5ページ,力の確認
「どうだ?この部屋は」
僕のその問いかけにケーラは感嘆を漏らしながら答える。
「ハッキリと言って、最高だね。スラムと比べたら僕がこんな場所に住んでいいのかというくらいに」
ケーラは、燥ぐ子供のように、とは流石にいかないが、どこか無邪気な様子で目が左右に部屋へ飛び交っていた。
「最近は、スラムも金が回っている。ホテルも建設予定だ。その内に王国と同じ水準となるだろう」
「それは嬉しい情報だね」
私は政など好かんし、苦手だ。こういうことは王とか大臣とかに任せておけばいいだろう。
スラムも、あと少しすれば王国を超えるかもしれん。なにせ、あのアメリが動いているのだから。アメリは、膨大な記憶が埋め込まれており、それを応用するのがとても上手い。
俺は教えられたことをただ実行するだけ。応用とかは一番嫌いだ。苦手なんだから。
型に埋め込まれたことをするだけ。社会では生きていけない俗にいう社会不適合者だったけ?まあアメリが居るのだから別に他のことなど考えなくていいのだけど。
ん?食事が完成したみたいだ。いかないと。
「ケーラ、食事ができたみたいだし、行くか」
ドアを捻り、リビングを頭の中で呟く。自分があそこをリビングだと思えばリビングで、他の人が寛ぐ部屋と思えば寛ぐ部屋として定義されるのだ。要は、あそこをいかに想像できるかが要なのだ。
「おかえりー勇者さん、部屋はどうだったの?」
実は、あの後、キャルとケルにケーラは土下座をかました。
すぐに許してくれたけどな。まあ、操られていたのだし、本人も反省をしていうのだから許すしかないのだけど。
「ああ、なんかスラム居た時よりも数百倍凄かったよ」
さて、食事にするか
***
───19時───
明日は朝が早いという理由から、皆は寝静まった。私も、アメリと一緒にベッドに居る。
実は、アメリは小柄の女の子だ。なにせ45,5re(約165cm)という小ささだ。そして、座っていれば可愛い女の子。
アメリの髪を手で梳く。「んう……」可愛いやつめ。そんな中、アメリは目を瞑りながら僕に問いてくる。
「……大丈夫なの?」
主語が入っていなかったため、一応、確認することにした。
「なにが?」
分かってはいるため、なるべく優しく言う。
「あの子たち。今は仲間を助ける人を見つけて興奮してるけど、冷静になったら私達のステータスを確認することになるでしょう?……私は大丈夫だけど、アナタは……ん」
アメリの小さな口を俺の口で塞ぐ。しばらくして口を開けさせる。「ぷはっ」と息を吸う小さな声が聞こえる。そして、僕の考えをアメリに伝える。
「大丈夫だよ。アメリ。きっとアイツらは私のステータスを見て私に決闘を申し込もうとするけど───勝てるから」
ニコっと自信の満ちた笑みを浮かべる。そして、アメリはよかった、と笑みを浮かべる。
さて、と。アメリを押し倒す。「はうっ……」
因みに自分はアメリよりも少し大きめ(約170cm)だ。だから、こうやって、アメリの可愛い姿を見ると、少し虐めたくなる。このときだけは、男と言われても仕方ない時だと思う。
パートナーとして、一生を添い遂げる者として。震えを押さえさせる。
私にブツなんてないって?前に話しただろう?僕の体は特殊なんだ。自在に動かすことも可能だ。機能性も増える。
私は〈異常感覚贈与〉を津液に混ぜ合わせ、それをアメリに受け渡す。異常感覚は、媚薬の効果に設定した。
アメリの息が荒くなっている。それを俺の口で沈めさせる。
まぁ……楽しむとしよう。夜を。
***
───19日───
なんというか……さ?自分とアメリって寝る必要ないんだから、一日中ずっと起きてたわけよ。
