27ページ,父の部屋
───同刻、キャル宅リビング、ラーゼ・クライシス?───
あの記憶を見て、なにも思わない自分ではない。ただ……自分がいかに無情だということも再確認もできた。
でも、これでよくわかった。キャルは、フレアの真似をしている……だから、みんなの前で明るく振る舞い……ホントは内気な性格なのだが、自分がフレアの代わりになるように……みんなを心配させないように……
……あんまこういうのは知りたくはないんだがなあ……自分の頭を掻く。
でも……それでも……他の人のこういうところを知らなきゃ人とは関われないとういことを、自分が二番目によく知っている。
ふと、心の中で言葉を零す。
(だから、全てを知るのは嫌いなんだよ)
私は、もう一度、キャルの過去を見通す。ただの一度も見逃さないように。
***
───記憶、ラーゼ・クライシス───
ギルマスも変わってしまった。だが、フレアのことを話せば納得できた。
それ程、ギルマスは自分を責めているということが他人の目から見ていても、分かっていたのだ。
一方、キャルも、自分を責めていた。あの時、もう一階だけ行こう、と言わなければ。もっと、自分が強かったら───もっと、時間があったら。
今更、救えなかった命を悔いる。何度の人生なら未だしも、一回の人生だ。それも一人の女の子なのだ。自分の心を支えられるのか?
僕が耐えられるようになるのは、だいぶ先の話だった。これから、色んな経験を積み、心を強く保てば耐えられることもあるだろう、そんな非常の世界だ。
その後キャルは、一人でも迷宮に向かえるようになった。だけど、階はあまり進めなかった。二人なら───フレアとなら、どこまでも行けそうだったのに今なら、その半分も進めない。
キャルは改めて、パーティーの利点と、フレアのありがたさを知った。でも、もう一度だれかとパーティーを組もう、だなんて思わなかった。
また……誰かを失うのが怖かったから。
だから、一人で頑張った。だけど、昔のようにはならなかった。それでも、周りは彼女のことを評価した。
しかし彼女は、周りが怖くなった。尊敬の目、感謝の目、好感の目。それと裏腹にでてくる、嫉妬の目、畏怖の目、憎悪の目。キャルは人一倍、視線に敏感になった。
何時しか、キャルは冒険者ギルドの受付嬢になったが、姿を隠してずっと活動を続けていた。ギルマスは、そんなキャルを見て少しでも彼女のことを皆に知ってもらおうと思い、【隠れの迷宮攻略者───迷宮姫】と名付けた。
それをキャルは嫌がったが誰にも正体が分からなかったため渋々、了承した。というよりも、キャルが認知したときは既にその名が浸透してしまっていたので、否定するにもできなかった。
とはいっても、キャルは自分の自己評価がかなり低く、この名称を気にいっていなかった。
……相応しくない、と考えていた。
───この二人の精神がだいぶ良くなってきたのは最近の事だった。流石に三年も立ったのだ。そろそろ、二人とも大人にならないといけない頃だった。
***
───同刻、キャル宅リビング、ラーゼ・クライシス?───
文字だけではこの程度しか納めることしかできないが、ホントはもっと酷いことが多かった。肉体的にも、精神的にも、とても16歳という小さい子が体験していいものではない、とだけいっておこう。
「どうだった~?」
フェイさんは相も変わらず、ニコニコだがその顔には悲しげな顔がそこにあった。
フェイさんの質問に俺は答えずに質問で返す。
「……フレアが死ぬ前にギルマスのなにか変わったことってありましたか?」
「え~? あっそういえば」
目を細めて考えていたら、急に思いついたように手をついた。俺はすぐに喰いついた。
「それは何時ですか?」
暫し、フェイさんは考えるような仕草をして、言う。
