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08.ヴィンスリ―家で晩餐を① [改]

 Q.ナサニエル様って何者?


 A.先々代国王の弟君で、アストラス神教の大神官にして本殿の神殿長です。


 訊いてびっくり!

 なんでそんな偉い人が、底辺男爵家の洗礼式に祝福を与えてくれるの?

 大抵は先にいた若い神官が執り行うそうですよ?


 しかしまぁ、馬車の中の空気は重い。

 ちらりと、向かいに座っている伯父さまの様子を覗う。渋面って字面のごとくのお顔ですね。

 伯父さまの隣の父さまの顔色も悪い。

 母さまもかな? と思ってわたしの肩を抱いている母を見上げると、困ったような笑みを返された。


「アリスは魔導師になりたい?」


 ぱちくりと瞬きして、母さまをじっとみつめる。

 きっと神殿長様に「魔導師を目指してほしい」って言われたから、そのまま意向に添おうとするんじゃないかと心配してるんだろう。

 だからわたしはきっぱり宣言した。


「うん、上級魔導師になりたいの」


 魔法が使えるって知ってわくわくして、使い倒してみたいという野望があるのだ。ふふふ。

 でも魔導師になって、どんな仕事をしたいかまでは決まってない。というか、どんな仕事が出来るのかわかってないです。

 市井での仕事か、国の機関:魔導師団に入団しても色んな部署があるしね。

 つい、誤魔化してにぱっと笑ったわ。

 母さまはちょっとほっとしたようで、わたしの頭をなでる。


「まぁ、目標はそれとして。今後他になりたいものが出来るかもしれないんだから、こうだと決めてかからなくてもいいんだよ」


 父さまの気遣いの言葉に、隣の伯父さまは眉間のシワもくっきりと、視線だけ弟に向けている。

 もう、すっごく機嫌悪いなぁ。

 あれか? 政略的な婚姻の駒にしずらくなったとか考えてる?

 でも魔法の勉強をし始めてから、わたしの目標は元々魔導師だよ。

 魔導具師もステキだと思ってはいるんだけど……


「ううん、魔導師目指して、ダメだったら父さまみたいに魔導具師になりたいわ」


「……魔導具師ね……うーん、そうだねぇ」


 父さまが眉尻下げた微妙な笑顔で言葉を濁すのも仕方ないかな。

 わたし、細かい作業が苦手でして。

 グラス一杯の水を魔法で注ぐところを、バケツ一杯分の水を呼び出してしまうくらい向いてない。

 自分、不器用ですから。


「アリスに魔導具師は無理だ。魔導師を目指せ」


 伯父さまがぶっきらぼうに断言してくれた。

 その通りとは思ってても、人から言われるとムッとしちゃうわ。

 ちょっと伯父さまを見る目つきが悪くなる。


「それよりも、口裏を合わせておくべきだ」


「……そうですね」


「アリスの属性は、カイエン魔導師が指導していた『風』『水』『土』の三属性で魔力量は中程度、でいいか」


「『水』属性も入れますか」


「三属性の授業をしている報告を受けているからな。それを通した方が無難だろう?」


「そう、ですね。アイリス、アリス、それでいいかい?」


 伯父さまの方針に父さまが同意を示し、こちらには確認するだけなんで、うんという他ないでしょうが。



 魔力属性は、水・風・火・土が四大属性で、そこから枝分かれし細々な下位互換属性があるという。

 四大属性持ちが現実的に最高ランクで、希少種の光・闇属性持ちはめったに現れないらしい。


 わたしがうっかり引き当てた光属性は、攻撃・防御・回復魔法を扱える。

 神様の祝福を受けたことで、もしかしたらっていう可能性が出てきた『聖女』として認定を受けるには、金の瞳、金色の魔力を扱う聖属性であることが必須。


 金色の魔力? そんなキラキラしたもの出した覚えないけどなぁ。

 聖女である可能性は全力で拒否したい! 面倒なことになる気しかしないもん。


 あ、闇属性持ちはね、治癒魔法が強力なんだって。

 重病者でも治癒してヒーリングとか出来るらしい。

 あと、精神に作用する魔法とか。

 何それちょっとコワイんですけど。


 そうこうしているうちに、馬車はヴィンスリー男爵家に到着した。




 ◆◇◆




「まぁまぁまぁ! ハリス、お帰りなさい!」


 とてもハイテンションな初老のマダムが、父さまを満面の笑顔で出迎えた。

 誰って聞かなくても分かるわー。ヴィンスリー男爵夫人だよねー。


 今まで伯父さましか接触なかったし、話しぶりからして父さまとヴィンスリー家は疎遠なんだと思ってたのに、なに、この歓迎ぶり。

 馬車が屋敷に到着した時、すでに玄関で待ち構えてたのよ。どんだけ楽しみにしてたの?

