あ! (〃∇〃) 間違えた。
デスク上の最後の書類にサインを書き終えた僕は椅子の上で伸び上がり、デスクの上を見渡す。
デスクの左側にはサインした書類が入った書類入れがあり、反対側の右側には空になった書類入れがある。
空の書類入れの上には金メッキされた電話が2台置かれ、書類入れの下前側にはこれも金メッキされたコードレスの呼び鈴が置かれてあった。
お茶でも飲むかと呼び鈴に手を伸ばしかけてから思い直し、右側一番上の引き出しを開けて中に鎮座している金無垢の台座に嵌め込まれているコードレスのボタンを手に取り、デスクの上に置いて眺める。
妹に絶対に押すなと言われ、僕自身の字で押すなと書かれているボタン。
僕だって「人類滅亡の最初の1歩を歩みだした奴」と、生き残っている全人類やその後に生まれてくる者たちの増悪を一身に受けるなんて真っ平だ。
そう、このボタンは我が国、否、僕が所有している全ての核兵器、大陸間弾道ミサイルや潜水艦搭載弾道ミサイルが敵に向けて発射され、核爆弾を搭載した爆撃機が敵国に向けて飛び立つよう指示する物。
このボタンを押してから10分以内にそれらの事、大陸間弾道ミサイルが発射され爆撃機が飛び立つ。
そんな短時間に? と言われるかも知れないが、僕を抹殺するために僕目掛けて海の向こうの大国から核ミサイルが発射されている筈だから、その核ミサイルが着弾する前に発射され飛び立たなくてはならないのだ。
だけどボタンを眺めていると押したくなるな。
ヤバい、ヤバい。
ボタンを引き出しに戻してから、お茶を持って来るように言うため呼び鈴を押す。
あれ? 何時もだと呼び鈴を押したら直ぐ誰かが来るのに、1分経っても2分経っても誰も来ない。
5分後、もう1度呼び鈴を押す。
1分、2分、3分経ってもやっぱり誰も来ない。
苛ついた僕は怒鳴る。
「なんで! 僕が呼んでいるのに誰も来ないんだー!」
怒鳴り声に気がついたらしく、執務室の扉の前で待機しているボディーガードの1人が執務室の中に入って来て声を掛けて来た。
「お呼びでしょうか?」
「なんで! 何度も呼び鈴を押しているのに誰も来ないんだ?」
「ど、独裁者様、そ、そ、そのボタンは、呼び鈴ではありません」
え? 僕はデスクの上のボタンを見、右側一番上の引き出しを開け中に鎮座している物を見る。
呼び鈴が引き出しの中に鎮座していた。
あ! (〃∇〃) 間違えた。
この日、人類は滅亡への道を歩みだした。