まあ、いつの間にか朝になってたわけよ……カーテン開けたら赤い太陽が俺の目を物理的に焦がしている。毎回この時間帯の太陽が危険すぎるのだが。暫くしたら蒼くなって安心安全の太陽になるだろう。
「さ、いくよアメリ」
「ん……」
眠たい目を擦り、瞬かせている。そんなアメリの頭を撫でる。
服を着替えるのだが、トアノレスで一瞬として済ませられてしまう。
そんな私にアメリから嫉妬の目を受けるのだが、それをあしらう。
下に降りると、私達以外の人たちが数人。そこにはケーラも居た。
「おはよう、みんな」
「「「おはよう」ございます」」
……。どうやら、一夜明けて冷静になった者も居たみたいだな。疑いの目がそこらにある。ある奴は、鑑定をしていて驚いている奴も居る。
そもそも、向こうからしてみれば、一番弱い俺が皆を仕切っている風なのは些か疑問なのだろう。
まあ、それも今日で分かると思うけどな。
さて、全員が来る前に朝食の準備をしよう。そういえば、結構大人数なのにこの部屋にすっぽり入ったな。まだ余裕がありそうだし。
風呂もトイレも完備しているし、覗きは絶対にできない設備となっているからこの家は快適だ。
全員が、ここに集まると同時に朝食が出来上がる。ちょっとしたスープとパンとサラダだ。食べやすく、好き嫌いが少ない食材を選んだ。これなら大丈夫だろう。
「「「いただきます」」」
そういえば、日本という国では『いただきます』と言う文化があるのか。
まあ、食材に感謝する姿勢は悪くないだろう。
***
───1時間後、パル宅前───
「一つ聞きたいんです。クライシスさん」
決意の眼差しを向けた祐亮が口を開く。もう、出発するのだし頃合いだと思ったよ。
「わかってる。俺の力を見たいんだろ?」
祐亮は驚き、恐れながらも「……はい」と力なく答える。
「なに、理由は分かっているのだから気にしなくていい。でも、どうやって力を図るんだ?」
祐亮は下を向いた重い顔を持ち上げて、腰にある剣を抜く。
「決闘をして欲しいんです」
これはあくまで憶測の域に過ぎないのだが、僕とアメリが部屋に居た時にコイツらはコッソリ集合して話し合ったのだろう。その結果だ。それなら私もそれに応える。
「───御託はいい。来い」
祐亮は跳躍を始め、空中で一回転をする。そのまま間合いに入り、一刀両断に私を切り裂こうとした。
物凄いスピードだな。だけどさ。
「それ、相手が避けたらどうなるわけ?」
ひょいっと軽く躱し、祐亮の行く末を見守る。すると、祐亮はそのまま地面に剣が到着する。だが、剣が地面で受け止められた所為で、祐亮の手に反動が伝わる。ありゃあ、相当痛いな。
剣は如何にも丈夫そうだったし、ここの地面は、『物質硬質強化』で硬くしてある。だから、地面が切れることも、剣にも聖法をかけているので、折れることも、そうそうない。
「いっっっったぁぁあああ!?」
そこにすかさず、トアノレスの銃の銃口で祐亮の脳天を当てる。
「はい、終わり」
もちろん、納得がいかなかったようなのか、祐亮が口を割る。
「も、もう一回やってくれ!頼む。今のは俺のミスのせいだったし」
往生際が悪いと思い、四つん這いになっている祐亮の位置にしゃがみ込む。
王級スキルである〈暗王殺気〉を使って祐亮を見つめて告げる。ゆっくりと、脳内に粘りこむように。
「戦場に二度はないぞ。自分の行動が命取りになると思え」
ガタガタと震える祐亮にスキルを使うのを止め、ニコッと微笑む。
立ち上がって、祐亮の手を引っ張る。これで解決かな。
「もう、しなくていいか?」
コクコクとロボットのように頷く祐亮。少しやりすぎちゃったかもな。
「じゃあ、行こうか。エルフたちが居るとされる、精霊樹林に」