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平凡なヒロインですみません (改訂・休止中)  作者: アキヨシ
第一章

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06.洗礼式 [改]

2022/11/19 大幅に改訂しました。

 赤色系の建物の群れに、一際目立つ真っ白で鋭角的な建築物。

 それがアストラス神教本神殿だと教えられ、馬車を降りる。


 白い塔がいくつも連なっているかのような建物だけれど、中に入ると繋がっていてた。

 アーチ状の天井が高く、煌びやかな装飾がされていて、天窓から降り注ぐ陽の光が神々しく……いわゆるヨーロッパのカトリックの教会を連想してしまう建築物は、アトラス王国で最も古い歴史を持つそうです。


 ほぉと感心してキョロキョロしてたら、

「アリス、落ち着いて、ね」

 と、父さまに右手を握られる。最初から左手は母さまが握ってたんだけどね。

 左右挟まれて、なんだか連行されている状態にされてしまったわ。


 入口からまっすぐ続く回廊の最奥に祭壇があり、その手前に一人、若そうな神官が待ち受けてた。

 白い神殿に白いローブの神官。白尽くし。


「お待ちしておりました、ヴィンスリー様」


 青年神官は、先頭に立つ伯父にそう声をかけたあと、改めて気づいたというように、

「ようこそ、ロイド男爵夫妻」と付け足した。

 ええ、まぁね。伯父さまが予約したんだしね。


 白々しい感じが否めない挨拶のあと、『お布施』という名の貢物を渡す伯父さま。

 そんな最中、祭壇横の扉から別の神官ご一行が姿を現し、躊躇いなくわたしたちの方に歩み寄ってきてびっくり!


 先頭の神官はもう見るからに位が高いでしょうっていうオーラを醸し出しているよ。

 老齢で長く伸ばした白髪に、薄い青の瞳がちょっと近寄りがたい光を宿してる。

 白のローブだって金糸銀糸の刺繍が施されて高級感ビシバシ。


 しかし、このおじいちゃん神官の登場は予定外だったらしい。

 青年神官が慌てて跪き、相次いで伯父と両親がそれに倣いました。

 ぽかんとしたのも一瞬、わたしも即座に跪いたね。一人だけ別行動はまずいでしょう。


「今日の良き日に、新たなるアトラスの子の誕生を寿ぎましょう」


 厳かにおじいちゃん神官に声を掛けられ、何者か分からないうちに洗礼式続行なのかと思ったら、青年神官が口挟んできたわ。


「お待ちくださいナサニエル様、本日は拙が式を執り行う予定にございます」


 それは身分的にってことかな?

 わたしがひねくれた解釈をしていると、おじいちゃん神官が青年神官を一瞥する。

 それだけで彼は口を閉ざしたのよ。圧がすごい。


「よい。わたしが祝福を与えよう。――アリス」


 おじいちゃん神官の後ろに付き添ってきた中年神官たちは、先にいた青年神官を追いやって、おじいちゃんの両脇に控えた。


 だれ? 何者? ナサニエル様ってどんな人!?


 この場で誰も教えてくれそうもなく、洗礼式続行と相成ったのでした。


 呼ばれたわたしは、神妙な面持ちでナサニエル様=おじいちゃん神官に導かれて、祭壇前に敷かれた赤い絨毯の上に跪く。

 わたしの隣でナサニエル様も、白いローブをさっと翻して祭壇に向かって跪いた。


 動作が洗練されてるわー。年老いて皺が多くても秀麗なお顔立ち。

 いやー、おじいちゃん、若い頃はさぞかしモテたろうなーと不埒なことを考えてしまったよ。


 さて、洗礼式の段取りとしては、神に祈りを捧げ、その後神官に聖水を額に塗布され祝福を受ける。そして魔力測定へ――という流れ。


「アストラス神に祈りを捧げよ」


「はい」


 わたしが胸の前で両手を組み合わせ頭を垂れると、すかさずナサニエル様が宣言する。


「神よ、新たなるアトラスの子、アリス・ロイドがご挨拶申し上げます。どうかこの子に祝福を」


 聞いてた話だと、これは形式的なもので特に何も起きないから、このあと神官から祝福を受けるんだとか。


(とにかくお祈りね。えーっと、神様、今日わたしは七歳になりました。これからの人生をどうか見守ってください。願わくば今世は、ステキな人と幸せな結婚が出来て、平穏無事に過ごせますように!)



