柄じゃないキャラに転生してしまった!!
乙女ゲーム――女友達にすすめられてやったことがある。キャラクターも練られていて、悪役と呼ばれる女たちも中々魅力的で、そこそこ面白かった――が、あたしがどうしても合わない場所があった。それは、ゲームを楽しむ上で致命的とも言える部分……
“王子達がスキになれない”
ということだった。
いや、もちろん、世の中のすべての乙女ゲームの王子がクソ(言葉づかいが悪くてごめんなさい)だと言ってるワケじゃない。
ただ、あたしが女友達に借りたゲームの王子達は、あたしには、揃いも揃ってクズばかりに見えた……というだけで。
「てめぇら色恋にうつつ抜かすほど暇なのかよ、さすがお貴族様(いや違う王族?か)だな」
……とか言い出したらキリがねぇ。が、あたしの感覚的に、まじであり得ねー、と思ってしまうのが、見せ場!?でもある“断罪イベント”だ。
なんなの、あの卒業パーティー?か何かで、婚約者に同伴されて入場するのが習慣で、悪役令嬢に一人で入らせて、公衆の面前で、これまでの悪の所業の数々を暴露して、婚約破棄を告げる。(そして、ヒロインとのイチャイチャっぷりをこれでもかと見せつける!)あのイベント。
正直、生前に見た……バカな男が、バカな女に泣きつかれて……あたしの女友達にやらかしたこと思い出して胸糞悪いんだわ。あれはバカな女の演技で、あたしの女友達のほうは完全に濡れ衣を着せられたパターンだったけど。
女友達は怒るよりむしろ、それでスカッと冷めたらしいわ。陥れた女じゃなくて――泣きつかれてコロッと騙され、ヒーローかぶれて妙な「断罪イベントもどき」をやらかした男のほうに。
――バカに見えたらしい。
そりゃそうだよな。かっこつけて、悪役にいびられるカワイソウなヒロインを助けてやった……気分でいたら、自分がやっつけたと思った悪役は無実だったというパターンだ。醜態も甚だしい。
女友達は、淡々と無実の証拠を伝えつつ、男ごと、のしつけてお返ししたらしい。
―――
ともかく――だ。あたしはそもそも、男が女をつるし上げて辱しめるような真似してる時点でいけすかねぇ。
なんだその女が腐ったようなやり方は。
そもそもてめぇがシッカリしてたら、ここまで問題こじれてなかったんじゃねーの?と、あたしは思ってしまうのだ。
女が女同士で争うのはなぁ、女に社会進出の機会が少なくて、男の腰巾着(※使われかたが違う)みてぇに生きるしかない世界だからだろ?
より権力があるオトコに嫁ぐことが、跡継ぎにもなれねぇ、なんなら財産を継ぐこともできねぇことも多い――男より軽んじられる立場に生まれた女が、家を守るための義務みてぇに小せえ頃から洗脳……っつーか、親とか周りから教育されて育ったせいで、そういう思考回路になったんじゃねぇの?
恋愛がすべてで。男から選ばれることが自分の女としての価値で。恋は戦場で、選ばれるためには手段を選ばないみたいな生き方をするしかないのは、
その世界の女、ポジションがそれだけ弱いから。
想像すりゃわかるだろ。
現代社会のバリキャリ女は、恋のライバル女を手を尽くして全力でいじめたり すると思うか?
そんな時間がもったいない。馬鹿げてる。その手間と時間かける余力があるならキャリアアップの勉強をしたほうがずっと効率的だし、明日の空模様みたいにどうなるかわからない、男の心を当てにするより、確実に成果も出せるはず。
男相手に対等にわたっていける女達は、むしろ、ライバルと戦っていくための戦略を練るはずだ。戦うべき相手は女とは限らない、むしろバリバリの女にとっては――圧倒的に、敵は男であることの方が多い。
女が女をいびり倒すのは、そういう風にしか生きられない――つまり男とは戦う力を持たぬ女であることの証拠みたいなものでもあるんだ。
つまるところ、か弱い女。そんなの、あたしの敵じゃない。
そして――それがまかり通る世界は、つまり、女の立ち位置がそもそも極端に弱いことを意味してる。
そんなもの、プライド高くて負けず嫌いの――あたしが戦うべきフィールドじゃない。
――ヒロインに嫉妬?
嫉妬していじめぬくやり方は、確かにちょっといただけない。嫉妬はいいが、イジメは陰湿だし卑怯だろ。その部分は、確かにあたしとは合わない。説教してやりたくはなるよ。
けど見方を変えりゃぁ悪役令嬢だってカワイソウな被害者なんだよ。ヒロインの立場が欲しくて必死なだけの弱い女。
あたしは、そんな女の立場に立って考えず、強者の立場に生まれついておきながら、権力を振りかざして――平気で断罪なんかする男どもがいちばん嫌いだ。
ヒーローみたいにヒロインを救出する王子様?
けっ。
どこがカッコいいのそれ。
魔王に襲われるヒロインを救出するために乗り込んできて、ボコボコにされながら、血みどろになって戦って救出するならわかるよ?
男ってのはなぁ、弱いものを前にブイブイ言わせてるだけじゃ、中身は弱いやつパシらせてる中途半端な不良とかわんねぇんだわ、わかる?
傷だらけになりながら、それでも強いものに立ちむかってこそ男、その生きざまをカッコいいっていうんだよ。
悪役令嬢なんてなぁ、個人的に呼んで、キチンと話をつけて諭せばいいだろ?
男として強い立場で、権力もあるあんたがスジをとおせば、簡単におとなしくさせることくらいできるはずだ。
それなのになぜ、自分より圧倒的に弱い女を相手にして、大勢の目の前で辱しめるような事ができるわけ。
性根の部分が、「悪役令嬢のヒロインのいびりかた」とソックリなんだよクソッタレ。男のくせにやり方女々しいんだよ。
SNSで女を揶揄する噂話で盛り上がる男レベルにクソだろ。
あたしは、弱いものいじめと、しみったれたやり口がキライだ。
――男嫌いなんじゃないか? まぁ……それは保留にしておく。女に甘くて男に手厳しいのは――あるかもしれない。
が!そんなあたしの問題はというとだ、どうやら、あたしが――乙女ゲームのヒロイン!?という一番相応しくない場所に収まってしまった――状況にある。
マジかよ。
スチル?――いらねぇ。王子キャラには一切ときめかないあたしにどうしろと?好きでもないやつに接近されたら、ソッコーでタマ蹴り食らわせそうだわ。やべぇ。
全力で回避したい。いやまじ、王子様も、ヒロインと恋に落ちるイケメン達もいらねぇ。悪役令嬢に全部やる。だってあたしの好みじゃない、むしろイラついて鼻っ柱ぶん殴ってしまいそうな予感しかしないから。
今日はどうやら魔法学園(正式名称は知らない)の入学式――らしい。稀少価値の高い、光の魔法(徹底してガラじゃねぇ。どうせなら、火とか闇とか――せめて風で切り刻むとか そっち系が性に合うんだけどよ)をもって生まれたあたしは、庶民ながら特待生で入学した――らしい。
そしてあたしの怒濤の物語……は幕を開けるのだった。つづく。