生徒会会計・ユリウス=ファルディ
なんつーか、アレだ。昔流行った(って聞いた。ひとまわり年上のいとこのねーちゃんから。)“ホストの総カイシン”ってやつ。
歌舞伎町のホストか何かがはじめたらしい。――チャラ男に興味ねえあたしはさっぱりだが、タキシード来て集団でドヤ顔で歩くってのは、なんか族っぽい発想だなと興味はあった。
(悪い意味で、な。)
あたしは、男で群れたがる連中には鳥肌が立つほど嫌悪感があるのだ。
「……。」
ゾワッ、と全身が粟立ち、震えはじめる。思い出したくもない前世の記憶があたしのなかによみがえる。
(クソが。)
生徒会連中とそのことは関係ねえ。それはあたしもわかってる。冷たい汗の感触を、がくがく、と膝が笑ってしまうのを、下腹に力を入れて耐えた。
(どっちにしてもムカつくけどよ!)
弱いやつが団結して立ち向かう、ってなら応援してやりたくもなるが、強い立ち位置にいるやつが「俺たち特別なエリート」「選ばれた人間たちです」的な雰囲気撒き散らして、ドヤ顔で練り歩くとかまじキメえ、と思ってる。
(お互い、かかわり合いにならないほうが身のためだな。)
あたしだって、キモいからムカつくからってだけだけでケンカ吹っ掛けるほどバカじゃねえしガキでもねえ。イラッときたら逃げるが勝ち。
「あら、一人足りないんじゃないかしら――」
「会計のユリウス様がいらっしゃらないわ!」
(ユリウス……?)
なんつーか、水色若白髪がそう名乗っていたような気がしなくもない。
(いや……気のせいじゃねえな。)
水色若白髪は、この場にいない生徒会書記のユリウス様とやらで間違いないだろう。
(チビガリのくせに、様で呼ばれるのかよ。)
この世界、よくわかんねえ。
(ま、でも……チビガリの男がスクールカースト下位でいじめられてるってよりはマシ、かな。)
学校じゃ、あたしに関わるやつはいなかった。一対一じゃ、あたしに敵うわけはねえ。気に食わないモン目にしたら、あたしは目障りなものごとぶっ飛ばすことにしてた。そのヤキがまわってきて――ここには書けないようなことがいろいろあって、最後は死んだんだけどな。
「おい、お前……」
「レイチェル……!?」
青ざめたフローレがあたしの腕をとる。連中のよからぬ気配を察したらしい。空気が読める女だよまったく。
「フローレ、大丈夫。」
(大抵のことはどうってことねえよ。)
あたしのそれは、生き地獄を見ながら殺されたやつの強みってヤツだ。
「ユリウス様の件でしょうか?」
いちおう様をつけてやるよ、こんちくしょうが、そう思いながら、殺気をこめた目であたしはそいつらを見上げる。
(ガキのくせに上背はあるな……。)
年齢の割には、肩もしっかりしてる。脚から腰まわりもなかなか強そうだ。
(相手に不足なし。)
この世界じゃあたしも子供だ。小せえし、腕も信じられないくらい細いし力も弱い。けど中身はあたしだ。
「女で、そんな小さな華奢な身体で、俺たちを睨み付けるとは――良い度胸をしているよ。」
赤い短髪を逆立てた男が、笑ってない目で口元に笑みを浮かべて言う。
「ユリウス様はもっと小さくてガリ……痩せていたと思いますが?」
「ユーリを愚弄する気か。」
背後からひときわキラキラしい――白っぽい金髪に真っ青の瞳をした男がドスのきいた声をあげた。
(あいつが王子かな。)
着ているものも雰囲気――態度もなんだかエラそうだ。
「ここじゃなんだ、ちょっと来てもらおうか。」
緑の髪に、金色の目をした男がそう言って手を差しのべたとき、
「その必要はないっ!」
(ん?)
息を切らして駆け込んできた……小さい影をあたしは見る。さらさらの水色の髪の毛が、間に割り込んできた。
「何か誤解があるようだが、わたしは……不覚にも階段で転んで落ちてしまっただけだ。」
なぜか、ユリウスは、王子の前に片膝をついた。
「皇太子殿下。4傑のひとり、私、ユリウス=ファルディが……かような山猿女にやられるとでも?」
「おい、お前がその女を案じて在籍証明書を持って行っていることも、負傷したお前が書類を持っていなかったことも、奪われた書類をその女が持って手続きを済ませたことも明らかだ。」
赤毛の短髪――体育委員長っぽいヤツだ……が口をはさんだ。
「何故、その者を庇う。」
皇太子とやらが口を開いた。
(マジかよ……。)
頭が痛え。いろんな意味でめちゃくちゃビミョーだ。気持ち悪すぎる。
(なんであたしが、あたしがやったヤツから庇われなきゃなんねぇんだよ!?)
気持ち悪い。このままにしてられるか、とあたしが前に出ようとしたとき。
「出しゃばるな山猿!」
水色若白髪――チビガリのユリウスが、凄い顔をして睨み付けてきた――けど、あたしが動けなかったのは、べつにそれにビビったからじゃない。
(あ、足が……動けねぇ!?)
地面にくっついたようだ。妙に寒いし、凍ったような感じだ。
「クソてめえ何し、……?」
声も出ねえ。チビガリのユリウスは、ムカつくような瞳をしてフン、と鼻で笑ったようだった。
「ご覧のとおり、あのような山猿、私の相手になるわけもございません。」
(あのクソチビ、ぜってーコロす……)
あたしにケンカで負けたくせして、そのことを隠蔽して、庇うだなんて最悪だ。
(こういう屈辱ははじめてだぜ……)
前世、さんざんな目に遭ったあたしだが、こういう気持ち悪いことをされたことは一度もない。
「確かに――な。」
「殿下!?」
「かような山猿、小娘にやられたとあれば、それこそ我が恥、賜りし爵位にかかわる名折れにございます。」
山猿な小娘が、と言わんばかりの水色の瞳があたしを見る。
(……の、野郎ぉ!)
自分のなかで、何かがブチッ、と切れるのをあたしは感じた。
(!)
金色の光が足元から迸った。
お気づきの方もいらっしゃると思うのですが……ユリウス君は意地の悪い言い方をするだけで根本的には良い子です。