毒
翌朝、部屋で朝食をとった後、諸々の報告のため王と王妃に会いに行った。
「よかった! 本当によかった! リュカがバードナーの運命の伴侶で本当によかった! 神よ感謝いたします!!」
王妃が涙ぐみ天に祈りを捧げる。
「助かった。これでエイレインは滅亡の運命を回避できた」
王も眦を濡らし嘆息する。
二人の間で長男王太子はどういう認識なのだろう。
王と王妃の色情霊も互いにガッチリ握手を交わしている。色情霊ってそういうことするのか。初めて見た。
「解決すべき問題と、神様に少し訊きたいこともあるので、発表はしばらく待ってもらっていいですか?」
私が発言すると、バードの両親は首がもげそうなほど頷いた。
「条件なら何でも聞くから逃げないでくれ!!」
王が血走った目で縋りつく。だから、貴方の息子は何をやらかして来たんですか。
「話がまとまったところで、ブリス皇国宰相が起こしそうな問題に関しては僕が全権を持って全力で叩きつぶ、ンンっ、解決に当たるということでよろしいですね?」
まとまったのか分からないけど、バードが圧のある笑顔で王に穏やかでない要求をした。
王はゲッソリした顔で遠くを見ながら首肯する。
「喧嘩を売る相手を見誤るとは、皇国の宰相も大したことはなかったのだなぁ」
ブツブツ呟いていたが、王妃が背中を撫でて労っているので退出した。
「バード、何で王と王妃はあんなに怯えてたんだ?」
「多分、僕が神様のせいでリュカから引き離されたら何かすると思ってたんじゃない?」
笑ってるけど目が本気だ。何かの規模は聞かないでおく。そして、本当は四年前には伴侶だったのに神様の都合で黙ってたことも絶対言えない。
「で、これからどうするの?」
「まずは莫大な額の横領を目論んだイズン侯爵を引っ張るよ。不正書類の物証を持って泳がせてたけど叩いた方が早いし。協力的にたくさんお喋りしてもらう。その間にブリス皇国内の情報を集めさせる。国王の諜報部と権限も使えるから夜までには取れるかな」
すぐに現れた数名の諜報部員に細かく指示を出す。デキる王太子の顔をしながら。見慣れないのでムズムズする。バードが私の聖女スマイルを見ると変な顔になるのは、こういうことか。
「僕はこれからイズン侯爵に話を聞きに行くけど、それをリュカには見られたくない」
あー。拷問とかするのか。私は見ても平気だけど、バードは私には見られたくないんだな。
「私と離れてる間、飲食物を口にしないならいいよ。その間、王宮の敷地内をぶらぶらしてる」
「済んだら迎えに行く」
あからさまにホッとして、バードは足早に去って行った。
毒物混入は犯人も方法もまるで分かっていない。即死するものではなくとも、王族の中でバードの食事や飲み物にだけ、長期連続で混入。
「手間はかかるが、やるか」
私は必要な物を揃えに走った。
聖女の館で保護している二人に、薬や食料や着替えを渡し、ダイナの怪我の様子を診て、私は実験室として使っている部屋に入り鍵をかける。
台の上に、王太子執務室から持って来た茶葉と茶器と水差しを置いた。
出来ることは秘密だが、私は浄化も解毒も出来る。でも、聖女の能力で毒の種類は分からない。こればかりは知識と経験が必要だ。調べるには道具もいる。
注意深く検分すると、茶器と水差しには毒物は発見されなかった。水差しの中の水も異物無し。
茶葉に反応がある。五種類用意された物全てに同じ毒物反応があった。
仕入先も産地も違うし、これらの茶葉は他の王族や賓客にも供されている。やはり狙いはバードか。
だとしても。王太子だから狙われるのか、バード個人をどうこうしたいのか。
「なんだこれ」
予想外の結果に私は唸る。
茶葉の毒物反応は明確なのに、毒の種類が分からない。
そんなに珍しい毒?
世界中の毒物の知識は網羅しているはず。新しく危険な毒が開発されたら神託で注意が促されるし、そこまで珍妙な毒物を長期間毎日使い続ける資金力など個人が持てるものではない。
しかも毒物耐性があるとは言え、バードの話では食事はここ数年ずっと不味かったと。ということは数年間毎日盛られ続けて死なない毒?
目的は何だ?
反応的には体に害のあるもののはずなんだが。
「わからん。死なない毒だけど健康ではなくなり、だけど数年間摂取しても人並み以上に頭も体も動かせるし容貌も衰えない」
じわじわ殺すわけでもなく。犯人は何がしたいのか。嫌がらせにしては執念深過ぎるし、王太子相手に無謀だ。一度でも見つかれば一族郎党死刑だ。
いくら考えても答えが出ない。
他の王族には盛られている気配がなかったので、今朝の報告ではこの件は伏せていたが、今日一日の食事を検分して答えが出なければ、王にも協力を仰いだ方がいいかな。




