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死ねない狐は闇夜に舞う ―妖憑きの落ちこぼれ陰陽師―  作者: 夏村シュウ
1、死ねない狐は主と出会う
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第1幕 死ねない狐―1



 赤い月、青く染まった世界。


 霞む視界の先に映るのは、血に伏せた幼馴染の姿。


 そして巨躯を震わせる鬼と、妖しくわらう妖狐――――




 どんなものでもいい、鬼をはらえる力が欲しい。

 震える足で体を支え、虎鉄は印を結んだ。



「その目、やはり昔から変わっておらぬな」


主様ぬしさま、私を殺してはくれまいか――――?」





「あっついなぁ……おい」


「夏だもん」


 どうでもいい会話をしながら、二人の学生が蝉の鳴く山道を歩いていた。

 気だるげな表情でゆっくりと歩く少年と、顔だちの整った美しい少女。

 前を歩く少女の二つに軽く結った黒髪が、ひらひらと舞うように揺れている。


 見慣れない制服は白を基調としたもので、随所にあしらわれている、文字にも似た黒色の飾り縫いが良く映える。

 涼しげな印象を見る者に与えるそれは、どちらかと言うと派手さより実用性を重視して意匠されていた。


 今、二人が歩みを進めているのは、通い先へ続く唯一の通学路だ。


 目の前を木々は道を塞ぎかねない程に生い茂り、ただでさえ狭苦しい道幅を更に狭めていた。

 そんな、住宅街の片隅からひっそりと伸びる、ろくに舗装もされていない山道を1時間かけて登れば、二人が通う陰陽寮おんようりょう五芒学園ごぼうがくえんの敷地が見えて来る。


「虎鉄は暑いの、昔から苦手だもんねー。毎日毎日暑いしか言わないじゃん?」


「うるせー……」


 少年は隣を歩く少女、倉橋凛くらはしりんの頭を軽く小突く。

 文句を言う彼女の小言をかわしながらマイペースに歩く少年、御門虎鉄みかどこてつは額の汗をぬぐい、何度通っても慣れない通学路を辿っていく。


 二人は陰陽師の名門の家の生まれで、所謂幼馴染というものだ。

 かの安倍晴明の子孫から派生した分家である、御門家と倉橋家の後継ぎとして、昔からよく屋敷での集まりで遊んだりもしていた。


 実家を離れ一人暮らしをしながら学園に通い、陰陽術を習う今となっても、こうやって他愛無い会話をし合える仲で、更に言えば虎鉄にとって凛は唯一ともいえる気が置けない友人であった。


「……何が名門だっての……」


「うん? 何か言った?」


「……なんでもねーよ、あーめんどくせぇなあ山登るの……」


 首をかしげる凜に虎鉄はそっぽ向いた。

 そんな事を気にもせず、凜は楽しそうに、そして時折笑いながら話しかけてくる。


「ほらー、あと半分だよ? もう少し頑張ろ?」


「もう、帰って寝たい……」


「なんで?」


「暑いから……」


「ほらー! また暑いって言った!!」


 してやったり、と言う顔で、凜が先程の会話を掘り返してはしゃいだ。


 なんでそんなに元気でいられるんだ……と、虎鉄は幼馴染の有り余る体力に着いて行くことが出来ない。


 既に山を登り始めて40分ほど経っている。今すぐにでも帰りたい虎鉄は、学園の敷地へとつながる石造りの崩れかけた階段の手前で足を止め、現在、いやここ最近、常に思っている願望を、暑さを誤魔化す為に大声で叫んだ。


「暑いもんは暑いの! 俺はクーラーガンガンに効かせた家で、冷たいアイス食ってたいんだよ!」


「でもそのあとは? 虎鉄、暇にならない?」


「だ、だから、寝るんだよ……」


 会話がループしている。これ以上無駄なエネルギーを使いたくなかった虎鉄は、階段の上で自分を見下ろしている凜から受け取った質問にがっくりと肩を落としながら、小声で返した。


 虎鉄は今、苛立っていた。いや、毎日のように苛立っている。


 虎鉄は学園に行くのが退屈で仕方がない。

 正直この山道を修行僧のように毎日登るのも面倒なのだ。更にこの後に待ち受ける仕打ちをここ数か月、学園に通い始めた時から分かっているのだから。


「ほら、もうすぐ着くよー」


「分かってるって……」


 天真爛漫な笑みを浮かべる凜の後を追い、虎鉄は気だるげな表情でため息をつきながら渋々と、木々が生い茂るぼろぼろの階段を歩き出した。



初投稿初制作です。よろしくお願いします。

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