01.赤ちゃんから始めます [改]
い……息が出来ない!
あれ? ちょっと待って!? なんで!?
暗いし、ここどこよ!?
酸素を求めても入ってくるのは液体! がぼぉと吐きだしむせ返る。
もしかして水の中!? いやだ、まさかお風呂でおぼれているの?
パニック状態でそんなことを思いついたのは、周囲が冷たくなかったから。暖かい液体に包まれているから。
早く脱出しなければ! 脳に酸素が届かないと何分かで障害が起きる。そして……死……
いやー! 待って!
焦るばかりでどうしてだか体が思うように動かない。もがこうとしても何一つ自由に動かない。窮屈で息が出来なくて。
なんで? なんで!? 早く酸素をーーー!!!
「おぎゃーーーーー!」
唐突に明るくなった。息が出来た。やった、助かった!と喜びの声を上げたはずが?
「おぎゃーおぎゃーーー」
赤ん坊が泣いてるよ?
…………て、わたしかいっ!!
◆◇◆
何がどうしてこうなった?
ウトウトと甘い匂いに包まれて、ぼんやりと考える。
一番ありえそうなのは「夢」であること。
夢かぁ。夢ならいつか覚めるよね。うんそうだ。
微睡みながら目が覚めるのを待ったよ。ひたすら待ったよ。
何度目覚めても赤ん坊だったけどね。
それで次に考えたのが精神だけ別の所に飛ばされた、もしくは過去へタイムスリップ……とか。
タイムスリップ。タイムリープ。タイムトラベラー。
かの有名なSF小説家の代表作「時をかける」ほにゃらら。
好きだったなぁ。映画が。
すみません、原作小説未読ですみません!
過去の自分に精神だけ乗り移ったとか考えたけれど、目が少し見えるようになって違うことが分かったわ。
お乳を飲ませてくれる母親らしき人の容姿が、わたしの母親とまったくの別人だったから。
外国人かな? 髪の毛ピンクだけど、染めているかも。時々現れる父親らしき人物は茶髪だったし。
どれだけの日数が経ったのか。
とにかく一日の大半を眠っているので時間感覚が鈍っているわー。
ようやく目が見えるようになってきて、あちこちに視線を彷徨わせてみてわかったのは、日本じゃないってことだけ。
アラサーOLのわたしが、赤ちゃんとして外国にいる?
これだけでも衝撃的な事実だけれど、それ以外、ほんとなんにも分からなかった。
「アリスちゃん、おっぱい飲もうねぇ」
白くて柔らかい胸に抱かれる。母乳の甘い匂いは、きっと自分からもしてるだろうな。
わたしは独身だったけど、姉の子供を間近で見守っていた経験があるから分かる。
今のお母さんは、淡いピンクの髪に、赤みの強い茶色の瞳の可愛い系。
たれ目気味でおっとりと微笑んでいる顔は幸せそう。
その傍ら、こちらもほのぼの幸せそうに笑う今のお父さんは、ざっくり言って茶髪。カフェオレ色っていう方がいいかしら。
瞳の色は青系、碧眼っていうやつ。真面目な顔をしていれば結構イケメンだと思う。
この二人、まだ若い。二十代前半くらいかなぁ。
かつての自分より若い両親。そう思うとなんだかもやもやする。
両親の名前は、父がハリス、母がアイリス。
そしてわたしがアリスと名付けられたのね。
可愛い名前だわ! かつてのわたしじゃ絶対似合わん。
生まれてからどのくらい経ったんだろう。
首が座ってきょろきょろ辺りを観察できるようになってきたから、もうそろそろ三ヵ月は経つのかもしれない。
それでまた分かったことは、どうも現代じゃないみたいってこと。
若きイケメンが着ているのは、布地たっぷりゆったりした白いブラウス。シャツっていうより、ほんとブラウスなんだ。ズボンは明るい茶色で、こっちは現代でも大丈夫そう。
でもね、可愛い母はドレスなんです。ゆったりした、産後の体型カバー出来る、水色で所々に小花柄が刺繍されているドレス。
そして極めつけ! この家にはメイドさんがいるのです!
ザ・メイドって感じの黒地の脛丈ワンピースに白いエプロン、白いヘッドドレスに襟にカフス。靴は地味な平べったいもので、白い靴下で肌が見えないようにしているのよ。
そして「旦那様、奥様」呼び。
メイドさんがいるってこの家どんな家!?
見たことないけど、もしかして執事さんもいるのかしら。
この部屋は広すぎず狭すぎず、壁は基本アイボリーで、木枠の窓はアーチを描き、ガラスがはまっているから、そんなに何百年も昔ってことはないよね。
――ここに至ってもまだわたしは勘違いしてた。
十九世紀ころの欧米のどこかだと思ってたのよ!
タイムスリップ説まだ捨ててなかったわたし。
しかも生まれ変わった、転生したってことにも気づいていなかった……ううん、気づかないふりしてました。
容易く受け入れるなんて出来ないよ。
だってそれって、わたしが死んだってことだから。
うん。お察しの通り、神様との邂逅忘れてましたー!
2022/11/15:この話の前に「プロローグ」を加筆いたしました。
最初に予定していた着地点の変更に伴い、これからの展開で必要になる設定です。
もっとあっさり終了する予定だったのが長くなり、お休みしている間にこのままのストーリー展開だとつまらないと思ったので変更することにいたしました。
この後の投稿されている話も、都合により変更していく予定です。
今更ながらの変更、どうも申し訳ございません<m(__)m>