 ――“******”



 ん? なんか音が聞こえたような??

 ――と思ってたら、祭壇からふわりと虹色の光が現れ、蝶の形でひらひらとわたしの目の前にやってきて、すぅっと胸元で吸収したかのように消えた。


 え!? 消えた! 今の何!?


 全身が暖かくなって細胞が活性化でもしているみたい。

 例えるなら、バブルのお風呂に入ってるみたいな感覚が、皮膚の外側ではなく内側で起きている、そんななんともくすぐったい感じ。

 悪いものではない――そう思えてもびっくりしてる訳で、答えを求めて隣のナサニエル様を振り仰いだ。

 そしたらナサニエル様が「驚愕!」と言わんばかりに目を見開いてたわ!


「神に祝福を頂いたのか!?」


「ナサニエル様! これはいったい……」


 中年神官たちも驚いているみたいで、声が上ずっている。

 つまり、滅多にないことが起きた?


「アリス! 大丈夫? 体調に変化はある?」


 わたしが呆気に取られている間に、すぐ傍に父さまと母さまが膝を付いて顔を覗き込んでて、それではっと我に返った。

 ぱちくりと瞬きして、自分の体の様子を探ったけど、特に今は何ともないわね。


「……うん、大丈夫。ただ暖かいだけ」


「本当に?」


 何故か父さまが疑い深い。

 頷くわたしの頭の先から足元までくまなく観察して、やっと納得したみたい。

 そういえば伯父さまはどうしたかしらと後ろを振り向くと、強張った顔のまま立ち尽くしていた。


「――神の祝福を受けるとはなんたる僥倖か。長く神官として仕えているが、初めて目にした」


 まだ少し呆然とした面持ちでナサニエル様が呟くと、中年神官たちが「誠に」と何度も頷く。

 でもわたしを見る目つきがなんか怖い。

 ナサニエル様は表情を改め、わたしをしげしげと見つめる。


「アリス――神の祝福を授かる事は稀なこと。其方は特別な存在なのかもしれぬ」


 あー、えー、特別感はいらなかったなー。平凡でいいんすよ、平凡で。


「とはいえ、洗礼式の途中だ。烏滸がましいことだが、わたしからもアリスに祝福を授けよう」


 立ち上がったナサニエル様へ、中年神官の独りが小さな杯を渡す。

 ああ、それに聖水が入っているのね。

 聖水に浸した筋張った細い人差し指で、わたしの額をすっと撫でた。

 冷たいっ。

 その指が再び額に触れると、ほわりとした暖かく柔らかい“何か”が全身を包み込む。


 ――ああ、これが祝福。


 さっきの虹色の光を受けた時より、ほんのわずかなモノだけれど、小さな幸福感が体を満たした。


「儀式はこれで終わりだ。さあ、アリス、立ちなさい」


 もう一人の中年神官が、ナサニエル様へある器具を渡す。

 わたしの手の平より少し小さめの魔石が中央にあり、放射状に小さな魔石が取り囲む形の円盤型の物。おそらくこれが『魔力測定器』。


 おお、ついに。

 血圧を測る時みたいにドキドキするよ。

 美佐子時代、なんでだか心拍数が上がるのね。おかげでいつも二回測ってたなぁ。


「これから魔力測定を行う。アリス、中央の魔石に手を置き、魔力を流しなさい」


 中央の魔石に手を載せると、持ち前の属性の魔石が光るというものだ。魔力量次第で光の強さが変わるという。

 魔力を体外に放出するために、押し出すようなイメージを思い浮かべて右手を載せた。

 とっさには色々やらかしているわたしだけれど、意識して魔力を扱うには先生に教えられてやっとだったのだ。


 ヒヤリとした魔石がじんわりと熱をもってきた。

 すると周囲の属性を表す魔石が一つずつ光りだす。

 一つ、また一つ。あらかた済んだのか、手の平から熱が引いていく。


