ご都合魔法と海とバーベキュー
「あ、あそこに生えてる草は解毒作用があるんですよ」
「へー、そうなんだ。結構詳しいんだね」
「冒険者になる前は、実家の診療所でお手伝いか本ばっかり読んでましたから」
「そっか。その知識が役立ってると」
「はい!すごく楽しいです」
「・・・そっか」
現在、俺ら二人と一匹は湾岸都市シーズを目指して旅をしている。ちなみにバランを出て三日目だ。
俺は歩きで、シロはリリアちゃんを背に乗せてのんびり街道を進んでる。
リリアちゃん、意外と博識で何気にめちゃくちゃ役に立ってるよ。連れてきて良かったわ。
でも、バランを出るときは大変だったよ・・・なんとリリアちゃん、親を見事に説得しちゃった。流石に親御さんに一言もなしに女の子を連れて旅に出るのは気が引けたから、一応挨拶に行ったよ。あわよくば、考え直してほしかったってのもある。
だって、年頃の娘が見ず知らずの男と二人旅だよ?俺が親だったらソイツを消すね。そして、いざリリアちゃんのご両親に挨拶すると「リリアを末永くよろしくお願いします」とまさかの返事を頂いてしまった。頬を赤く染めてクネクネしてるリリアちゃんを他所に、ご両親と色々お話をしてみると、どうやらアルス君のことを大分好ましく思ってなかったみたいだ。
彼らの中で、あのアルスよりかはまだ常識的な俺に任せた方が安心じゃないか・・・ってことになったらしい。アルス君どんだけ嫌われとんねん。え?考えなしの熱血正義バカ?・・・否定できない。
そして、俺がリリアちゃんを連れて旅に出ることは瞬く間に町中に広まったよね。そう、冒険者ギルド内にもね。特に冒険者たちの衝撃が凄かったよ。あ、俺じゃなくてリリアちゃんのほうね。
「いやー、でもバラン出るときは大変だったなぁ」
「あうぅ、その節はご迷惑をかけてしまってごめんなさい・・・」
「いやいや、リリアちゃんが謝ることじゃないよ。悪いのはあのバカたちだよ」
考えてみ?ギルドの癒しであるリリアちゃんが、ギルド一の嫌われ者の俺と一緒に旅に出るんだよ?
いやー、凄かったね。襲撃が!時間も場所も問わずに、嫉妬という炎に焼かれた冒険者たちが襲い掛かってくること襲い掛かってくること。
正々堂々と正面から来たやつは、ぶっ飛ばすだけで勘弁して上げた。でも、寝込みや奇襲をかけてきたやつは、容赦なくボコった後に衛兵さんに突き出してやったね。
ギルマスが温情を求めて薄い頭を下げてきたけど、撤回はしなかった。俺も流石にそこまでは優しくないよ?
まぁ、ギルマスと冒険者たちはどうでも良いとして。「リリアさんとお幸せに・・・」って泣きながら走り去るマイカちゃんには、色々と衝撃を受けたな。いや、あなた・・・受付の仕事・・・
何にせよ、バランを出るまでの数日間。とっても忙しかった。
「シーナさん。もうそろそろ日が暮れますけど、ここで野営しますか?」
「お、もうそんな時間か。なら、そうしようか【安全地帯】」
俺のご魔法によって、街道脇に立派な一軒家が出現する。いつでもどこでも呼び出せるて、家の中に食糧や物を備蓄できて、オマケに敵は一切侵入できないTHEご都合魔法である。
「わかりました!じゃあ、私は料理の準備をしますね」
「いつもありがとな。シロも今晩のおかずを獲ってきてくれるか?」
「ウォンッ!」
俺の一言を皮切りに、リリアちゃんは料理の準備をするべく安全地帯の中へ、シロは今晩のおかずになる獲物を捕りに狩りに出る。
リリアちゃんも慣れたもんだなぁ。初日に安全地帯の魔法を見た時は、すごく驚いてたけど。今じゃ、当たり前のように活用してらっしゃる。うん。可愛いし料理も出来て回復魔法も使えて肝も据わってる・・・将来有望ですわ。
・・・うーん、俺ヒマだな。
ヒマだし、ブレイバーについて触れたほうがいいかな?リリアちゃんがいなくなってブレイバーは・・・解散した。うん。
だって・・・ねぇ?ブレイバーからリリアちゃんがいなくなったらさ。考えなしに動くバカと、自分の腕を過信しまくってるツルペタエルフしか残らないんだよ?アイツが今までやっていけたのは、リリアちゃんの回復魔法ありきだったんだよなぁ。
当然、ブレイバーから俺に対して抗議があったよ。特に弓の方の女の子、名前は・・・なんだったけな?もう、クソ弓女でいいや。クソ弓女の方は、もうすごい剣幕で罵詈雑言を吐いてたよ。主に俺に。
すったもんだの末に、クソ弓女は激怒したまま故郷に帰っていった。クソ弓女の方は、最初から最後まで・・・アレだったなぁ。アルス君は、しばらくソロで活動するみたい。
そんなこんなで、ブレイバーは晴れて解散。リリアちゃんは今こうして俺と一緒に旅をしてるってわけだ。
「シーナさ~ん、薪に火を着けてもらっても良いですか?」
「あいよー」
おっと、俺の出番のようだ。そろそろ、俺も手伝ってご飯の準備でも進めるかね。
「ふう、美味い」
「ワウワウッ!」
「うふふ、お粗末様です」
