。
それに対し、私はグリフォンの嘴を押さえ、そのまま地面へと沈ませる。
グリフォンを一時的ではあるが行動不能にした後、すぐさまハイエルフの本へ行き、『完全完治回復』をかける。
これで怪我はなくなった。あとは。
「なあ」
俺はハイエルフの二人に声をかける。ビクッと怯えながらも、若い女性のエルフはおずおずと問いただしてくる。
「な……なんですか?」
うーん、まだ警戒心があるな。まあ今はそれでいいんだけど。後々でもほぐせていけたらいいと思う。
「グ……グ…………………………グルラアァァアッ!」
地面から顔を抜け出し、苛ついているグリフォンが一匹。
「あーっそうだったな、おい。松林、グリフォンにこれをやれ」
『法力生成食物』で生成した"紅の実"を眼鏡をしている如何にもオタクの松林に渡す。
「え⁉ち、ちょっと!えっ⁉」
コイツは異世界について詳しいからこんなことも察して冷静にやってくれると思ったが、違ったか。
「取り敢えず餌付けするつもりでやってくれ」
松林は恐る恐るグリフォンに紅の実を明け渡す。グリフォンは、明け渡された瞬間に喫驚とした顔で目をパチクリとする。
首を傾げ、スンスンと匂いを嗅ぐ。危険なものではないと判断したのか口を開け、紅の実をパクリ。
モシャモシャと咀嚼を繰り返し、ゴクンと胃袋の中へ送ると、目を輝かせ、尾をブンブン振り回す。
どうやら、成功したようだな。
「え、えーっと……」
松林は意味が分からないといった表情で此方を見つめる。僕はグリフォンに近づき、嘴を撫でながら、もう一度、紅の実を明け渡す。
「どうやら、腹が減っていたようだな。空腹の状態だと短期になりやすい性格だから、好物の紅の実を食わせて成功だったな。ほら、そこの二人に謝れ」
グリフォンにそう促し、頭を下げさせる。俺の身の回り以外の者たちは有り得ないといった表情をしていた。
「さぁ、そこのハイエルフ御二人さん。単刀直入に言う。長霊族の里はどこだ?」