シーズ治安強化計画
冒険者、それは冒険者稼業を生業とする者の総称である。
社会のルールに縛られることを嫌う彼らの多くは荒くれ者であり、それ故か自分よりも強い者にしか従わない。
「旦那、ギルドに着きやしたぜ!」
「旦那っ、扉はアッシが開けやす!」
「お、おう・・・」
前回シバいたゴリラ・・・もとい、アゴーとサゴーが俺の付き人よろしくの態度で俺に付き従ってくる。
リリアちゃんとシロは半裸のゴリラが苦手なのか、それとも関係者と思われたくないのか俺らから距離を開けて着いてきてる。これには、俺も苦笑いするしかない。
アゴーサゴーはゴリラじゃなくて、ちゃんとした冒険者だった。ちなみにこいつら本当に兄弟で、斧を背負ってる半裸のモヒカンが兄のアゴーで、大剣背負ってる半裸のモヒカンが弟のサゴーだ。
最早、武器で見分けるしか手段がない。ちなみにコイツら、貴族からの指名依頼でシロを狙ったらしい。
貴族から指名依頼って・・・って思ってたら。
「あ、俺らこう見えてA級っす」
「ここらじゃ、それなりに有名なんっすよ」
とのことだ。半裸ゴリラのくせに割と有名らしい。あ、そういえば俺って何級なんだろ・・・
「旦那、どうぞ入ってくだせぃ」
「ササッ、どうぞどうぞ!」
「お、おう・・・」
こいつら、シバいたその日からこんな感じだ。教えてもないのに俺のいる宿を探り当て、俺が宿から出てくるまで宿の外で待ちかまえ。俺が宿に戻るまでずっとこんな感じでついてくる。
・・・さすがにこれは予想外だったわ。
俺は、アゴーサゴーに促されるがままにギルドの中へ入る。
「お頭だ!お頭が来たぞ!」
「何っ!ほんとだ、お頭だ!お前ら、お頭が来たぞ!」
「うおおお、お頭ぁー!」
「お頭!御無沙汰してます!」
酒場で飲んだくれてる荒くれ者どもが、俺を見るや否や騒ぎ出す。あっ、マチルダさんの表情がめっちゃ引き攣ってる。違うんです。これには理由があるんです。お願い!目を逸らさないで!
「黙れ」
「「「・・・」」」
俺の一言に、ピタっと静かになる荒くれ者ども。
「少し、静かに飲んでろ」
「「「へいっ!お頭っ!!」」」
そして、さっきまで騒いでたのが嘘みたいにお行儀良く飲み始める荒くれ者ども。うん。素直だね。
「・・・まるで盗賊団の頭目みたいだねぇ」
「違うんです。これには理由があるんです」
ははは、マチルダさんがますます引いてる。目も合わせてくれないや・・・グスン。
「理由って・・・何をどうしたら、アイツらをこんなに完璧に統率できるんだい?アイツらはあれでも、ここらでは札付きのアウトローで有名な冒険者たちなのよ?」
「そこらへんも踏まえて説明するよ」
「ええ、お願いするよ」
あ、やっと目を合わせてくれた。でも、ちょっと挙動が不審だ。クソっ、あいつらのせいで俺まで怖がられている。これは弁明せねば。
「アゴーとサゴーがシロを狙って襲い掛かってきたのは知ってる?」
「それは初耳だね・・・それで?」
「とりあえず、ぶっ飛ばしました」
「はいっ?」
「「えへへ」」
マチルダさんは、信じられないといった表情で俺を見つめる。そうだよね。パッとみ細身の俺が、筋肉ゴリラ二体に勝ったなんて信じられないよね。
というか、俺の後ろで照れた表情を浮かべるゴリラ二体が超絶気持ち悪いんだが。なぜ照れる?
