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4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
二冊目《自称皇帝とジャパニーズ転移者》
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3ページ,まともな勇者

 アメリ以外の全員の顔が困惑の顔へと至る。キャルが真横で、小声に訴える。


「ちょ、ちょっとクー!なに断ってんのよ!ここって任せろとか言う場面じゃないの⁉」


 キャルは、小声で聞き耳を立ててきたが、それに私は大きな声で答える。


「別に、向こうがお願いしてきたところで俺らにはなんの得もないし、あったとしても、目立つリスクを冒してまで帝国と喧嘩はしたくないな」


 なにか、俺が得を得ることがあったらだけど。あれ?なんか皆泣きそう?可哀想だなー。でも、俺に慈悲なんてかけ離れてるものだ。


 俺に頼るのは、少し違ったな。


「アメリ、ちょっと用事あるから、出かけてくる」

「わかった」


 ドアノブに手をかけて皆を一瞥する。皆、私を見るが黙ったままだった。

 私が、キャル宅から家にでようとするときに、アメリの声が聞こえる。


「みんな、パルが言っていたことを要約するね」


 アメリめ。僕にギリギリ聞こえる範囲で話を始めたな。


 まあ、アイツらがどこまで足掻けるか、見物かもな。


 ***

 ───5(メイル)後、カイメルス王宮、王室───


「よっ、王サマ。きてやったよ」


 王室に転移して、いきなり王に挨拶をする。相変わらず、敬語は略している。


 王は、お茶をしていたようなのだが、俺が来たタイミングで持っていたコーヒーを噴き出した。汚いよ。『染汚浄化(ガエラメル)』を発動して、汚れを落とす。


「な、なんだ。クライシスか。毎度、お前は我を驚かしてくれるな」

「まあ、こちらとしても暇なんだ。それで、早速、本題なんだが、ある用があってきたんだ」

「?なんだ?この前の地震のことか?あれは、憶測であるが、お前であることがわかっているが……」


 なんだ。あのこともうバレているのか。もっと隠蔽すればよかったな。


「まあそのことじゃなくて、勇者のことなんだ」


 仕事モードの王がピシッと姿勢をただして、問いてくる。


「なんだ?遂に詳細を聞かせてくれるのか?」

「いやその話をするんだが、その前に帝国の転移者のことについて知りたい」


 すると、王は驚いたような顔を見せ、「どうしてお前がそのことを……いや、お見通しか」と勝手に自己解釈をする。


「転移者は二種類あることは知っているな?【自然転移者】と【人工転移者】だ」


 その王の問いに俺はコクンと頷く。【自然転移者】は、膨大なマナが集まった場所に、偶然召喚される転移者のこと。【人工転移者】は、魔族や、人族などのある程度知能を持った生物が、<法>を用いて膨大な<力>で此方(こちら)側に召喚された者のことだ。前者の場合になると、確率はとことんと低く、後者の方がより現実的だ。


「帝国は、<法>の研究を進めている。今や、その技術はトップクラスと言っていい。だが、帝国には、【勇者】ができない。勇者が現れるのは、現時点でこのカイメルス王国と、隣国のガイゼルンの教国だけだ」


 教国……確か、地図にもそんな場所があったな。だいぶ小国だった気がしたが。

 というよりも、何故その二国(ふたこく)しか勇者が生まれないんだ?


「……帝国は、勇者という圧倒的な存在を欲しているのだろう。だが、教国は、宗教の力が強く、手を出したら各国にも敵として立ち向かうことになるだろう。そこで、我が国だ。わが国には、唯一の起動しているといわれる迷宮(ダンジョン)があり、他にも、歴史的な建造物やアーティファクトが豊富だ。それに……この国に戦争を仕掛けようとも各国は何も言わん」


