親友のカミングアウト
ガチャガチャと、玄関の鍵を開ける音で目を覚ます。
「おい、約束忘れてないか?」
部屋に入ってくるなり不機嫌そうに言葉を発する親友に俺は、寝ぼけている目を擦りながら答える。
「おきた…わすれてた」
「まあ、そんなこったろうと思ったけどな」
「ごめん」
「いいよ、それより早く着替えて出掛けるぞ」
「うん」
親友に服を用意してもらって着替える。生まれた頃から一緒にいる幼馴染みで、もう二十年の付き合いになる。
「あ、飯食うか?」
「うーん」
「とりあえず食っとけ」
「わかった」
この親友ハイスペックなのだ。
飯を作らせても運動をやらせても勉強だって、何でも一流以上にこなしてしまう。
そんな親友に比べて俺は、だらだらと日々を過ごしている社会不適合者だ。幼馴染みの腐れ縁とはいえ、俺に構い続けるほど暇じゃないはずなのだが。
「おい、飯出来たぞ」
「おぉ、ありがとう」
「冷蔵庫に食材がなかったから簡単なものしか作れなかったけどそれで足りるか?」
「充分だよ、ありがとう」
あれ、俺の冷蔵庫にこんな食材あったっけ。朝食の献立はサンドイッチにコーンスープなのだが、俺の冷蔵庫には入っていないはずの食材が使われている。というか、俺の冷蔵庫は基本エナジードリンクとカロリーバーだけなのだ。
そんな事を考えながら不思議がっていると親友が、こちらに気付き答え合わせをしてくれる。
「お前の事だから冷蔵庫に食材が全然入ってないと思って買ってきた。」
「なるほど、助かる」
「本当に空だとは思わなかったけどな。」
「すまん」
モグモグと朝食を食べ終えると親友が口を開いた。
「どうだった?」
「ん?」
「だから、朝飯どうだったかって…」
「ああ、うまかったぞ!」
「ふふ、そっか」
あれ、こいつ男だよな?
いま、すっげぇ可愛く見えたけど?
「おい、不思議な顔してないで早く出掛けるぞ」
「え、もう行くのか?」
「お前が寝坊したせいでもう三十分遅れてんだよ!」
「すまん」
さっさと荷物を持ち家を出る。
家を出て親友がこちらを向く。
「どうした?」
「これまで言い忘れてたんだけど…」
「うん」
「私、女だぞ」
「へ?」
女?親友で幼馴染みで完璧超人の彼氏にしたい先輩ナンバーワンみたいな親友が?これまで男として振る舞ってた親友が?女??
「お前の前だと恥ずかしくて…嫌われたくなくてつい…」
「え、かわいい」
「ちょっ…かわいいとか言うな!!」
突然のカミングアウトにビックリな俺だったがさらにビックリ。
「俺…いや、私はお前のこと好きだぞ」