表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ねない狐は闇夜に舞う ―妖憑きの落ちこぼれ陰陽師―  作者: 夏村シュウ
1、死ねない狐は主と出会う
7/49

第1幕 死ねない狐―終章



「こ……ろす……?」


「そうじゃ。私を殺してほしい」


 口の中が乾ききっている。

 まともに動かない足で立ち上がろうとしたが、うまく立てない。

 すると、まるで狙われていたかのように白装束の妖狐の眼前に、虎鉄はひざまずくことになった。


「どうした? 私がいらぬのか?」


 妖狐は不敵な笑みを浮かべる。


 今の虎鉄にとって、例え手を差し伸べてくれるものが妖だろうが悪魔だろうがなんでもよかった。ここで結ぶ『契約』など、もはやどうでもいい。

 今はただ、この状況を覆すだけの、力が欲しい。


「――――やってやる」


「こんなところで――――くたばってたまるかっ!!」


 この妖しき妖狐にはその力があることを、この時点ではまだ目覚め掛けである見鬼の才を持ってしても虎鉄は確信していた。


 絶望的な今を変えられる力を、虎鉄は望んだのだ。後はありがたく貰い受ける。


 ただそれだけの事であった。



《我ここに命ず》



 何をすべきか、聞くまでもない。

 虎鉄は淀みない動きで印を結んだ。

 行使するのは、昔読み漁った書物に記されていた呪業じゅごん


 おぼろげなはずの記憶が瞬時に浮上する。

 自分でも、理由は分からなかった。

 だが虎鉄の体が、息をするように自然と言葉を唱えていた。



《我がいのちをここに持ちて》



「・・・よい答えじゃ」



《汝が道をここに示さん!》



 既に効果のほとんどを失った剣《鉄パイプ》に残された呪力を籠め、虎鉄は自らの胸元に突き立てた。


 刀禁呪とうきんじゅ身命形代しんみょうかたしろ。触媒を用いて自らの命と引き換えに律令を科し、妖を使役する失われた禁術。安倍晴明が制定した祓魔式ふつましきではない、本物の呪術。


 その瞬間、虎鉄の見鬼の才は完全に覚醒した。


 霞んでいた視界が呪力の流れをくみ取り晴れていく。

 突き立てた剣から流れ込む、妖の純粋な呪力の奔流ほんりゅう

 体内から溢れ出た呪力は光を放ち、拡散することなく一転へと集まっていく。

 

 耐え難い呪力の荒波の中、虎鉄は『力』が自身の手の中で、一つの形に生まれ変わる様を目の当たりにする。


 凜が見せた白でもない。鬼の持つ、赤でもない。




 この光は――――――――青、夜のあおだ。




主様ぬしさまよ、我が殺生石せっしょうせきの力を授けようぞ!!」



 失われた陰陽の歴史が動き出し、今蘇る。


 こうして、落ちこぼれ陰陽師・御門虎鉄みかどこてつは、稀代の大妖怪・玉藻前たまものまえとの式神契約を結んだのであった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