 属性の魔石の数を見て、ナサニエル様が少し息をのんだ気配がする。

 まぁ確かにたくさん、ぱっきり光ってるよね。

 わたしが魔石から手を退けると、ナサニエル様が改めて測定器を見、控えていた神官たちも傍に寄って確認する。

 しばしの沈黙。神官たちが、様々な表情でわたしを見る。

 いやー、そんなに見つめられても困るわー。


 ナサニエル様が祭壇から一つの魔石を手に取り、短く詠唱する。ふわっと()()()()()()()()がすり抜けて周囲に広がっていった感じ。

 なにしたの?


「――闇以外の属性を持つようだ。アリス、貴女にはぜひ魔導師の道を進んでほしい」


 ナサニエル様の言葉に、伯父も両親もぎょっとしたようだった。


「闇以外……光属性を持っているのですか?」


 恐る恐る尋ねたのは伯父さまだ。闇以外って言ってるんだからそうなんでしょう。


 光・闇・水・火・風・土、全六属性。中でも光と闇はレアケース。

 そこまで来たらコンプリートしたい気持ちが湧くけど、ないものはしょうがない。買ってくるわけにはいかないものだからね。

 いやいや、そんな平凡とかけ離れた事、願っちゃいけないわ。今でさえ何やら雲行きが怪しいのに。

 だって、ナサニエル様の表情が厳しいもの。


「この件は他言無用。無用の(いさか)いに巻き込まれる懸念を拭えぬ。今この場に結界を張ったので知るものは我々のみ。お前たち……」


 ナサニエル様は控える神官二人に視線を向ける。


「無言を誓いなさい」


 厳しい言葉にすぐに跪く二人は、躊躇(ためら)うことなく誓いを述べた。


「アストラス神に、この件は他言しないと誓います」


 言葉のあと、ふわっと神官たちの体が一瞬光った。

 ふわっと光ったのは恐らく魔力。魔力を伴った誓約が成されたという事。

 アストラス神はわが国の最高神の御名ですから、その神の名に誓うということは、絶対だということ。


 おろおろするわたしと両親、顔色悪くしている伯父に、ナサニエル様は真顔で促す。

 なにをって? もちろん誓約でしょう。


「アストラス神に、この件は他言しないと誓います」


 言い切ったとたん、ふっと魔力が体から少し抜けた気がした。

 両親や伯父さまもふわっと光ったから、同じよう事が起きたんでしょう。


 そのあと少し気配をやわらげたナサニエル様は、わたしたちに向かって説明を加えた。

 理解していないんだろうということが見て分かったんだろうね。すみません。


「光と闇の属性を持つことは稀だ。さらに光属性を持つものは、聖女である可能性がある。聖女であると認定に至るまでには、様々な条件を満たす必要があり、現段階では聖女候補……というしかないだろう」


 おおっと、わたし、すごいの引き当ててたんだ。くじ引きはしてないけど。

 いや待て! 聖女候補……まさかヒロイン属性とか言わんでしょうね!?

 ――て、誰に聞いてるんだわたし!


「更にアリスは四大属性も強く反応している。神の祝福も受けた稀有な存在として様々な者たちに利用されることが懸念される。魔導師を目指すにしても、アリスのことを案ずるなら、アリス自身も自重することを望む」


 わー、なんだか面倒くせぇ。

 とってもいやーな予感しかしません。


 あー、そういえばカイエン先生から、魔力測定に挑む時はほどほどにね、と注意されていたのを今思い出したよ! おっそ。



お祝いのはずが怪しい雲行き。

次回はヴィンスリ―男爵家に行く・・・前に閑話、ナサニエル様についてのお話です。

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