「手も足も出なかったな。兄者」
「おうよ!格の違いを叩きこまれたぜ」
「・・・どうやら、本当のようね。A級を・・・しかも二人がかりで手も足も出ないって・・・」
一応信じてもらえたようだけど、余計に怯えられてる気がする。どこかよそよそしい・・・いつもの姉御肌のマチルダさんに戻ってほしい。
「まぁ、その結果がコレですよ。アゴーとサゴーは俺の舎弟みたいな形で落ち着きました」
「・・・そのようだね」
「「旦那、一生着いていきやすぜ!」」
・・・一生は嫌だなぁ。
「それでですね。一応このゴリ・・・アゴーとサゴーは、ギルドじゃ実力者として一目置かれてるらしくて」
「そうだね。アゴーとサゴーは、このギルドの代表格みたいなもんだね」
「その代表格が俺みたいな若造の舎弟にって・・・周囲の冒険者はどう思う?」
「・・・そりゃぁ、良い気はしないだろうね」
「うん。そこの酒場でたむろってる奴らに囲まれたよね」
「えぇっ!?」
「「「えへへ」」」
・・・だから、何でお前らが照れる。
「あんた、まさか・・・」
「えぇ、襲ってきたやつ全員ぶっ飛ばしました。一人で」
「え?あ、え?一人で?」
マチルダさんは、理解が追いついていないみたいだ。そうだよね。パッと見、俺って強そうじゃないし。
「そして、自主的に謝るまでシバき倒した結果がアレです」
俺は、酒場を指さす。マチルダさんもそれにつられて酒場の方を見る。
「「「・・・えへへ」」」
マチルダさんの視界の先には、照れくさそうにしてるむさ苦しい荒くれ者ども。・・・おっさんが照れくさそうにヘヘッて仕草しても、気持ち悪いだけだからいい加減にやめてほしい。
「まさか、あそこにいる人たち全員倒したのかい・・・?」
「えぇ、まぁ」
マチルダさんは、信じられないような顔で俺を見る。
俺も信じられないよ。だって、あいつらシバけばシバくほど俺に懐くんだもん。ドMかな?
「いやー、お頭のワンパン半端ねぇっすよ。一撃で格の違いを思い知ったっす!」
「ふっ、俺は三発まで粘ったぜ」
「おお、お前すげーな。俺は二発で限界だったぜ」
得意気に何発耐えれた耐えれなかったっていう自慢大会を始める野郎ども。なんでそんな嬉しそうなの?えっ、マジでドMなのか?・・・うん、考えるのは辞めよう。気持ち悪くなってきた。
「・・・信じられない」
「あはは、まぁそうだよね」
依頼主を聞きたいけど、グッと我慢するマチルダさん。
そりゃそうだよね。今まで手を焼いてたアウトローどもが、ほんの数日で不本意だが俺の舎弟と化したんだからね。
「あ、とりあえず俺がこの街にいる間は、こいつらは静かにさせとくんで」
「えっ?あ、はい。お、お願い・・・します」
とりあえず、マチルダさんが快適に仕事出来るように気を使ってみた。はは、とうとう敬語になっちゃったよ。あの姉御肌のマチルダさんは、もう見れそうにないなぁ。
「・・・シーナさん。その言い方だと本当に盗賊団の頭目みたいです」
「ワゥン」
遠巻きに見ているリリアちゃんの一言が、俺の胸にクリティカルヒットする。
・・・不本意です。
・・・
・・・
・・・
「頭、屋台市巡回いってきやす!」
「おう、気を付けてな」
「頭、骨董市。ケンカ仲裁一件にスリ三件発生。対処しやした」
「ご苦労。引き続き頑張れ」
「へいっ!」
数日後、シーズの治安を守るべく俺は奔走していた。え?なんでこんなことしてるのかって?
ははは。この筋肉バカどもが内外構わず俺を頭目呼びするから、住民の俺のイメージは最悪なんだよ。もうね。荒くれ者どもの親玉みたいな感じで怖がられてるのよ。
分かるか?子供が俺に軽くぶつかっただけで、親御さんから どうか娘の命だけはっ! って土下座される俺の気持ちが分かるか?
そこで考えたのが、題してシーズ治安強化作戦だ。
シーズは元々治安が悪いが、闇市のシーズンは特に悪いらしい。闇市に出品する為に窃盗まがいの犯罪が増え、闇市のどさくさに紛れて暴行・強奪などの犯罪行為が横行するのだそうだ。
そういった犯罪の大半は貴族や闇勢力が絡んでいる為、住民たちは下手に手を出せないらしい。つまるところの泣き寝入り状態だ。
そりゃ、そうだよね。自分の街で、好き勝手に犯罪行為されたらたまったもんじゃないわな。そんな中、街の治安を正そうとする集団が現れたらどうなると思う?