「え~っと~私とガイラズさん、あっ貴方で言うギルマスが私と結婚して三年のころ、キャルが生まれて、2歳のころかしら? あの人が急に自分の部屋で研究し始めたのよ。なんの研究をしているのか聞いても関係ないって言われてね~もう昔の事だからちょっと忘れかけてたわ」
よしっそれだけ聞ければもう十分だ。後は、行動に移すのみ。
「それで、そのギルマスの部屋は何処ですか?」
「えッ部屋に入るつもり?」
フェイさんは、細めた目を見開く。驚いているようだな。
僕はもちろん、といった風に頷く。フェイさんは僕の決意の固まった眼を暫く見つめて嘆息を吐く。
「……いいわよ。なにか変な事をしない限りはねっ」
「"観る"だけだから、大丈夫だと思います」
私は立ち上がりギルマスの部屋を知る為、フェイさんの思考を読み取る。スキル、〈思考完全読破〉の効果だ。
「あっ、いま私の思考読んだわね?」
バレてしまった。さっさとトンずらかろ。
「あっ逃げた~」
僕は何も知りません。
……少し、気がかりなのがある。あの日、フレアという少女が死んだあの日。キャルには、幸運と俊敏といった恩恵聖法が、かけられていて、フレアには、不運と鈍足の呪術魔法が、かけられていた。
なにか、関係があるのだろう。これも、部屋に行けばわかることだ。
そうして何回か間違えど、なんとか辿り着くことができた
普通にここ広いから間違えるわ~って思って来てみたけど……ドア、でかくね? 明らかここが元凶です、と言わんばかりの雰囲気の扉なんやけど。もはや瘴気を纏ってそうだ。
ドアノブをしてみるがが手ごたえが無く、引いてみると開いた。なんだ? 珍しい造りだな。
いや、この家って以外にも所々変な造りになっているからなんら不思議ではない。
扉の先に待ち構えていた部屋は、この家の雰囲気とは似つかない研究室となっていた。
この部屋の間取りを見るに、この部屋はここまで広くはなかったはずだが、空間聖法の『空間拡張延長』を使っているんだろう。
不動産屋もびっくりのちょろまかしだな。
部屋を見渡すと、薄暗く、完全防音の部屋みたいだ。セレマを使い、部屋を明るくすると怪しげな機械たちが乱雑に置かれていた。
これは……
俺はその中でも一番大きい機械に目を向ける。TVのような画面の6割を埋め尽くすデカい文字が浮かんでいた。
……迷宮姫計画? たしか、迷宮姫はキャルの異名なわけなのだが……
まて、確か迷宮姫と異名を付けていたのはギルマスが付けていた。
そして、この部屋はギルマスの部屋だ。フェイさんからの情報だとギルマスが部屋に籠るようになったのはキャルが迷宮姫と名乗られるようになった前。
このようなデカいテーマというのは最初に決めるようなものではないか?
つまり、ギルマスは最初っからキャルを迷宮姫とするよう決めていたということ。しかし、なんの為に?
私は更に横にある資料を読み漁る。ファストの血筋、姫の器、迷宮の皇……
読み漁れば漁る程、不思議な単語が浮かんでくる。なにしろ、この部屋は整理整頓をしっかりとしていないので色んな機械があるのだがそれが何時、作られたのか時系列がまるで分からない。
僅かだが、埃の量が違うのでその量をよく見、時系列を並べていく。
が、そこで、ある腕時計サイズの機械を見つけた。腕時計ならそこらかしこにあるのだが、私が持った腕時計は異様な雰囲気を纏っていた。
これは……エーテル? 試しにエーテルを流し込むと腕時計が突如として光りだした。
やがて腕時計から画面が浮かびだしそこに刻まれた文字があった。その文字は『パスワード』と書かれていた。パスワードを解け、ということなのだろう。
いや、無理なんだが。どうやってこのパスワードを解けって? 馬鹿なのか? ヒントもなんもないよ。ここ。
ホラーゲームであったらここで謎解きをしてパスワードを解くのだろう。そのためのヒントが何処かにあるのだろう。しかし、そんなものはここにはない。ホラーゲームではない。たしかにここは二次元なのだが、それでも違うのだ。
こうなったら───




