29ページ,異様
目の前にある青白い半透明の板に、両手をかざし、二層構造である教会の地図を、重ね合わせる。
そしてそこに生まれるは、狼の像。
「……地図みても、どこにその聖教の穴ってのは見つけられなくない?」
「いや……これは……」
私は横に聖教のシンボルを浮かばせる。
「! すごい似てるね」
「ああ……でも、これは角が足りない。つまり……」
次は聖教のシンボルと教会の地図を重ねる。角が無い以外は全て寸分違わずはまる。
そして足りない角の部分には点線が描かれる。その部分は、地図と切り離され、拡大する。
「この部屋に、きっと俺らが求める物がある」
指を指した部分は、ケーラが向かった地下室である。
「単なる推察だけど、確かに合ってそうだね。聖教は神獣の角に関しては特別扱いしているというのを聞いたことがある」
聖教に調べたことがあるキャルが言うのなら、正しいのだろう。
「ただ、地上にこれらしき物はない」
「地下にあるってことか……」
「正解だ。ケル」
「じゃあ、早くケーラに知らせないと」
「いやいい」
すぐさま私は否定する。しかし、それに反駁するルーラがいた。
「それは少しケーラに酷ではありませんの? 彼は頭が回る方でもない。何年も隣にいた私が言うのですもの。間違いありませんわ」
……なんかケーラのこと凄く馬鹿にしてない?
「仮にも彼には本当の”勇者”になってもらう。そうしなくちゃこの星の安全は守れない」
「それでも、彼の成長のために皆の足枷にはさせていけない。なにより彼自身が、そう願っているはずですわ」
「……わかった。なら、ヒントを与えるとしよう。それが妥協点だ。あと、ヒントはルーラ、お前が考えろ」
「! わかりましたわ」
あまりにも強いルーラの押しによって、流石に俺は押されてしまう。こうやって芯がしっかりとしている子はなにを言っても曲げようとしない風潮みたいなのがある。
だけど、こちらも譲れないものもある。だから、譲歩だけはした。
「珍しいもんだねーパルが譲るなんて」
「それほどの強者というもだよ、キャル」
なんか達観した顔しているけど別にそんな俺の事理解してないだろケルは。
「はいこの話は終わり。あとは聖軍の状態を調べるために王宮に行くぞ」
「え? なんで王宮?」
「あそこは聖軍が招集される場所だ。それに、結局騎士団長さんがどうなったのか気になってな」
皆と共に、王宮へ転移する。真っ白な視界から晴れると、王宮の門が現れる。
そして、門番がいつものことなのかどうなのか分からないが、冷静に対処を行う。
「クライシス様ですね。現在は、軍を招集して、王宮の庭が大変込み合っていますので、王宮の中へ転移をお願いします」
よく見ると、門の向こう側には、大量の軍勢が引き入れられていた。
……なんだ? 妙に早い。軍を編成するなら、俺が時空をずらしたからもっと遅いはずだ。
「急ぐぞ」
私が一歩踏み出すと、その瞬間に空間は移動し、王宮の中へと移動する。ある種のワープのようだ。移動する空間が狭ければ、これがしやすい。
「久しぶり、カムトリエさん」
実際にはそんなに日付は立っていないが、すごい久しぶりの登場なのでこの挨拶がちょうどいいだろう。
そして、目の前の彼女は、突然の大人数にびっくりして腰に携えている剣を落とす。
「ク、クライシス殿。今日はどういったご用件で」
「いやあ、聖軍の様子を見ることにしてさ。ちょっといいかな」
「わかりました、では、後ろの方々もどうぞ、私の後へ」
「そういえばさっき門の方へ行ってたんだけど、軍隊が揃っていてビビったよ。あれっていつ出撃するの?」
一つの情報。それは、僕が動揺しないのは難しい一言だった。
一つの考えが、僕の頭を埋め尽くす。まだだ。まだそうと決まったわけじゃない。
……たった一人の存在が、全てを塗り替える、というのは難しいことではない。この程度の小さな世界に干渉できる存在など、世界にはいくらでもいる。
たとえそれが……俺を上回る力をもってしても。
「……クライシス殿。たった今、魔王軍が王国へと向かってきているという情報がでました」
魔王軍が王国へ来る時間は徒歩で一日くらいだ。
もう時間がない。
「どういうこと? クー。さっき時空を歪めたとか言ってたけど……」
ありえない。そんなはずは───……
───刹那。私達に衝撃がはいる。そしてそれと同時に大きなエーテルが伝わってきた。
「「「⁉」」」
周りは困惑の絶頂へと至る。
「……冗談だろ」
状況を察した私とアメリは外へでて、空を飛ぶ。
───王国の周りには、大地を埋め尽くすほどの魔王軍が総勢を成していた。
「どうしてなの? パル……これって」
初めてアメリの顔に焦りが見える。そうだ。俺たちのセレマは完璧だったはずだ。
つまり、僕たちのセレマに干渉してきた人物がいる。極致級のセレマに。
「こんな状況、一つしかないだろ……しかけてきやがった。邪神が」
「まさかこんなにも早いなんてね。大丈夫? ケーラも来ていないけど」
「やるしかないだろ、私達で」
だがしかし、この程度の数は俺とアメリで対処可能だ。
ゆっくりと魔王軍の前まで私たちは下降する。
「一応だが、用件は?」
聞く気もないが、もしかしたらの勘違いでこっちにきてしまった大道芸の人の線も考えて尋ねる。
「我らは魔王直属の軍隊。我が愛国の発展のため、人類の領土を我らの物とする」
まあ、大道芸の方ではなかった、と。
「じゃあ、やることは一つだな」
パチン、と指を鳴らす。そこにイツメンが登場する。そして、みんなに思念を送る。
『さて、みなさんにはこれからあの方たちと戦ってもらいます』
『クーはどうするの?』
『俺は───魔王と戦う』
だいぶ遅れました。これからは量は多く書けませんが更新頻度改めようかなと思いたい




