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4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
一冊目《迷宮姫の覚醒》
21/102

20ページ,あの日の花は

───先刻?、迷宮(ダンジョン)???階層、???、キャルメル・ファスト───


「───キャル! そこ、気を付けて!」


 少女の声がダンジョン内に響く。昔のキャルのパーティーメンバーだった、フレアがこちらを向き、紅い髪が横に(なび)く。


 そして、その声に応答するように触手が物凄いスピードで迫ってくる。


 それをキャルメルが間一髪で避ける。


 ドゴオオオオッッ‼‼‼ と音が地面を沈めさせる。キャルメルが避けなかったら、今頃彼女は地面のように潰れていただろう。


 想像するだけでも恐ろしい。


 今、彼女たちが戦っている純粋魔物(モンスター)は、〈破壊級〉の陸灰燼鮹(ダコイル)。八本の触手が生えていてその触手が放つ速度は音を超えるといわれている。


「追撃いくよ!」


 キャルメルが声を上げ、二人は陸灰燼鮹(ダコイル)に向かって駆ける。


 駆けていく途中でも触手が絶え間なくキャルメルたちへと襲い掛かるがそれを全部間一髪で避ける。


 しかし、それも続くわけでもなく、ピシッ!と彼女たちの頬に血が伝う。


 血を手で触る余裕もない。だが、それは彼女たちにとっては掠り傷だ。


 走り続ける。触手を躱し続けて。やがて、バカデカい陸灰燼鮹(ダコイル)(ふもと)に辿り着く。


「「いっけえええ‼‼‼」」


 二人は叫ぶ。二人の伸ばした刃は陸灰燼鮹(ダコイル)の目に(たっ)そうとしていた


 しかし、それは叶わない。


 二人の死角にあった触手が彼女たちを襲い、吹き飛ぶ。


 二人は地面に叩き落されるがキャルメルは直ぐに立ち上がり、フレアの方に視線を飛ばす。


「大丈夫⁉ フレ───」


 キャルメルが飛ばした視線の先には、確かにフレアが移っていた。


 地面の生えていた鍾乳洞に刺さっていたフレアの姿が───


 ***

 ───三日目、早朝、キャルの部屋、キャルメル・ファスト───


「フレア───!」


 私は目を覚ました同時に手を天井へ伸ばしている視界が映る。


 ……夢? そうか、いまのは……


 久しぶりに、昔の夢を見た。私が冒険者に入ってしばらくたった時のこと。


 ……さて、もう今のはもう忘れよう。過ぎたことだし。


 カーテンを開けると青い太陽が輝き、私の目をさらに覚ませる。そのこと以外にも目が覚める原因がある。


 さっきの地震だ。いや、地震と言っていいのだろうか。震源地はだいたい神山といったところか。


 きっとクーの仕業だ。きっとじゃない。絶対だ。


 昨日、神山を壊すといっていたからね。もう予告犯だよ。まったく。


 どうせクライシスにこのことを伝えたら「怪盗みたいでいいじゃん!」といってきそうだ。


 ほんとに呆れる。


 ベッドから体を起こし、体を伸ばす。朝から体を伸ばすのはよくないと昔から祖母に口酸っぱく言われているが、これが私のルーティーンなのだ。


 かれこれ何年続けているのだ。いまさら覆しようのない。


「う~ん」


 体を伸ばしていく中で、自然と声が漏れる。体の節々を伸ばし、朝から体調を崩さないようにする。


 ストレッチが終わり着替える。目は先のストレッチで覚めているが一応、部屋の洗面台で顔を洗ってサッパリさせる。


 クローゼットを開き、普段着をみる。今日はどれを着よう。少しだけ悩んだが、これでいこうと思う服を選んだ。


 服に袖を通す。シャキッといつもの姿になった。


 しかし、鏡を見ると髪が乱れていた。


 少し急ぎめで髪を()かす。暫くし、髪を梳かし終わったら部屋からでていき家族がいる居間に行く。


 到着すると、父と母、妹にケルちゃん。全員がそこに居た。


「おはよう。私が最後なのね」


「おはようキャル。クライシスさんはどうしたんだい?部屋にも居なかったようだけど」


「クーなら朝早くから家に出ていったわよ」


 そう私が告げると母が杓文字(しゃもじ)を持ちながら残念そうな顔を浮かべる。


「残念ね~。昨日会っていないから顔だけ見たかったわ」


「たぶん、今日帰ってくるわよ」


「かえってくる⁉ クーかえってくる⁉」


 私の言葉にいち早く反応したのはマリアだった。


「かえる、かえる」


 ケルちゃんは多分、言語を覚えようと繰り返していると思う。


「そうか、それならよかった」


「うちには居て欲しいのよね~」


 父と母は見つめあってのほほんとしている。何故かそれは、私からみて本当に歪んだものに見えた。


 私がその場に突っ立っていると、父がトーストを食べながら私に問う。


「そういえば、キャルの部屋から唸り声が聞こえたみたいなのだが、なにか変な夢でも見たのか?」


 そんな父の問いに私は図星だった。だから、言葉に詰まる。


 しかし、声を振り絞り「……なんでもないよ」と言った。


 父は「そうか」といったが、やはり気になるらしく私と視線を合わせず今朝届いた新聞を読みながら再び言う。


「フレアのことか?」


 またしても図星に私はもうなにも言えなかった。


「かれこれもう三年か。忘れられないのは無理はない。非常にあれは(むご)かったのだから」


 当時を振り返るように明後日の方向を眺める父。


 ……あれは……もう忘れたい出来事だった。しかし、忘れることはないのだろう。あの出来事は、私に纏わりつくように思い出される。


 忘れたくても。それが私の(つみ)なのだから。忘れることもできずに私が忘れそうになったときに思い出させるように夢にだし、私を追い込まさせる。


 それでも、しょうがない。それが───それこそ、私が引き起こしたことなのだから。


 私のせいなのだ。フレアが死んだのも。私がまだ、生きていることも。


 私のせいで全て、私が起こした事例なのだ。


「……今日も迷宮(ダンジョン)に行ってくる」


 父の顔は、『父親』の顔ではなく『冒険者組合長(ギルドマスター)』としての顔だった。


「ご飯はしっかり食べていきなさい」


 私の席には、いつの間にか朝食が置かれていた。私は席に座り、朝食を頂く。いつものように、ご飯は暖かった。


 でも、何故だか味はあまりしなかった。


 フレアの事を思っているので意識がご飯に向いていないから味がしないのか。よくわからない。


 もう泣きそうだ。いや、目には涙がきっと溜まっているだろう。


 必死にそんな顔を家族には見せないようにしている。恥ずかしいからだ。


 気づいたらご飯は食べ終わった。


 いつの間にか、だ。時間も忘れるほど泣くのを我慢していたのだろうか。


 その為、涙も、もう止まっていた。涙を(ぬぐ)う必要はない。


 私は、一旦部屋に戻り、鎧をつける。


 ここから私は『プリンセス』としての私だ。


 しっかりしよう。今日も迷宮(ダンジョン)で鍛えるのだ。


 ……ズドオン!


 いきなり地面が揺れ始め、足がもたつく。


 ……思わず吹き出してしまう。そうだ、忘れてた。あの人は、いつもみんなの予想外のことをしてくる。それが、どれだけ助かってる人がいるか、あの人は分かっているんだろうか。


 今のも、きっとクーの仕業だ。一体、なにをしているのだろう。神山を壊す、とか言ってたけどそれが本当の目的じゃないよね?


 ……大丈夫かなあ

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