安全地帯の中で、俺・シロ・リリアちゃんの三人で夕食を食べる。いやー、金髪碧眼の美少女が作る料理ってだけで希少価値が高いのに・・・美味いときたもんだ。
「リリアちゃんは、良いお嫁さんになるね~」
「えっ!?そ、そうですか・・・?」
「うんうん。俺が保証するよ」
「え、えへへ・・・」
顔を真っ赤にしながらも、モジモジと笑顔で俺を見詰めてくるリリアちゃん。何だこの子は?天使か何かか?何はともあれ、この子の旦那さんになる男は幸せ者だろうねぇ。
「そういえば、食材は足りてる?シーズまで保たないなら、色々と現地調達しないといけなくなるけど・・・」
「あっ、はい。水はシーナさんが魔法で出してくださいますし、お肉はシロちゃんが捕ってきてくれるし問題はありません。備蓄してある食材も、まだまだいっぱいありますから今の所は大丈夫です」
「つまり、順調ってことか。良かった良かった」
いいねぇ、出だしは好調ってとこかな。今のとこ、魔物にも盗賊にも出くわしてないし安全快適な旅が出来てる。親御さんにリリアちゃんを任された俺としては、充分にやれてるんじゃないか?
「でもこんなに安全で快適に旅が出来てるのって、この魔法のお家の存在が大きいですよね」
「まぁ、それもそうなんだけどね」
「私、野宿を覚悟してました・・・」
リリアちゃんが、そういうのも仕方ない。どうやら、この世界の人たちって【安全地帯】が使えないみたいなんだよね。
なので、持っていける物資も食糧も限られてくる。それは必然と、野宿と味を度外視した食事になってくる。俺はそんなの嫌だから、安全地帯使いまくるけどね。
「はぁぁ・・・幸せです。実家より居心地良いです」
「そりゃ、良かった」
「はい!いっそのこと住みたいくらいです!」
すっかり安全地帯の虜である。まー、確かに安全地帯に設置されてるベッドって日本基準の代物だからなぁ・・・宿屋の煎餅布団に比べたら雲泥の差だわな。
俺は、硬い布団のほうが個人的に好きだけどね。
・・・
「シーナさん!海が見えますよ、海!」
「おー、本当だ」
「私、初めてみました!・・・本で見た通り水がいっぱい」
バランを出発して、一週間くらい。やっと海に着いたよ。後は、海に沿って進んで行けば湾岸都市シーズに着くはずだ。この一週間、ひたすら街道を歩いてただけだったからこの景色の変化は嬉しい。
「わぁぁ・・・すごいなぁ」
初めて海を見るリリアちゃんのテンションが爆上りだ。そうだよね。俺も小さい頃、初めて海を見た時は感動したもんな。シロは、潮風の匂いを不思議そうにクンクン嗅いでる。
「良し、ここで休憩するか」
「えっ?本当ですか!?」
「うん、ついでに海を近くでみておいで。シロ、リリアちゃんの護衛頼んだぞ」
「ありがとうございます!シロちゃん、いこっ」
「ワォーン!」
犬・・・じゃなくて狼に跨って海にかける美少女。うーん、絵にはならないかな。
まっ、本人が楽しければ良いんだよ。こういうのは。
「さて、俺は昼食の準備でもしようかね。【安全地帯】」
俺は、安全地帯からバーベキューセットを取り出し準備を進める。え、何をしてるのかって?バーベキューに決まってんじゃん。
せっかくの海だし、どうせなら景色を眺めながらご飯を食べるのも楽しいだろう。買ってて良かったバーベキューセット。料理の腕は流石にリリアちゃんには負けるけど、コレなら俺でも出来る。何たって野菜と肉を切り分けるだけだしな。
「おー、あれは絵になるな」
浜辺を嬉しそうに駆ける美少女と犬・・・じゃない狼か。何か絵本にでも載ってそうな光景だ。しかし、思った以上にハシャいでらっしゃる。こりゃ、ここで一泊かな?別に旅路急いでるわけじゃないから良いけど。楽しければ良いんだよ。こういうのは。(二回目)
「しかし、俺がバーベキューなんてやるとはねぇ。日本じゃ考えられないな」
リリアちゃんの様子を伺いつつ、バーベキューセットを組み立てた俺は、次は串焼きの準備に取り掛かる。具は・・・肉・ネギ・肉・ネギだけでいっか。ネギマ美味しいしな。
そういえば、シロにネギ食べさせても大丈夫なのかな?・・・今更か。バランで散々俺と同じ物食べてたしな。そもそも、犬じゃないし狼型の魔物だしな。
「きゃあああ」
「グルルルゥ!」
「ん?魔物でも出たかな?」
黙々とネギマを量産してたら、浜辺の方からリリアちゃんの悲鳴が聞こえてきた。ヤバそうだったらシロが俺の元まで非難してくるだろうけど、一応様子でも見にいくかね。
「シ、シーナさ~ん」
「Oh・・・」
これはひどい。
俺の予想した通り、リリアちゃんとシロは魔物に囲まれてた。魚系の魔物数匹に。
大事なことだから、もう一度言おう。これはひどい。
一メートル級の魚・・・厳密に言うと鯛・鮪・鯖・鰹の体に人間の手足が生えてる。美味そうなラインナップだな!こんちくしょう!でも、手足が生えてるせいで絶妙に気持ち悪いよ!