 王が、少し悲しく事実を告げる。私は、最後の言葉をスルー。これ以上言ったら、ただの傷を深くするだけなのだから。 


「だが、それも、この前のやつで失敗したか」


 その僕の言葉に王の耳はピクピクと動き、なにやら気になる様子。説明しないといけないな。


「あー、この前のことだ……───」


 ***

 ───説明中(2(メイル)後)───


「───なるほど。勇者にそんなことが……」

「ああ。勇者の転移場所が帝国だったから多分、そうだな」

「……彼奴(あやつ)は、我のことが気に入らないのだろう。我は、歴代でも愚王の中に入る人物だ。そんな奴が、アーティファクトや、迷宮(ダンジョン)に恵まれていることが、向こうとしては悔しいのだろう」


 彼奴……帝国の皇帝のことだろう。


「別に、お前は愚王なんてものじゃないさ」

「ハッハッハッハ、いいのだよ。私はもう長く生きられない。多分、その内帝国にここは乗っ取られるのであろうな」


 自嘲気味に王は寂しく笑う。随分と豪快だが、その奥には乾いた笑いがあった。


「別に、お前をこのまま終わらすつもりはない」


 そう、一言宣言する。


「?なにを言う?」


 急な私の一言に王は問いただす。その発言も無視をし、話を続ける。


「王。お前は、帝国を倒したくないか?」


 その俺の問いに、王は少し口籠るが、口を開き、答える。その一言を。


「……もちろんであろう……?それが、我の願いなのだから」


 その答えに僕は笑いそうになるが、それを押さえつつ、言う。


「っじゃあ、潰しちまおうぜ、帝国」

「⁉それをすれば───!」

「責任は全部俺に任せろ。滅亡級の俺がな」


 その俺の一言に王は驚愕し、「……知っていたか」の言葉。当たり前だろ?


「でも、その前に。やることがある」


 窓の外にある都を俯瞰しながら、発言をする。


「少しいじけている勇者の手伝いだ」


 ニカッと笑い、王の方を見る。


「……?」


 ***


 ───42(メイル)後、スラム街───


 そろそろ夕刻へと近づいていく。ちなみに、(メイル)というのは何分という意味で、5(メイル)というのは約8分くらいだ。ここでは、秒単位が違っていて、ここでの1秒は約3秒くらいだ。


 時計も円状にできているし。常識が違うって言ったらいいのだろうか?


 にしても、スラム街は、相も変わらず空気が不味い。こんな場所でよく生活ができると思う。


 じゃあ、始めるか。〈空間把握〉でスラム全体の面積を把握する。


「『聖域(ガラレム)』」


 聖の力で、このスラム街の空気や雰囲気でさえも浄化される。うん、だいぶよくなったようだ。

 埃っぽいのも無くなった。おっ、ケーラだ。


「ラグエズ……」


 その名前が自分の名前だと理解するまでに少し時間を浪費した。


 もうその名前を偽る必要も無くなったな。


「よっ久しぶり。と言っても、二日しか経ってないっけ?」


 ケーラは、プルプルと身を震わせ、遂には土下座をした。


「ほんっとに!ごめん!」


 謝られるのはわかったけど、土下座するのは予想外だったな。

 僕はしゃがみ込み、ケーラと同じ目線に。


「別にいいって。操られていたのは知っている。まあ、そっちは断片的なことしか覚えていないだろ?」


 黙りこんでしまい、なにか言いづらそうに唇を嚙んでいた。年相応の反応を見せるな。やがて、ケーラが口を開く。


「……君と最初に出会って、別れた次の日に、僕はここで子供たちの世話をしていたんだ。だけど、その時にここへ誰かが来て……そこから記憶があまり……」


 ふむ。ガイラズさんと同じ感じみたいだな。


「まあ、そんなことは結構、どうでもいいんだ」


 私のその一言に、ケーラは目を見開く。瞳は、疑問の文字が。私は、言を続ける。


「ここでの労働基準、生活保護。その他諸々(もろもろ)、王に、スラム街の環境を整えさせてもらっている」

「……?いきなりなにを───」


 ケーラの言葉を遮るように私は言葉をつづける。


「俺の用件はただ一つ。ケーラ、俺と一緒に旅をしないか?」

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