02.葛藤するアラサー [改]
アラサーって便利な言葉だよね。
三十歳前後をそう呼んでたけど、具体的な年齢言いたくないわたしにはありがたかったです。
実は三十歳ちょうどでした。
二十八・二十九歳頃「アラサー」呼ばわりに「まだ二十代だし!」と抵抗してたけど、三十歳過ぎると「アラサーなの」と言えてしまう妙齢の女心を理解してほしいわ。
わたしはかつて、日本で地味に平凡に、中小企業の事務職に就いてました。
名前は久保田美佐子。
見た目も平凡で、だからファッションやお化粧で、出来るだけきれいに見せようと頑張ってたよ。
男性たちにあまりがつがつしてないように見せかけつつ、料理得意アピールして。
ああ、我ながら無理してたわー。ぶりっコしてたなぁ。
彼氏とうまくいかず別れ、合コンも婚活もはかばかしくなくて、それでも三十歳までには結婚したい!て頑張ってた。
ええ、空回ってましたよ、おかげさまで!
三十歳の誕生日前日までジタバタしてたけど、日常は無情に過ぎ、なんら変わることのない環境で、誕生日の翌日も普通に仕事して、三十歳オーバーの同僚女子たちが、生暖かく「おめでとう」と言ってくれました。
副音声で「ようこそ三十代へ」って聞こえたよ!
まぁね、三十歳前までに結婚って、実は単なる区切りでさ。本当は独り身でいる事に対する危機感が半端なかったのよ。
元カレが質の悪いヤツでねぇ。
上っ面はイケメンで真面目なエリート弁護士だったのに、付き合ってみたらモラハラ・DV野郎! 別れた後ストーカー化しやがったの!!
ちょっと男性恐怖症になったりもしたけれど、独り身でいたらヤツに勝手に未練があるんだろうって思われてて、ふざけんじゃない!って心機一転。
ちゃんとした人と結婚してはっきりと「あんたなんて及びじゃない!」と知らしめようとしたのよねー。
うまくいかなかったけど!
『優良物件』コワイ。
職場では変な噂も流されて居心地が悪くなっていたのに、新人教育やら、後輩の面倒見たりとか、尻拭いしながら自分の仕事して、残業して自宅にいる時間がどんどん減ってたわ。
そういう色々なストレス発散、癒しを求めてついつい乙女ゲームに手を出したのよねぇ。
もう乙女って年じゃないことは重々承知。
でもね、だからこその癒しですよ!
ラノベも少女漫画も読んでましたよ!
乙女ゲームは、あざとい可愛い系ヒロインが嫌いでした。
ちょっぴり自分の行動とかぶるような気がして、ベッドでのたうち回ってみたりしてね。
なので正反対の悪役令嬢に注目したわ。
どんな高飛車暴言吐くのかとワクワクして。
たださすがに、ヒロインに都合良過ぎる展開にだんだん滅入ってきて、攻略対象者一通り遊んで終わらせたな。
それで別のゲームを探しているうちに、関連のネット小説を知って、そのうちのヒロイン目線じゃなく、悪役令嬢視点の物語に嵌りましたよ。
悪役令嬢こそが実は正しく、ヒロインが悪である。通称『ヒドイン』。
そういう小説がたくさんあったので流行りなのかなーと思いつつ、ついついたくさん読みふけったわ。
面白かったぁ!
なんてことをつらつら内心で語っていたのは、いま現実逃避中だからです。
ようやくお座りできた今日この頃、鏡を前にしてショックを受けました。
薄いピンクの髪色に濃いピンクの目って……ゲームのヒロインの色彩じゃない!
美佐子が唯一プレイした乙女ゲームのヒロインは、ベビーピンクのふわふわとした髪にチェリーピンクのたれ目がちの瞳だったのよね。
鏡に映った自分を見て、すぐに連想してしまったけれど……
いやいやいや! 待て自分!
たまたまってこともあるじゃない。
そんな乙女ゲームの世界に転生ってさー、好んで読んでた小説みたいじゃないの。
転生って……。
……転生ってさ、たぶん、本当にしてるんだよね?
ここがどういう世界であろうとも。
ピンク色の赤ちゃんは、がっくりと床に突っ伏した。