☆4話 私達、近衛学園女子フットサル部!
「え~、じゃあ自己紹介をどうぞ……」
今、俺の目の前には5人のロリがいる。
新監督になった俺は小学生達のところに行き1人1人に自己紹介を促した。まずはこの子達のことを知らなければ話にならない。こんなことにならなければ知り合うこともなかっただろうけど。
「はいはーい! アタシ、『小泉 亜子』でーす! 小学6年生!」
髪はミディアムくらいの長さで目は大きくパッチリ。見るからに元気快活! という雰囲気の女の子。この子が5人の中で一番小学生というか子供っぽいって感じがするな。
あと小学6年生……と。きっと5人全員が6年生だと思う。この部はよくある友達同士でやってるってやつだろうから。
「小泉……ね」
「亜子でいーよ。2文字だし」
こういうテンション高い子特有のいきなり名前OKってやつだろうか。陰キャの俺としては戸惑うが……こっちから歩み寄る姿勢も大事か。考えておこう。
「……『宇津木 詩織』」
次はその横にいたハーフアップでどこかお嬢様っぽい高飛車そうな女の子。
なんか感じの悪い子だなー。初対面だから仕方ないけど妙に嫌がられてるというか……。それと賢そうな子だ。こういう奴は何かと噛みついてきたりするから面倒くさそうだな。
「貴方、前の監督さんの息子なんですよね?」
「ああ、それがどうした」
「いえ。前の監督さんはテンションがすごく高い人だったので。貴方はかなり根暗そうで驚いてるんです。似てないですね。…………本当に親子なの?」
こ、こいつぅ……! いきなりなんだよ。最近の小学生は年上にこんなことを言ってくるのか? いくら噛みついてきそうとは言っても根暗とまで言われるとは思わなかった。いや、言われたことはけっこう的を射ていそうだけどな。
「なんかムカッとしたが最後の『父さんに似てない』っていう件に関しては大いに肯定する。いずれ奴とはDNA鑑定で決着を着けるつもりだ。それまでお前がその説を提唱し続けてくれ」
「は、はぁ……?」
軽いジョークを飛ばしてみたがキモがられたみたいだな。まぁDNA鑑定の件は半分本気で調べてみたい。父と息子だが関係は天敵に等しい。今回のこともずっと根に持ってやる。
「『四井』……『奈夕葉』。ふあ~」
お次は可愛い欠伸をしながら眠そうに自己紹介をしてくれたロングの女の子、四井奈夕葉。
長い髪は所々ハネている。手入れがどうとかじゃなくて学校でも寝てるせいだろうな。
目もウトウトと半開きだ。フワフワとした雰囲気で眠そうな眼を見るとこっちも眠くなってきそうだ。
あとこの中で一番身長が低い。さっきの宇津木と亜子は平均くらいの身長だった。この子は多分、6年生の中でもかなり小さい方の身長だな。
「何か得意なこととかあるか?」
「得意?……占い」
「占い?」
四井はトテトテと眠そうに歩いて学校のカバン─ランドセル─から「タロットカード」を取り出してきた。そして俺の前に裏向きで並べてくる。
「1枚……取って」
「えっと……じゃあ、これ」
俺は裏のカードの中から1枚だけ選んで四井に渡した。四井は俺にも見えるようにそれを表にする。
そのカードは……杖とランタンを持つお爺さんの絵が描かれていた。
数字は……なんだっけか、えっと……あ、9か。ローマ数字は馴染みがないから一瞬混乱した。英語は何書いてるかわからんしな。自慢じゃないがTHEしか読めん。
っていうかこれタロットカードのやり方合ってるのか? 適当に引いただけなんだが。
「どうだ?」
「う~ん。えい」
四井はポイッと俺の方にそのカードを手裏剣みたいに回転させながら投げてくる。
それは俺の前でペチッと落ちた。向きは俺から見て逆になり、お爺さんがひっくり返って見える。
たしかタロットカードって向きがどうとかで意味が変わるんだっけ。知らないけど。そんなやり方でいいのかはもっと知らないけど。
「……もっとがんばりましょう?」
「なんだその通知表みたいな結果は……」
結局わからず仕舞いか。後で調べてみようかなとも思ったが俺が占いを本気で信じてるわけでもないしわからなくてもいっか。子供のやってることだし。
「『牧野 愛実』です。よろしくお願いします」
「牧野、か。よろしく」
元気、生意気、不思議ちゃんと来てようやく話しやすい子が現れてくれた。
髪はウェーブヘアー。身長は四井の逆でこの中でも一番高い。と言っても、小学6年生の中じゃ平均より少し高いってくらいかな。それでも発育はこの中では一番良い方なのは間違いない。……変な意味はないぞ。
「スポーツは得意ってわけじゃないですけど精一杯頑張りますので。よろしくお願いします」
「そうか。頑張るって気持ちがあれば大丈夫だ」
なんだか柔らかい話し方といい「お姉さん」という印象を持つな。まだ小学生なのに俺の母さんのような……。
体育館に入って来る時とか四井に色々と注意とかしてたし面倒見が良い子なのかな。そういうところはしっかりしてるしこの5人の中でのお姉さん的立ち位置っぽいかも?