リリアちゃんも、恐怖で怯えてるっていうか気持ち悪くて怯えてるっぽい。シロもあまり触れたくないのか、威嚇だけに留めてる。
もうね、なんていうか・・・これはひどい意外の言葉がでないよ。
「シ、シーナさん・・・」
あ、リリアちゃんの眼に涙が・・・はぁ、やるしかないか。俺もあまり触りたくないんだけど。てか、こいつらもっと沖の方に出る魔物のはずなんだが、出たもんは仕方ないか。
「・・・まさか、竜撃槍の初戦闘がアレになるとは・・・」
誠に遺憾だが、俺は槍を魚人相手に構える。多分、ドワーフのおっちゃんにこのことが知れたらキレられるな。
「ギョギョ!」
「ギョッギョッギョ!」
「魚だからギョッてか。やかましいわっ!」
「ギョオオオッ!?」
俺は半ばキレ気味に、横薙ぎに槍を振るう。鯛と鮪の魚人は、成す術もなく魚肉を散らし倒れる。
「ギョギョッ!」
「ギョ・・・ウォッウォッ!」
「魚だからウオってか。やかましいわっ!」
「ウオォォォッ!?」
バリエーションを変えてきた鯖に対し、俺は槍を振り下ろす。やはり成す術もなく鯖はその魚肉を散らし倒れる。
「次はお前だ・・・お前はどうするんだ・・・」
「ギョギョッ!?」
「・・・」
「ギョ・・・ウオ・・・」
俺は黙って鰹を見る。ギョもウオも、もう出た。さあ、お前はどうする?
「ギョギョ・・・」
「・・・」
「ギョッ!ギョッ!」
「・・・?」
鰹の魚人は、なぜか自分の体を叩き始めた。何してんだコイツ?自分を叩く・・・鰹を叩く・・・アッ!
「鰹のタタキってかー!」
「ギョギョウオッ!?」
俺は槍をツッコミ代わりに突き出し、鰹を串刺しにする。ちょっと面白かったから、槍本来の戦い方で止めを刺してやる。これは温情である。
実はこの竜撃槍、竜の体を突き刺すことにのみ全てを注いでおり刃がついてない。よって、攻撃手段が突くか殴打するしかない。まぁ、この質量の鉄の塊で殴打されるだけでも充分な破壊力なんだけどね。
「リリアちゃん、大丈夫だったかい?」
「は、はい。・・・海にはこんなおぞましい魔物がいるんですね」
「いや、今回はたまたまだよ。コイツらは、本来もっと沖の方にいるはずなんだ」
「そ、そうなんですね。よかった・・・」
心の底から安堵するリリアちゃん。どうやら、本気で気持ち悪かったみたいだ。うん、俺も気持ち悪かったわ。
俺は、無惨にも砂浜に横たわっている魚人たちを眺める。・・・コイツら、気持ち悪いけど体は高級魚なんだよな。
「・・・意外と美味いのか?」
「「えっ(ワウッ)!?」」
何言ってんだコイツと言わんばかりの目で俺を見るリリアちゃんとシロ。いや、わかるよ?わかるけど、コイツら体は高級魚なんだもん。ワンチャン美味いかもしれないじゃん。
「・・・ダメです」
「えっ?いや、でも・・・」
「ダメです」
「・・・」
「ダメです」
「・・・ハイ」
おっと、リリアちゃん断固拒否の姿勢だー!うん。俺もそこまで拒否されてまで試そうとも思わないし、素直に諦めることにした。
本物の鯛・鮪・鯖・鰹は、シーズに着いての楽しみにとっとこう。うん。今ここで魚もどきで食欲を満たすよりかは、本物の魚食べたほうがいいよね。
「まぁ、気を取り直して海を眺めながら串焼きでも食べようか」
「はい!私もお手伝いしますね!」
「ワウワウッ!」
この後、三人でめちゃくちゃバーベキューした。




