表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/21

指導3

 バードナー王子は評判の通り優秀だった。

 その日の執務が終わる頃には、王子直属の諜報員が的確に出された指示のもと、しっかり結果を持って来た。

 しかし王子は昼も夜も執務室で食べるのか。

 侍女を立入禁止にしたので給仕は私だ。もちろん色々浄化する。


「これを食べたら今日は部屋へ戻ろう」

「はい。ではおやすみなさい」

「ん? リュカも一緒に僕の部屋だよ?」


 私はフォークを落として固まった。


「リュカは僕に乱れた性生活を送らせないのが役目だよね? 夜こそ一番危険だと思わない?

 僕もいい加減いい歳だし、欲求不満で無意識に夜這いに出かけるかも」

「医務室で睡眠薬でも貰って来ましょうか」

「有事に薬で昏睡してたら大変だね。リュカ、もしもの時は責任取れる?」


 ひどい圧力の脅迫である。

 そして、さっきから王太子とは思えないような下品な単語が頻発されてる。


「リュカがちゃんと近くで見張っててくれたら清い体でいるよ?

 あ、もちろん聖女を手籠にしたりしないから安心して」


 下品な単語を更に重ねて駄目押し。

 くそ。まぁいいか。

 過去の任務で雨の中野宿とか地下牢に潜んで夜明かしとか盗賊に惨殺された死体十数体と洞窟で一晩とか、それよりかなりマシ。

 かくして私はバードナー王子の私室に連れ込まれた。


「ベッドとソファどっちで寝たい?」

「ソファ一択です」


 くすくす笑いながら王子が毛布を手渡す。

 王太子付きの侍女も侍従も下がらせているので、お茶を飲むか訊いて二人分淹れる。


「美味しい。リュカの淹れてくれるお茶以外飲めなくなりそう。そういえば、今日は昼食と夕食も、やけに美味しかったけど、料理人が変わったという話は聞かないなぁ」

「バードナー王子、毒見はどうされてます?」

「え?」


 王子が美味しく感じた理由に思い当たり無表情で問うと、暫しポカンとした彼は声を低めて難しい顔になった。


「僕は毒を盛られていた? リュカ、何をしたの?」

「私が口にするものを安全にするついでに少々細工を」

「ありがとう。毒見は、食事は調理場で料理人全員の前でされている。お茶は特にしていない。毒への耐性は鍛えてあるから油断していた」


 苦々しい顔に乱れた金の髪が落ちる。相変わらず無駄に綺麗だ。


「神託は、これもどうにかしろってことかもしれませんね」

「僕を護れと言われたの?」

「いえ。毎回最後まで全ての情報も正解もくれませんから。最初は目的地に派遣だけして無茶振りするのが神様です」


 ふふふ、と暗く笑うと剣呑だった王子の瞳が緩んだ。


「とりあえず、毒殺はどうにかできます。私のいない所で拾い食いは止めて下さい」

「いても拾い食いはしないよ? したことないよ?」

「でも、いずれ根本的に解決しないといけませんね」

「無視? 攻撃法が大人になったね?」

「で、イズン侯爵の愛人はどうしますか?」


 切り替えの早い王子はすぐに真面目な顔になり、諜報員から提出された資料を見せてくれた。

 やはり愛人はミリア。そして、ミリアの愛人として資料に記載されたのはイズン侯爵の他に五人。

 シラー伯爵。タイト子爵。人気俳優のパック。実業家のギャン。騎士ダイナ。


「騎士はまだ新人で平民だからコネが無い。軍人ではあるがあの額を動かせるとは思えない。

 俳優はミリアが手掛ける商品の広告塔だ。贅沢好きなようだが、やはり不自然だ。

 伯爵と子爵も巨額の資金で大胆な企みを、という輩かと言うと、直接会ったこともあるが小物だ」

「ギャンは国内外に趣きの異なる宿を五十ほど展開してますね。でもこれ以上増やしても供給過剰なので新規建設予定は無いはずです。既存の宿を整備するにもそんな大金要らないですよね」

「うん。リュカ、物知りだね。どうして?」

「安全対策です。お気になさらず」


 数分の沈黙の後、バードナー王子はテーブル越しに私の手を握った。


「明日、王宮の夜会に二人で出よう!」

「寝惚けてるならサッサとベッドに沈んで下さい」

「夜会にミリアも愛人たちも来る」

「なるほど。一人で情報集めて来て下さい」


 握られた手を容赦無く引き抜くと、瞳を陰らせたまま王子様スマイルを炸裂させる。ホラーだ。


「夜会は出逢いの場だよね。一人で出たら僕は息を吐くように女性を口説いて回るよね。もしかしたら我慢の限界で、口説き落とした女性を控室や夜の庭の暗がりに引き込むかも。色んな何かを撒き散らす夜になりそうだね。フフ」


 安定の脅迫である。

 夜会、色情霊がギュウギュウで鬱陶しいんだよな。ただでさえ色情霊の山を引き連れた王子がいるし。


 あれ?


 バードナー王子の色情霊が減ってる?


 何故?


「リュカ?」


 呆然と王子の周囲を見つめていたら、心配そうに顔を覗き込まれた。

 我に返って頭を振る。


「私も夜会に行きます」

「よかった。何かあるといけないから僕から離れないでね」

「いや、最初は王族席でしょ。無理です」

「大丈夫。聖女だしリュカだから」


 たしかに聖女は王族に臣下の態度は取らなくていいけど、悪目立ちするじゃないか。

 それにリュカだからって、どういう意味だ。王太子の説教係だからいいの?


 消えた色情霊を確認すると、王宮のメイド服を着ていた女性が全員消えていた。

 執務室に立入禁止にされたから?

 今日一日会えなかったくらいで、そんなに急に想いが消えるもの?

 今までだって、出張の公務もあるし、毎日会っていたわけじゃないだろうに。


 困惑しながら、私は大きなフカフカのソファで気持ちのいい毛布にくるまって熟睡した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