☆21話 勝利に向かって
「今日から練習試合勝利に特化したメニューも行う!」
3日目の練習日。俺は練習開幕この一言を皆の前で宣言した。5人の少女達は不思議そうな顔で俺を見る。その中でもやはり宇津木が口を開いた。
「いつもやってるのはそうじゃなかったわけ? 何が違うの?」
「より実戦的……と言えばいいのか。今までの練習は戦いの舞台に立つための練習だった。これからはそれだけじゃなく、『勝つ』ための練習もする」
「何をするのか、その違いがよくわからないわよ……」
伝わらなかったか。こればっかりはやっていく中で伝わることを祈るしかない。もちろん説明もするが多分言葉だけじゃ伝わらんだろうしな。
「それに、もう1つ皆に聞いてほしいことがあるんだ」
「?」
再び不思議そうに見てくる5人。いや、舞依だけは気づいたかもしれない。俺が何を言おうとしているのか。
「『バカだ』とか『暑苦しい』って思うかもしれないけど……この近衛学園初等部ってチームで全国大会優勝を目指してみないか?」
5人は俺が思った通りの反応をする。もちろん想定していたのは「驚き」。まさかそこまで考えていたなんて思いもしなかったってところだな。なにせ俺も昨日の夜まで思ってなかったんだから仕方ない。
楽しむことも大事だが、勝利の先に大きな楽しみが待っているのもたしかなんだ。目標は大きく。この言葉は人を希望へと進ませる言葉だ。
「全国って……あんた本気なの!?」
「ああ。宇津木、お前の言いたいことはよくわかる。このチームは全員6年生と言っても始めたばかりで課題がたくさんだ。メンバーも5人だけっていうのはハッキリ言って無謀すぎる話だろう。けど……俺は本気だ。そして皆なら出来ると信じているし、ついてきてくれるなら俺が優勝させてみせる」
俺の強い眼差しに宇津木は少したじろいだ。きっと本気だという気持ちが伝わったんだと思う。
俺が言葉を発した後、今度は亜子が言葉を発した。
「え? そもそも全国優勝する気じゃなかったの?」
「はい?」
なんと亜子がかなり意外なことを言いだした。亜子は初めから全国見据えてたの?
「だってだって! どうせやるんだったらそっちの方が面白そーじゃん!」
「そうですね。せっかくやるんですから」
「そのほうがおもしろそー」
亜子のその言葉に牧野、なゆちゃんと続く。なんだ。グルグル悩んでたのは俺だけだったのか?
こういうのは監督よりもプレーヤーの方がやりたいことをスンナリ言葉にできるから案外悩んだりはしないのかも。それでも亜子は将来大物になりそうだな。
「な、なによ……皆そうだったの?」
「しおりはそーじゃなかったの?」
「私は……」
亜子に問いかけられる宇津木は困惑している。そういえば本格的な練習を始めた時もそれに疑問を持ったのは宇津木だった。
別にそれが悪いことじゃない。宇津木には宇津木の世界があるんだから。ただ、俺としてはもっと広い世界に羽ばたいてほしいんだ。
たった2日くらいしか練習を見ていないけれど、俺はこの子達のことをそこまで悪いものと思っていない。きっと色んなことを教えればどんどん吸収していって見違えるように上手くなるはず。
その先でこの子達の成長した姿や辛い戦いを終えた後の笑顔を見たい。なにより俺自身がこの子達を全国優勝させたいと思っているんだ。
「すぐに答えなんて出さなくていいぞ宇津木。まずは練習試合だ。そこで勝ってみろ。その時の気分は最高だぞ。その後で、答えを聞かせてくれればいいから」
「……わかったわよ」
プイッと顔を背けて可愛くない返事をする。お前はそれでいいよ。それも含めて、俺がこれから面倒見てやるから。
「楓さん。なんで……」
「舞依」
そしてこの話が出ることになった原因……いや、こんな言い方は良くないな。俺に全国優勝させるという目標を持つキッカケをくれた『恩人』だ。俺はその恩人に柔らかい笑みを向ける。
「俺がやりたいって思ったんだ。舞依のお爺さんのこともないとは言い切れないけど、そんなもの気にしなくたっていいぞ。優勝すればいいだけなんだ。だったら優勝して、お爺さんを見返してやろうぜ。それで、『フットサルはこんなに楽しいんだぞ』って言ってやれ」
「はい……! ありがとうございます!」
舞依は涙ながらに俺に抱き着いてくる。俺は舞依の頭をポンポンと撫でてやっているとその空気に何かを感じたのか亜子が
「ねーねー。舞依、なんかあったの? 爺さんとか言ってたけど……」
と、聞いてきた。
「あー、そのことな。えっと……」
俺は舞依の顔をチラッと見て「話していいか?」と聞く。舞依はコクッと頷いてOKの意を示した。なので、
「えー! 舞依ってそんなすごかったの!?」
「さすがに驚いたわ……。前からメチャクチャ速いとは思ってたけどまさか全国レベルだったなんて」
「徒競走の時、本気を出してなさそうな印象はありましたけど……」
「すごい。なゆよりもすっごいはやい」
4人からの感想に舞依は照れているような、その話題には触れてほしくないような、複雑な表情をしていた。陸上のことでもやっぱり友達からすごいと言われたらちょっとは嬉しいのかも。
「でも、全国優勝できないとフットサルを辞めろって舞依の爺ちゃんもひっどいなー」
「そう? 親なんてそーいうもんじゃない?」
「それでも厳しすぎます」
「なゆも無理やりはきらい」
舞依の置かれている状況を知ったことで全国優勝という言葉の意味合いも少し変わったことだろう。
