3ページ,まともな勇者
アメリ以外の全員の顔が困惑の顔へと至る。キャルが真横で、小声に訴える。
「ちょ、ちょっとクー!なに断ってんのよ!ここって任せろとか言う場面じゃないの⁉」
キャルは、小声で聞き耳を立ててきたが、それに私は大きな声で答える。
「別に、向こうがお願いしてきたところで俺らにはなんの得もないし、あったとしても、目立つリスクを冒してまで帝国と喧嘩はしたくないな」
なにか、俺が得を得ることがあったらだけど。あれ?なんか皆泣きそう?可哀想だなー。でも、俺に慈悲なんてかけ離れてるものだ。
俺に頼るのは、少し違ったな。
「アメリ、ちょっと用事あるから、出かけてくる」
「わかった」
ドアノブに手をかけて皆を一瞥する。皆、私を見るが黙ったままだった。
私が、キャル宅から家にでようとするときに、アメリの声が聞こえる。
「みんな、パルが言っていたことを要約するね」
アメリめ。僕にギリギリ聞こえる範囲で話を始めたな。
まあ、アイツらがどこまで足掻けるか、見物かもな。
***
───5別後、カイメルス王宮、王室───
「よっ、王サマ。きてやったよ」
王室に転移して、いきなり王に挨拶をする。相変わらず、敬語は略している。
王は、お茶をしていたようなのだが、俺が来たタイミングで持っていたコーヒーを噴き出した。汚いよ。『染汚浄化』を発動して、汚れを落とす。
「な、なんだ。クライシスか。毎度、お前は我を驚かしてくれるな」
「まあ、こちらとしても暇なんだ。それで、早速、本題なんだが、ある用があってきたんだ」
「?なんだ?この前の地震のことか?あれは、憶測であるが、お前であることがわかっているが……」
なんだ。あのこともうバレているのか。もっと隠蔽すればよかったな。
「まあそのことじゃなくて、勇者のことなんだ」
仕事モードの王がピシッと姿勢をただして、問いてくる。
「なんだ?遂に詳細を聞かせてくれるのか?」
「いやその話をするんだが、その前に帝国の転移者のことについて知りたい」
すると、王は驚いたような顔を見せ、「どうしてお前がそのことを……いや、お見通しか」と勝手に自己解釈をする。
「転移者は二種類あることは知っているな?【自然転移者】と【人工転移者】だ」
その王の問いに俺はコクンと頷く。【自然転移者】は、膨大なマナが集まった場所に、偶然召喚される転移者のこと。【人工転移者】は、魔族や、人族などのある程度知能を持った生物が、<法>を用いて膨大な<力>で此方側に召喚された者のことだ。前者の場合になると、確率はとことんと低く、後者の方がより現実的だ。
「帝国は、<法>の研究を進めている。今や、その技術はトップクラスと言っていい。だが、帝国には、【勇者】ができない。勇者が現れるのは、現時点でこのカイメルス王国と、隣国のガイゼルンの教国だけだ」
教国……確か、地図にもそんな場所があったな。だいぶ小国だった気がしたが。
というよりも、何故その二国しか勇者が生まれないんだ?
「……帝国は、勇者という圧倒的な存在を欲しているのだろう。だが、教国は、宗教の力が強く、手を出したら各国にも敵として立ち向かうことになるだろう。そこで、我が国だ。わが国には、唯一の起動しているといわれる迷宮があり、他にも、歴史的な建造物やアーティファクトが豊富だ。それに……この国に戦争を仕掛けようとも各国は何も言わん」
王が、少し悲しく事実を告げる。私は、最後の言葉をスルー。これ以上言ったら、ただの傷を深くするだけなのだから。
「だが、それも、この前のやつで失敗したか」
その僕の言葉に王の耳はピクピクと動き、なにやら気になる様子。説明しないといけないな。
「あー、この前のことだ……───」
***
───説明中(2別後)───
「───なるほど。勇者にそんなことが……」
「ああ。勇者の転移場所が帝国だったから多分、そうだな」
「……彼奴は、我のことが気に入らないのだろう。我は、歴代でも愚王の中に入る人物だ。そんな奴が、アーティファクトや、迷宮に恵まれていることが、向こうとしては悔しいのだろう」
彼奴……帝国の皇帝のことだろう。
「別に、お前は愚王なんてものじゃないさ」
「ハッハッハッハ、いいのだよ。私はもう長く生きられない。多分、その内帝国にここは乗っ取られるのであろうな」
自嘲気味に王は寂しく笑う。随分と豪快だが、その奥には乾いた笑いがあった。
「別に、お前をこのまま終わらすつもりはない」
そう、一言宣言する。
「?なにを言う?」
急な私の一言に王は問いただす。その発言も無視をし、話を続ける。
「王。お前は、帝国を倒したくないか?」
その俺の問いに、王は少し口籠るが、口を開き、答える。その一言を。
「……もちろんであろう……?それが、我の願いなのだから」
その答えに僕は笑いそうになるが、それを押さえつつ、言う。
「っじゃあ、潰しちまおうぜ、帝国」
「⁉それをすれば───!」
「責任は全部俺に任せろ。滅亡級の俺がな」
その俺の一言に王は驚愕し、「……知っていたか」の言葉。当たり前だろ?
「でも、その前に。やることがある」
窓の外にある都を俯瞰しながら、発言をする。
「少しいじけている勇者の手伝いだ」
ニカッと笑い、王の方を見る。
「……?」
***
───42別後、スラム街───
そろそろ夕刻へと近づいていく。ちなみに、別というのは何分という意味で、5別というのは約8分くらいだ。ここでは、秒単位が違っていて、ここでの1秒は約3秒くらいだ。
時計も円状にできているし。常識が違うって言ったらいいのだろうか?
にしても、スラム街は、相も変わらず空気が不味い。こんな場所でよく生活ができると思う。
じゃあ、始めるか。〈空間把握〉でスラム全体の面積を把握する。
「『聖域』」
聖の力で、このスラム街の空気や雰囲気でさえも浄化される。うん、だいぶよくなったようだ。
埃っぽいのも無くなった。おっ、ケーラだ。
「ラグエズ……」
その名前が自分の名前だと理解するまでに少し時間を浪費した。
もうその名前を偽る必要も無くなったな。
「よっ久しぶり。と言っても、二日しか経ってないっけ?」
ケーラは、プルプルと身を震わせ、遂には土下座をした。
「ほんっとに!ごめん!」
謝られるのはわかったけど、土下座するのは予想外だったな。
僕はしゃがみ込み、ケーラと同じ目線に。
「別にいいって。操られていたのは知っている。まあ、そっちは断片的なことしか覚えていないだろ?」
黙りこんでしまい、なにか言いづらそうに唇を嚙んでいた。年相応の反応を見せるな。やがて、ケーラが口を開く。
「……君と最初に出会って、別れた次の日に、僕はここで子供たちの世話をしていたんだ。だけど、その時にここへ誰かが来て……そこから記憶があまり……」
ふむ。ガイラズさんと同じ感じみたいだな。
「まあ、そんなことは結構、どうでもいいんだ」
私のその一言に、ケーラは目を見開く。瞳は、疑問の文字が。私は、言を続ける。
「ここでの労働基準、生活保護。その他諸々、王に、スラム街の環境を整えさせてもらっている」
「……?いきなりなにを───」
ケーラの言葉を遮るように私は言葉をつづける。
「俺の用件はただ一つ。ケーラ、俺と一緒に旅をしないか?」




