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指導からの神様の爆弾

 ユーリとダイナには館から出ないように言い含め、王太子の執務室で全速力で今日の執務を終わらせて、深夜ようやく私室に戻って諜報員から報告書を受け取った。

 当然私も行き先は同じだ。


 諜報員も退出し、二人きりになると、バードナー王子の顔が弱々しく翳る。

 諜報員、今度は他国の人物も調べられたんだな。


「王子。顔色が悪い」


 声をかけると報告書を差し出した。


「リュカは、彼女のこと知ってる?」

「ブリス皇国宰相ハイラン公爵の一人娘、ビオラ・ハイラン。直接会ったことは無い」


 似顔絵入りのギャンの愛人リスト。

 現在の愛人はミリアとビオラの二人。

 ビオラとの出逢いは、ギャンが仕事でブリス皇国ヘ行った時に宰相ハイランに歓待され、晩餐会に同席していたビオラに一目惚れしたらしい。

 情熱的に口説くギャンから最初は逃げていたビオラも、父親の勧めで商売の勉強のためにギャンと諸国を巡る内に深い仲になった、と。


 まぁよくある話だな。聞かされたら一応納得する内容だ。


「男爵令嬢のビビって名乗ってたんだ」

「いつどこで?」

「去年、ブリス皇国の都の図書館で」

「王子は変装は?」

「服装と口調を旅の商人風にして、適当な偽名を名乗った」

「そりゃ正体バレてたね。公爵で宰相の一人娘が近隣諸国の王太子の顔を知らない訳がない」


 どんどん暗くなる声と表情に淡々と応じていると、俯いた王子が拳をテーブルに叩きつけた。


「友達だと思ってたんだっ」


 色情霊にしといてよく言うわ。お前の友達の概念は肉欲込みだとよくわかったよ。


「で? お友達が絡んでると国の簒奪の可能性なんか考えられない? なら私は帰るけど?」


 おー、えらい殺意込めて睨まれた。ついでに報告書引ったくって私の隣に乱暴に座りやがった。

 ガシガシと金髪を掻き乱しながら不機嫌いっぱいの低音で考察結果を発表し始める。


「ミリアのダーリンはハイラン公爵。プレゼントされる国はエイレイン王国。イズン侯爵が横領しようとした莫大な金は戦争の資金。イズン侯爵がそれと知っていたかは微妙。

 ミリアは女王陛下になると言っていた。ならばプレゼントされるのは皇国ではなく王国だ。エイレイン国内にこれだけ仕掛けておいて、当事者以外の国の簒奪を目論むとも思えない。

 ハイランは、ギャンがビオラを見初めたことでエイレインに手を伸ばせると考えついたんだろう。ミリアは諸外国にも派手な交友関係が轟いている。ギャンとミリアを繋げてしまえば、そこから二人を経由してエイレインの要人を操れる。

 皇国の父娘にいい様に転がされたな」


 血走った目で喋り続ける王子から視線を外し、私は王子の右後ろの色情霊をずっと見ていた。

 ビオラの姿が、どんどん薄くなり、ズタズタに引き裂かれていく。


「ビオラの目的って、なんだろうなぁ」

「エイレインの王族の皆殺しと国の簒奪だろ!」


 バードナーが吐き捨てた時、ビオラの姿は爆発するように消え去った。

 同時に私は隣の男の胸ぐらを掴んで頬を張る。


「なんで?!」

「お前は友達だと思っていたんだろ!

 私はビオラと直接会ったことが無いんだ!

 直接会って友達になりたいと思って、敵かもしれない情報が出てきたらショック受けるくらいビオラとの思い出を大切にしてたんだろ?!

 お前はバカでヘタレなクソガキだったけど人を見る目は昔から最高にあったんだよ!

 これ以上私を幻滅させるな! アホバード!」


 胸ぐらを掴んだ手を離すついでにソファに放り投げてやると、顔を腫らした王子様が、心底嬉しそうに、とろりと笑った。

 何コイツ変態?


「やっとバードって呼んでくれた」


 ちょっと待て。

 何故これで王子の全色情霊が消え去った?


「呼んでないよ? アホバードだよ?」

「それでも、嬉しい。成人してから、ずっと避けられて、呼び方も口調もよそよそしくなって」


 ふわりと抱きしめられた。

 なんかマズイ気がする。

 多分マズイ。四年前、コイツが成人した日の夜を思い出す。


 あ、そうだ。


「神託受けるから一人になる。しばらく風呂場に籠もるから。ついでに入浴もするから絶対入って来んな」


 王子の色情霊が全部消えたってことは任務完了なはず。報告して次の指示を受けなきゃ。


「え? 待って。入浴中に神託受けるの?」

「うん」

「いや、待って。そんなの神様に丸見えだよ?!」

「神様からは風呂もトイレも着替えも何時でも丸見えだ」

「神様、羨ましい!」


 アホバードを置き去りに、広々とした浴室でたっぷりのお湯に、用意された薔薇の入浴剤を投入して浸かる。

 しかし二十歳の王子に薔薇の入浴剤。用意する方もする方だが、薔薇の香りを漂わせて仕事に向かう男もアレだな。


「神様ー。王子の色情霊いなくなりました。任務完了でいいですか?」


『そうですね。ひとまずは』


「じゃあ、これで王子は無事賢王になれますね」


『そうですね。運命の伴侶を手に入れられたら』


「あー。ですね。もう定まりました?」


『実は四年前には定まっていたのですが、こちらの都合で教えられなくて』


 おや? 何故か嫌な予感が。

 いや、まさか有り得ない。だって私は聖女だし。


『ちなみに、聖女が男を作ってはならないという決まりはありません』


「はぁっ?!」


『大分前に、大層男嫌いな聖女が居まして。生涯馬車馬のように任務を頑張る代わりに、一生結婚しなくてもよさげな感じにさせてくれと』


 うわぁ、聖女スマイルで嘘八百並べる姿が簡単に想像できる。


『一代限りの宣言だと思っていましたが、まだそんな話が伝わっているのですね』


「どうせだからこのまま後世に伝えましょう」


『ちなみに、リュカがバードナーの運命の伴侶という定めから逃げた場合ですが』


「うわぁサラッと言いやがった!」


『バードナーには二度と運命の伴侶は現れないので、いわゆる闇堕ちをします』


「私のせい?!」


『そしてリュカは聖女としてこのまま不老不死な体質が変わらず』


「ちょっと待て! 今とんでもないこと言いましたよね?!」


『気付きませんでしたか? 貴女は既に不老不死ですよ?』


「それ人間やめてますよね?!」


『まぁ、聖女ですから』


「聖女は人間ですよね?」


『まぁ、リュカですから』


「私限定?!」


『リュカほど便利、ンンっ、優秀な部下はいませんから。逃がしませ、ンンっ、是非とも長く働いてほしいのです』


「今むちゃくちゃ不穏な言葉が二つも聞こえた!」


『バードナーが大変そうなので、解決するまで次の任務は与えません。貴女は既に不老不死なので危ないことをしても大丈夫ですよ』


 いかん。薔薇の香りに噎せてきた。

 何ソレ。

 何だソレ。


 色々神様を問い質したいけど、今日はもう寝よう。

 うわぁああ。

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