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答え合わせ

「バード、ダイナを医務室に運んで介抱してくれる?」

「リュカは?」

「神様と話をつける」

「そっか。言い出したら聞かないよね」


 呆れたように笑われて、バードの温もりが離れる。


「絶対に、僕のところに戻って来てね」

「うん。私がそう望むから。絶対戻って来る」

「ん。行ってらっしゃい、リュカ」


 額にキスを落として見送られ、私は館の中の自分の部屋に入り鍵をかけた。


「さあ、話そうじゃないか。神様」


『怒らないでリュカ。パパって呼んで?』


「ふざけんなオッサン」


『パパって呼んでくれたら訊きたいこと全部話すのですが』


「クソ親父」


 喜びの徴なのか、光る花びらが天井から降りそそぐ。


『ようやく、貴女に父と名乗れて嬉しく思います』


「聖女は神の娘なの?」


『神の娘は貴女だけです。他の聖女たちは天使と人間の娘です』


 神の説明によれば、地上に魔力無き後、聖女は各国に必要な人数が常に存在するように、天使を選ばれた母体の許へ送って子を授けて来たらしい。

 身もフタもない言い方をすれば、コンスタントに天使が人間の女に種付して来たのが聖女の歴史だ。

 神が数や質を見て各国間のバランスを取っているから、聖女のいない国や足りない国は無い。

 もちろん、人間が聖女という神の慈悲を蹂躙すれば、その限りではない。


『他の聖女は、こんなに自由に神と対話出来ませんよ。他国の聖女と交流して気が付きませんでしたか?』


「単純な能力差だと思ってたし、そもそも聖女が人間と天使のハーフとか考えもしない」


『リュカの能力が突出しているのは神の娘だからですけどね。貴女に授けた記憶も神のものですし』


「は? じゃあ他の聖女は」


『戦争の歴史は覚えさせますが、あんな凄惨な記憶を見せたら半分人間の彼女たちは壊れます』


 このクソ親父。目の前に居たらぶん殴るのに。


『目の前に来ますか?!』


 ものすごく嬉しそうに言われて慌てて否定する。


「勝手に天界に連れてったら二度と口きかない!」


『年頃の娘が父親に冷たいというのは本当なのですね』


 しゅんとした声になる。

 気を取り直してビオラのことを訊いた。

 神が固有の名を呼ぶのは聖女か歴史を動かす者。歴史を動かす者が同時代に複数現れることはない。この時代にはバードがいるから、神が名を呼んだビオラは聖女だ。


『ビオラは、聖女にはなれませんでしたが、天使の娘です』


 神が語ったのは、人間の側からすれば胸糞悪くなるような話だった。


 ビオラは本当はハイラン公爵の妹の娘だった。

 病弱な妻は出産に耐えられず、公爵の実の子供と妻は死亡。

 その頃、嫁入り前にもかかわらず、父親の分からない子を身ごもった公爵の妹が幽閉されていた実家で娘を出産した。

 妹は産後の肥立ちが悪く時を置かずして亡くなり、公爵は妹の娘を妻が産んだ自分の娘として届け出た。この娘がビオラだ。


 ビオラの父親は高位の天使であり、聖女の父親として十分な力もあったが、当時ブリス皇国には聖女が足りていた。

 その天使は、神に背いて人間に娘を産ませたのだ。

 しかも、そこに愛情など存在せず、たまたま近くにいたから、神への反抗心を解消する犠牲になった。


 ビオラは声に魅了の力を持っていた。

 神が聖女と認めてないから、他の聖女が持つような力は持てなかった。

 力の制御を覚えることもなく、神の声も届かなかった。

 それでも半分は力の強い天使から性質を受け継いでいる。願い事が不自然なほど叶う日々を重ねる内に、内面はどんどん歪んでいった。


『バードナーがビオラに魅了されなかったのは、リュカへの想いがあの子の存在の全てだったからでしょう』


 ハイラン公爵は、若い時分から催眠術の研究はしていたが、他人を洗脳するような力は無かった。

 ビオラはバードに出会い、理想の王子様に口説かれて、彼がエイレインの王太子であることに気付き、一度絶望した。

 バードは王太子だから、運命の伴侶以外と結婚しないから。

 それなら、自分と結婚するために、王国は滅ぼしてバードを王太子じゃなくすればいい。

 ビオラは父親がエイレイン王国を手に入れてくれることを強く願った。

 果たして、ハイラン公爵は洗脳の力を手に入れ暗躍し、身の破滅を招いてしまう。


 この騒動は、バードがビオラを口説いたことから始まった。


 けど、バードが口説いたのは、私が求婚を拒絶したからで。


 あの頃、本当はもうバードは失恋する必要なんて無かったのに。


「やっぱり諸悪の根源は神だ」


『ビオラの父親も悪いですよ?』


「そいつは野放しなわけ?」


『さすがに牢に収監しました。今、出るために手続き中ですが』


「出すの?!」


『我々にとって、我が子は魂の一部なのです。それが天寿を全うする前に失われるのは、この上ない罰なのです』


 結局、神のせいじゃない?


「そいつ、出したらまた同じことしない?」


『我が子を失う経験は二度としたくないそうです』


「そもそも、なんで神に背いたんだ?」


 沈黙が降りた。

 まさか、それまで私が関係したりしてないだろうな。


「パパ?」


『ずるいですリュカ。はぁ。あのですね、怒らないで聞いてほしいのですが』


「とっとと吐け」


『うぅ。リュカが、まだ生まれる前に、ある天使に娘が生まれたら嫁にくれと言われまして、気軽に了承してしまいまして』


「その天使って?」


『ビオラの父親です』


 やっぱり私、関係あったよ!


『勝手に許嫁を決めたことで、貴女の母親に大層怒られまして』


「私の母親って誰?」


『誰って。普通に女神ですよ?』


「普通じゃない! え? 人間じゃないの?!」


『はい。リュカは人間の成分は一粒も入っていません』


 欠片どころか粒すら人間成分無いのか!


『激怒した彼女は、リュカを産むとすぐに聖女としてエイレインに降ろし、その天使をロリコンと罵倒して許嫁を解消させました』


 それを恨んで人間界にどえらい迷惑を。

 何やってんだ! 天界人!


「エイレインに降ろしたのは神々の庭があるから?」


『はい』


「うん。エイレインを選んでくれたのはママにお礼言っといて」


『ずるい。最初からママ呼び。お礼まで』


「最低なロリコン天使と結婚させようとした奴に感謝できない」


『うぅ』


「エイレインは庭も気に入ってるし、王族も私を大切にしてくれて居心地がいい。

 それに、私はバードと一緒にいると幸せだ」


 天井から、また光る花びらが舞う。

 自然に言葉と笑顔が出た。


「バードに全部話す。ずっと一緒にいたいし、好きになるのを我慢したくない」


『貴女の心のままに。神はいつでも貴女を祝福しています』

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