「私は……『立花 舞依』ですっ!」
「立花……ね」
最後は朝出会ったセミロングの無垢そうな女の子。あの時に名前を聞きそびれてたからここで初めて名前を知った。
今どき高校生が初対面の小学生に名前聞くっていうのも怪しいもんではあるから別におかしいことではない。
「立花は昔から走ったりしてたのか?」
「え……どうしてですか?」
「朝見た時、小学生にしては綺麗な走り方してたから」
俺は頭の中で朝の立花の走りを思い出した。今でも鮮明に思い出せる。
ボールのタッチこそド下手くそだったが走り方に関してはなぜかすごく綺麗だった。まるで陸上選手のように。まだ小学生なのにプロのような空気を感じたから驚いたのだ。
「はい…………少しだけ」
立花は困ったような顔でそう答えた。
あまり聞かれたくないことなのかな。誰にだってそういうのはある。
こんな時、深くは聞かない方がいいのが常だ。根掘り葉掘り聞こうとしても嫌な印象しか持たれないに決まってる。白戸にだって父さんから俺のことをどこまで聞いたのか知らんが今のところ嫌な印象しか持ってないからな。
「じゃあ最後に。俺は『桜庭 楓』。勝手に監督をやらされることになったんだが……俺はフットサルじゃなくてサッカーをやってた。サッカー経験者にも務まるのかどうか手探りでやってみる。一応よろしくな」
最後に俺が自己紹介すると亜子が「よろしくー!」とバシバシ背中を叩いてきた。痛い痛い。
「え……『桜庭楓』って。その、もしかして中学の頃サッカーで有名だったりしましたか!?」
お? なんだかよくわからんが俺の名前を聞くと立花が急に顔色を変えて食いついてきた。
「有名……まぁそうだったのかな。って、言っても今じゃ全然聞かないだろうけど」
「わ、わわ、わ、私ファンですっ! 監督さんの!!」
「ふぁ、ファン!?」
いきなりそんなことを言われて戸惑う。他の4人の子達も立花のまさに興奮といった態度に驚いていた。いつもは静かな子なのだろうか。
たしかに少しばかり有名だった中学の頃はテレビに映ったりは何回かあっただろうけど。
「ただの中学生のサッカー部だったんだけど……俺のこと知ってるのか?」
「はい、もちろんです! 中学ではトップ下のポジションで、全国でもトップレベルと言われた司令塔。個の力ではなくチーム全員で力を合わせて勝つ『チームサッカー』を掲げていた名選手じゃないですかっ!!」
「よく知ってるね……そんなこと」
立花の言った情報は嘘じゃない。俺は中学の頃、まったくといって無名だった中学のサッカー部を全国大会出場に至るまでに押し上げた。
中国地区の代表として選ばれたんだが全国大会開催前の時点でもう優勝は俺達のチームで間違いないとまで言われるほどに騒がれていた。
なにせクラブチームに対してもまったく引けを取らないほどの強さを持っていたのだ。
体つきに関しては中学生として平均でも、完璧なチームワークは高校生チームの一流レベルとなんら遜色ないと評価され、俺の戦術眼やゲームメイク、冷静な判断と的確なパスはそのチームワークの核であると言われスポーツでかなり有名な高校からも数多くスカウトが来ているほどだった。
しかし、今では俺の名前なんて誰も知らないと思っていたよ。なぜなら……
「でも、全国大会の1回戦で負けたんですよね? それも……その……かなり、ひどいスコアで。いったい何があったんですか? 優勝間違いなしとまで言われてたのに……」
「……ッ! それは、」
そう、それこそが俺がサッカーを辞めることになった原因。俺の心に大きく刻み込まれた「傷」とでも言おうか。
俺は全国大会が終わると同時にサッカーを辞めてスカウトも全て断った。そしてとある理由により中学のチームメンバーを避けたかった俺は引っ越しして東京に移った。
それでもまだ俺の事を「天才」だとか「神童」だとか言う奴がいたが、俺がずっとサッカーから離れているとそういう声も遂には無くなった。俺はサッカーの世界から完全に姿を消したのだ。
「悪い。そのことにはあまり触れないでくれ。俺としてもサッカーはもう関わりたくないことなんだ」
「そんな……」
「気にするな。昔ちょっとばかり上手かった選手が今では落ちぶれているなんてこと、よくあるだろ?」
立花はまだ納得のいっていない顔をしていたが、ずっと俺の話をしているわけにもいかないし嫌なことを知られたくもない。今、重要なのは俺のサッカーのことじゃなくてこの子達のフットサルだ。俺のことは関係ない。
「それじゃ、ちょっとどれくらい出来るのか見させてもらおうか……」