「旦那、居住区の巡回終わりやした!」
「怪しいやつは追っ払って、空き巣は捕まえておきやしたぜ!」
「良くやった。よし、引き続き巡回頼む」
「「へいっ!」」
そう、俺ら冒険者だ。幸いなことにアイツらは依頼で犯罪まがいなことはしても、それ以外では犯罪行為は一切していなかった。つまり、まだチャンスがあるってことだ。
まず俺は街中の巡回を行うことから始めた。悪い奴らを取り締まることで、俺らの悪いイメージを払拭させるためだ。
「お頭さん、みなさん。いつもお疲れさん!これは差し入れだよ。食べておくれ」
「あぁ、おばちゃん。いつもすいません」
「これくらい良いってことよ。ささ、冷めない内に食べて食べて」
「ありがとうございます。・・・野郎ども、休憩だっ!おばちゃんにお礼言えよっ!」
「「「あざーっす!!」」」
結果的に、この作戦は大成功と言ってもいいだろう。おかげでシーズの犯罪は激減した。
見た目はいかついが、冒険者が街の治安の為に巡回してるんだ。住民からしたら、これほど心強いことはないと思う。今ではすっかり住民から受け入れられ、こうして色んな人が差し入れに来てくれる。
「お頭さんっ、うちのイカ焼きどうだい?」
「お、美味そうじゃん。一本いくら?」
「そんなお代はもらえないよ。お頭さんにはいつも助けてもらってるからね」
「いやいや、商売だしそういうわけには行かないよ。払うよ」
「・・・お頭さん」
しかし、困ったこともある。俺のお頭呼びが定着してしまったことだ。解せぬ。
うーむ。悪いイメージを払拭できただけでも良しとすべきなのか。・・・あ、イカ焼きおいしい。
あ、ちなみにリリアちゃんとシロとは別行動を取ってます。冒険者(俺の舎弟)が、貴族の犯罪まがいな依頼を受けなくなったからね。もう襲われる心配はないし、買い物とか色々と観光を楽しんでもらっている。
「「あっ、いたいた。おーい、旦那ー!」」
イカ焼きを頬張っていると、アゴーとサゴーが嬉しそうに駆け寄ってくる。アイツら、さっき巡回に行ったばっかりじゃなかったっけ。
犬だと尻尾ブンブン振ってるレベルの笑顔で駆け寄ってくる・・・ムキムキのおっさんに、そんなことされても嬉しくない。現実って残酷だね。
「ちょうど良いとこにきたな。おばちゃんから差し入れ来てるから食べな」
「ありがとうございやすっ!」
「ちょうど小腹が空いてたんでさぁ」
「後でお礼いっとけよ」
「「へいっ!」」
本当元気良いよなコイツら。街の巡回も最初は渋々といった感じだったけど、今は自分から率先してやってるし。それとなく何でそんなにやる気出たの?って聞いたら、何でも住民から声をかけられたり、感謝の言葉を言われるのが嬉しいらしい。・・・お前らチョロいな。
まー、でもその気持ちはわからんでもない。俺も日本では数年引きこもってたから、正直に言うと他人と話すのは楽しい。・・・俺もチョロいな。
「それで、どうしたんだ?俺に用があったんだろ」
「へいっ、シーズの領主が旦那に会いたいそうですぜ」
「旦那、領主の目にとまるってすごいっすね!」
「は?領主が・・・なんで?」
・・・何で?領主が何で俺に会いたいの?俺なんかやらかしたっけな・・・
「そりゃあ、旦那はもうシーズ一の実力者でさぁ。旦那と繋がりを持ちたいんじゃないですかい?」
「領主から会いたがるなんてS級冒険者くらいですぜ。旦那っ!」
アゴーとサゴーの興奮具合が半端ない。どうやら破格の待遇らしいことはわかった。でも、ここの貴族たちって犯罪まがいの指名依頼出すやつらだろ。その親元の領主とか・・・会いたくない。面倒事の匂いしかしない。断るか。
「うーん、話はありがた・・・」
「自分らの頭が有名になって、俺ら感無量です!」
「俺ら、一生旦那に着いていきやす!」
うっ、まるで自分のことのように喜んでやがる。ここで行かないって言ったら、コイツら目に見えて落ち込みそうだ。い、いや。俺は行かん。行かんぞ!
「俺ら旦那には感謝してるでさぁ。日陰者だった俺たちを日の目を浴びさせてくれたし」
「他の舎弟たちも同じ気持ちですぜ。だから、俺ら嬉しいっす。旦那が領主からも一目置かれる存在だってことが」
「行くよ!行けばいいんだろ!?案内してくれ」
「「へいっ!旦那っ!!」」
「・・・はぁ」
ダメだ・・・コイツらにすっかり情が移ってるわ。コイツらの期待を裏切れないって思ってる俺がいる。俺は、諦めて領主の屋敷に行くことにした。
評価・感想いただけると泣いて喜びます笑




