第2幕 式神契約―1
鬼は困惑していた。
突如現れた上位の存在。
自らに立ち向かうものが放つ、異質な呪力。
だが微塵も興味はない。目的を果たすために、邪魔になる存在はすべて排除するだけだ。
それだけが、あの方に課せられた律令なのだから――――
◇
虎鉄の手中、突き立てた剣を源とし湧き上がる青い呪力。
妖が作り出した青い世界でなお、異質な闇。
それは瞬く間に肥大化し、莫大な呪力を虎鉄に注ぎ込む。
自らを器とする力の奔流。
覚醒した見鬼の才は、その全てを五感に伝えてくれる。
虎鉄の持つ物とは明らかに違う、妖の呪力。
異物を知覚した臓器が、拒否反応を起こすかのごとく痙攣する。
そうして作られた全身の熱を、青い呪力が持つ夜に似た冷たさが急速に熱を抑え込んで行く。
呪力が全身を巡り、傷口を塞いでいく。消し飛んでいた左手さえ、いつの間にか存在を取り戻している。
溢れんばかりの呪力の流入に遂に耐え切れなくなった虎鉄は、切っ先を体から抜き取った。
右手に顕現していたのは、青い刀。
それを刀剣と呼ぶにはあまりにも歪であった。
切っ先は形をとどめず、絶えず流動しながら、周りにある呪力を吸収し続けている。吸い込んだ呪力と呼応してか、刀身は鼓動を打つように常に小さく振動し、低い音を唸らせる。
例えるなら亡者の叫び、地獄の呼び声――――
「さあ行くのじゃ!私の主様よ!」
「この程度の雑魚に手間取るでないぞ?」
妖狐は尊大な態度を隠そうともせず嗤っている。
傷は治った。足も問題なく動くようだ。
力を貰った。とてつもなく大きな物を。
後は――――――――抗うだけだ。
視線の先、巨躯の怪物に目掛けて、虎鉄は地を蹴った。