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4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
二冊目《自称皇帝とジャパニーズ転移者》
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二章プロローグ【貴方の名前】

 ───(いち)回目転生時───


「─ッハァ……ッハッハッハ……ッハ」


 私は、スラムを走っていた。今日、遂に親に捨てられた。

 今までも、何度かそういうときがあったが、遂に。

 両親は金に目が(くら)んだ。資産が底を尽き、私に手をかけた。


 私は、私を買った者たちからの目を搔い潜り、逃亡した。


「おい、待て!ゴラァ!」

「ッハ……ッハ」


 追いつかれる。普段からなにも食べてない。だから栄養なんて、ないに等しい。

 栄養失調の女の子が、筋肉質のある一般男性に勝てるなんて、あり得ない話。


「ック!手間取らせてんじゃねえよっ!お前は、両親から捨てられたんだよ!今日からお前は売り奴隷だっ!せめて、良い飼い主の便器になりやがれよっ!」


 遂に追いつかれて、私は手首を掴まれた。

 今のスラム環境では、奴隷は当たり前。それが、売られている状況にも、当たり前と言える。

 嫌がられても、ただ体力の無駄。こうして、私の人生は終わるのかぁ……


「おい」


 その時、私を追っていた男の手首押さえつける声が、耳朶を打つ。

 見ると、その髪。その顔。スラムには居てはならない清潔感。なにもかもが、私とは住む世界が違うと一目で感じさせられた。


 ───白馬の王子様。


 咄嗟にでたその例え。とても適切な例えだった。


「なに押さえてんだ!コイツは俺が買い取ったんだ!なにかあっても俺のモンだろうがッ!」

「この少女は、なにか罪を犯したのか?」


 短く、発せられた一言は静謐で。純粋な気迫があった。


「コイツは親に捨てられたんだよ。だから、今は奴隷なんだ。もう説明したから去った、去った」


 男は手を仰いで追っ払う仕草を取る。


「そうか、なら───」


 男は指をパチンッとやると何処からか黒スーツの者が現れる。

 黒スーツの人はキャッシュケースを持っていて、それを大事そうにギィと開ける。


 あったのは、下らなくても数億の価値がありそうなお金があった。


「うおっ!なんだこれっ!」

「彼女を買い取らせてもらう。それでいいか?」


 質問の答えを考える間もなく男は答える。


「っは!いいぜ、交渉成立だ。こんな奴なんかやるよ!ほら」


 男は私を手放し、王子様の元へ(いざな)わせる。


「大丈夫だったか?」


 王子様の質問に私はなにも言うこともできず、コクコクと頷くだけしかできなかった。


「よかった」


 笑顔が眩しい。直視できない。

 目の前の王子様は私に手を差し出して、「ついてきて」と告げる。


 ……私は、変な恰好なのに大丈夫なのだろうか?

 どんどんとスラムの街並みを過ぎていき、人が住まう安定した街へと変貌していく。


 それと比例し、日差しは徐々に強く、私を焦がすように日光は私を刺していく。まさしく、棘のように。


 スラムを出てすぐ、太陽が出るその光の場所に、黒のリムジンが待ち構えられていた。


「さあ、乗って」


 顔を引き攣るしかなかった。だって、こんな車、お金持ちが乗るというイメージしか頭に無いのだから。

 圧巻しつつ、固まった足に鞭を打つ。ガチガチになった体をなんとか動かしながらも乗車する。


「あのぉ……何処に行くのでしょうか……?」


 恐ろしく小さく発せられた枯れた声でも、王子様には聞こえていたようで。


「何処って……僕の家かな」


 家って……もしかして、やっぱり私のことを好き勝手に……あれ?でも私のことを助けてくれたんだし……


 私が考えを浸らせていく間も、車は静かな音で移動していて。

 それに、精神的にも、疲れていて。私の意識はプツンと切れた。


 ***


 目が覚めると、空は見たことが無い豪華な絵が描かれていた。


 これは……天井……?意識が覚醒していくと同時に、感覚も蘇る。


 暖かい。布団?起き上がると、私は大きなベッドに横たわっているのがわかった。


 服も、ボロボロのではなくなっている。


 ここは、天国?


「起きたみたいで、よかった」


 突如、声が急に室内に響く。声のした方に目を配ると、木製の椅子に座った天使と例えた方が良さそうな整えられた顔を持った男の人が本に視線を落とし、読んでいた。


 そこで、私は思い出す。でも、記憶に残っているのは車に居たままで……あの後、私ってどうなったの?


「あの後、君は僕の車の中で意識が途絶えたようでね。急いで僕の家に急行して医師に診させてもらった。疲労……だってね。ほんとによかった」


 あれ?今、声出ちゃってた?


「いや、君ってホントに顔に出やすいね。すぐにわかるよ」

「えっ……ホント……ですか?」


 男の人はフフッと苦笑して本を視線から外し驚いた私の顔を見る。

 ニコッと微笑み、そのまま告げる。


「そういえば、まだ、自己紹介してなかったね。……僕の名前は×××だよ。君の名前は?」

「えっと……名前ってなんですか?」


 聞きなれない単語を繰り返すように尋ねる。

 すると、今度は男の人の方が驚いた顔になる。


「えっと……そうか、呼ばれてこなかったのか。これからは、しっかり勉学に励まないとな」

「?」


「まあいいや、そうだ。君の名前、僕が付けてあげるよ。君の名前は───」


 男の人は、熟考(じゅっこう)する間もなく、告げる。


「───パルだ」


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