 でもね、()()()()()を歓迎して、腕を取ってウキウキと家の中に連れて行っちゃった。

 わたしと母さまはお呼びじゃないって、実に分かりやすい態度を取られました。

 父さまはわたしたちのことを気にして振り返ってはいたけどね。


「…………」


「アリス、何を言われても短気を起こすなよ。全部笑って聞き流せ」


 冷めた目で言って聞かせる伯父さまを見上げ、唖然から憮然とした顔に変えた。

 七歳の子供にそんな腹芸を求めないでよ。とはいえ、わたし中身三十歳ですけどね。


 わたしの手を握っていた母さまの手にきゅっと力が入る。

 これからの事を不安に思ってるだろうな。男爵夫人(アレ)と闘うのかぁ。

 わたしは母さまに向けてにっこり笑って見せた。


「笑顔でお茶してお食事して、父さまと一緒に帰りましょう」


 ()()()()()()から王子を救い出さなければね。


 そんな決意を汲んでくれたものかどうか、伯父さまの手がぽんぽんとわたしの頭を軽くたたいた。




 ◆◇◆




「ご無沙汰しておりました。お義父さま、お義母さま」


 貴婦人の礼、カーテシーをした母さまに対しては無言。


「おじい様、おばあ様、初めまして、アリスです」


 わたしの可憐な挨拶に対しては、ばばぁ……おっと、おばあ様が口火を切った。


「まぁ、アイリスさんにそっくりだこと」


 緑の瞳と、淡い茶髪にちらほら白いものが混じる。体系はちょっとふっくらしたヴィンスリー男爵夫人ジゼルは、手に持つ扇で口元を隠してそうのたまったけど、目が笑ってない。

 でもわたしは、にっこりと微笑み返してあげたわ。


 対して、厳めしい顔のままのおじい様、ヴィンスリー男爵ハイドは、「よく来た」と一言だけ。

 おじい様はカフェオレ色にミルクの筋が入ったような髪色で、碧眼。

 この碧眼は代々受け継がれている瞳の色のようです。

 整った顔立ちだけど貴族の実業家っていうより、なんか【武士】っていう雰囲気で、肩幅が広くがっちり体系。


 あとで聞いた話、おじい様は貴族対応がメインで、商人ギルドでの打ち合わせもそこそこで、ましてや店頭に立つことは一切ないそうです。

 この顔で接客は無理だわ。

 ギルド対応や商会の采配は、ほぼ伯父さまがしているみたい。


 白々しい雰囲気の中、案内された居間で、お茶とお菓子が振舞われたけど食べる気しないわー。

 それでも微笑みながらお茶を飲む母さま。この対応に、哀しいけど慣れてるのね。


 それにしてもおばあ様が父さまを離さないんですけど!

 ちょっと怖いなぁ、この偏愛傾向。

 伯父さまがわたしの洗礼式の様子を話していても聞いちゃいねぇ。


「ハリス、少し痩せたのではなくて? ちゃんとしたご飯は食べているの? あらあら、髪の艶がなくなっているわ。青白い顔をして」


 ハリツヤがないのは、魔導具作りに熱中して不摂生な生活を送っているからだよ。

 没頭していると、声を掛けても聞こえてないみたいで、最終的にエイダさんが力づくで作業を終了させるんだよ。

 そして青白い顔をしているのは、さっきの洗礼式の件が尾を引いているからだよ。たぶん。


 ば……おばあ様に頬をすりすりと撫でられて、困った笑顔で応対している父さま。

 言葉は母親として当たり前に息子を心配してる内容。

 ただねぇ、その途中で意味ありげにちらちらと母さまに視線を向けてくるんだから、意図は明白。

 しかし、伯父さまもおじい様もこれらを完全スルー。


 あとで教えてもらったんだけど、おばあ様は子爵家出身。裕福ではあっても格下男爵家に嫁いできて、色んな摩擦問題を起こしてきたからか、おじい様はあんまり口を出さなくなってしまったみたい。それを伯父さまも引き継いでしまったのかな。


 わたしは母さまの手をきゅっと握って、父さまとおばあ様から視線を逸らした。

 ああ、頭が痛くなってきたわ。



次回も不毛な晩餐続きます。

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