14ページ,契約
「なっ……!」
未だに、ベルゼブブは絶句している。それほどまでに、先程の戦いは、現実に似ており、仮想とは思えなかったのだろう。
「さあ、約束は約束だ。これにサインしてもらおう」
俺は術式を展開する。それは契約書の機能になっていた。それをベルゼブブに飛ばす。
「……約束をしたのは、こちらもそうだ。今更とやかく言わん」
素直に、ベルゼブブはその契約書に調印する。
するとベルゼブブは早速『変形特別級魔法』『魂売技能強化』を使う。その瞬間、ベルゼブブは光り輝き、青い宝石と化す。
ベルゼブブは空中で宝石になったため、真下にある岩にコトンっと音を立て、落ちる。
俺が一歩、歩めば俺の踏み出した足場に『物理攻撃無効結界』を出現させる。もう一歩、足を踏み出せば再度その足場に結界が生み出す。
胃酸が触れない瀬戸際に、結界が出現する。
そう歩いていき、やがて宝石が置かれている岩へと、たどり着く。
ほんの少しだけ腰を屈め、宝石を手に納める。
俺が宝石を吸収しようとすると、宝石の形が変形し始めた。
青かった宝石は白く輝きだし、一つのカードへと変化する。
"スキルカード"という物だ。
人は皆、先天的に、生まれながらにスキルを手に入れている。
その他にも後天的に一定条件を満たせばスキルを手に入れられることができる。
そして後天的にスキルを得るときには、カードが出現する。それがこのスキルカード。
スキルカードにあるスキルを得たいという気持ちがあるとき、このカードが吸収され、スキルカードのスキルを得られる。
さて、早速スキルを吸収するとしよう。
スキルカードのスキルを得たいという気持ちを示し、カードが自分の体へと吸い込まれていく。
『契約成立……か』
ベルゼブブの声の残影が私の中で響く。
実は、さっきのカードはスキルであると同時に、ベルゼブブでもある。
ベルゼブブは『魂売技能強化』でスキル〈暴食〉に魂を売り、そのスキルをさらに強化した。
そして、そのスキルは私が吸収した。
つまり今、私が持っているのはただの〈聖・魔級スキル〉〈暴食〉ではなく、〈皇級スキル〉〈暴食悪魔〉だ。
そして今、私はベルゼブブと契約している。だからベルゼブブの記憶や技などが色々流れ込んでくる。
だから私も〈暴食の胃〉を扱えるのだが、ここは折角なので〈暴食悪魔〉を使ってみるとしよう。
(───喰らうものはこの結界だ)
喰らうものを指定し、スキルを発動する。
するとデッカイ口がどこからともなく現れ、自分ごと喰らう。
たちまち領域が壊れ、キャルメル達が待つ現世に戻る。
「───ああ! ケルちゃんほんと可愛い! 一生愛でてたい! いや、なんなら後生でも愛でてる!」
「クウン?」
「ああもう! このケモケモも、ほんといい! お姉さんといいことする?」
「……」
なんやねん。コイツら。俺が領域入ってる間になにオネショタ繰り広げてるんだよ。
僕がオネショタ作ろうとしたけど、どうやらその必要はなかったようだな。
「あっ!クライシス!戻ってきたんだね!」
と言いつつケルベロスの頭をわしわしと撫でる。
そんなキャルメルに俺は額に手を当てる。そして一息。呆れて言葉もでてこない、というのはこれなのか。
「帰るぞ」
呆れながらも声を絞り出す。
「え~この子もっと撫でてた~い~」
頭が擦り切れるくらい撫でまわす。もはや摩擦熱が起きる気がする。
「はあ……」
仕方がないため自分含めケルベロスとキャルメルを転移の聖法陣で囲む。
俺らの周りが白く淡く光り輝く。気が付くと、そこは冒険者ギルドだった。
キャルメルは呆けた顔をしているがそれでもケルベロスの頭を撫でまわす。
しかし、ここが冒険者ギルドだということが気づきハッとする。
「ねえ……」
「なんだ?」
少し怒気が孕んだ声を含まれている気がする。
「私達が樹海で彷徨っている必要あった?」
「……」
「ねえなんで目をそらすのかなあ?(怒)」
なんて言おうかなあ……
仕方ない。正直に言うか。
「えーと、樹海歩くのも悪くないかなあって……」
「……」
「それに、ケルベロスだって見つけたし……ね?」
ケルベロスに焦点を合わせる。
「クー?」
……。
「……まあいいとしようか」
良かった。なんとか納得してくれたようだ。
「じゃあ報告でもするか」
『無限暗黒収納空間』から出かける前に入れておいた樹海の報告紙を取り出し、樹海近辺を調査した結果を書く。
といっても魔物は少ないし迷うしで散々だったため、あまり書くことはない。
大罪魔物がでたと書いても信じない可能性の方が大きいため書くことはない。
……まあこんな感じか。
書けた報告書を受付嬢に渡す。
キャルメルではない受付嬢だ。
「お疲れ様です。キャルメルさんもよく無事で。どうぞ。今回の解決金です。これにて、樹海のクエストは終了です。ありがとうございました」
金を受け取る。それを全部、キャルにあげる。俺に金なんか必要ないからな。出かける前にキャルに告げたからキャルはなんも言わずに受け取る。
僕はありがとうございます、とだけ言いキャルメルと少し雑談をするため、また席へ戻る。
「昨日は言えなかったけどクーって何処で泊まるわけ?」
何故言えなかったかというと昨日は俺がそそくさと冒険者ギルドを去ったからだろう。
「完全、山で野宿だな」
先程用意したトマトジュースを飲む。
「それって大丈夫なの?汚くない?」
「この服、鑑定してみ」
自分が着ているトアノレスに指を指す。
キャルメルの目が変わる。鑑定してるみたいだ。
「えっ! それ〈完全防汚〉ついてるの! すご! 何処で買ったのその代物!」
「非売品っすね」
「……」
凄すぎて呆気にとられるといった感じか。
「でも、山で野宿なんて不便じゃない?」
「いいや。別に不便じゃねえぞ? 逆に便利だぞ。金がかからないとか、金がかからないとか」
「メリットそれだけ?」
「……」
「また目そらしてる」
いや、なにも言い返せませんけどなにか?
「ウチ泊まっとく?」
「……はい。ん?」
「いやだからウチ泊まっとく?」
あーどうしよう。なにこの遊んでく?感覚。
行ってもいいんだけどさ。でもさ、でもさ。女子の家に行くってさー。ね?
私が行ってもいいのかって感じで。キャルメルからしたら私は男子かもしれないのにさ。
そこらへん、ホントにギャルだな。
まあいいんだけどさ。
「いいのか?」
一応、許可を取る為聞いてみる。
「もちろんだよっ!」
「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな。」
ほんとにいいのか分からないけど。
でも、キャルメルがいいんだったらそれでいいか。
まあまあ、大丈夫でしょう。