それでもこの子達には楽しさを感じることを忘れてほしくない。戦いの中で舞依のこと、自分達のこと、フットサルの楽しさ、それらをじっくりと考えて精神面でも成長をしてほしいと願っている。言うことは言った。後はこの子達次第だ。
俺がそんなことを胸に少女達を眺めていると白戸がポンポンと肩を叩いてくる。
「そんなことがあったんだ」
「ああ。お前もマネージャーとして馬車馬のように働いてもらうぞ。まさか辞めるとか言い出さないよな?」
「あんたじゃないんだから言わないっての。あ、そうそう。あんたの父さんから。これ」
そう言って見せてきたのはLINEの画面。父さんとの個人チャットのところに
『練習試合の相手:来栖谷女子。練習時間になったら楓にこれ見せて伝えろ』
と書かれていた。なんでわざわざ練習時間になって伝えるんだよ。相手の情報くらい前から知ってただろうに。聞かなかった俺も俺だが。
「このメッセージだけで何が伝えたいとか、あんたならわかんの?」
「う~ん。父さんは意味のないことでも笑いながらやるようなどうしようもないクズだしなぁ」
「あんたの父親に対する評価すごいね……」
若干引いているような顔で俺を見てくる白戸。もうその顔は見飽きたってくらい見たよ。一々引かんでいい。
「今日は金曜日か。……! もしかして、」
俺は来栖谷のホームページを開く。部活欄のところのトップにあったフットサル部のページを開くと「活動時間」というものがあった。
そこには「練習日:月、水、木、金(土曜日もアリ)」とも。
ちなみにうちの部の活動日は「火、木、金」だ(一昨日はどこの部も体育館を使っていなかったので使わせてもらっていたらしい)。
練習試合も近いということで休みの日もやろうとは思うし、やれることなら他の平日の日もやりたいが……ひとまずそれは置いといて来栖谷の練習日を見る限り、まさか……
「『偵察』に行けってことか……!」
「は? そこまでやらせんの?」
「父さんなら十分ありうる。あいつは常識というものさしでは計れない存在だからな。今の状態で勝つにはそれくらいしなきゃダメってことだ。その証拠にこの来栖谷女子はかなりの強豪。実績欄を見ると去年の地区予選で準優勝してるって書かれてる」
練習試合で偵察っていうのもすごい話だなぁ。それよりもそんな強豪と練習試合なんか組むなよ。負けたら舞依が辞めることになるって察してたんならもうちょっと相手を考えてくれても良かったと思うが。
多分、父さんはそれを面白がってるな。勝ってみろって。ほんと酷い話だ。舞依からすればたまったもんじゃない。
けど、ここで勝てないようなら1年で全国優勝は到底無理って言いたいわけだ。まったく……どの時点で今の状況まで計算して読めてたんだ。相変わらず恐ろしいな。
「あ、そうだった。あとこれも伝えろって」
「ん?」
白戸はLINEのチャット欄を指で弾いてスライドして、少し前の会話内容を見せてくる。そこには……
『練習試合。向こうの学校と話をして、試合時間は前後半10分だけに設定させた。楓に伝えとけ』
『は? なんであたしが伝えなきゃなの?』
『めんどくさいから』
『しね』
と書かれていた。
めんどくさいからという理由でわざわざマネージャーに通して俺に伝えるというなんともムカツクやつだが……ん? 待てよ。前後半10分だと!?
「たしか本来の試合は前後半20分だよな? それを半分に設定してる……? これは、」
「意図が読めるの? あたしは全然わかんないんだけど」
「ああ! 最高だ! やっぱり父さんはしっかりと勝つ道を用意してくれてた。いけるかもしれないぞこの試合……!」
試合時間が前後半10分だけとわかり、俺は目の色を変える。
父さんがなぜ時間を半分にまで減らしたのか。その考えがわかった。ちゃんと初心者の俺達でも勝てるようにお膳立てしてくれている。これはナイスだぞ父さん!
「はぁ……あんたら親子の考えはさっぱりわかんないわ」
「父さんはいつも数手先の未来を計算して動いてる。けどな、あいつの思考に何年も付き合うと色々と考えが捻くれて読めてくるようにもなるんだよ。お前もいつかこんな風になるぞ。ようこそ同士よ。マイブラザー」
「げぇ……! 勘弁してよ……」
そんな本気で気持ち悪がらなくてもいいじゃねえか。そんなことよりもだ。行動は
早くしないといけない。
「俺は今から偵察に行ってくる」
「ちょっと! 練習はどうすんの?」
「そうだな。やることはできるだけわかりやすく紙に書いておく。お前はそれを見て俺の代わりに指導してくれ。頼んだぞ」
「ちょっ! 本気で言ってんの?」
俺はシャーペンを取り出してサラサラ~と練習メニューを書いていく。言葉でもわからなそうなのは詳細も含めて。
「何事もチャレンジだぞ。ただでさえ俺達は人手が足りないんだ。マネージャーもこれくらいやってもらわないとな。それに、おそらく父さんのことだ。こういうのも想定してたはず。お前、最近父さんから『選手の指導の仕方』みたいな本を貰わなかったか?」
「うわ…………貰った。しかも、昨日の帰り際にちょうど」
白戸はカバンから父さんから受け取ったという一冊の本を取り出す。そこには「良い選手を生み出す指導の仕方 ~メニュー編~」というタイトルがデカデカと。
「つまりはそういうことだ」
「あんたの父さんもヤバイけど、あんたもあんたでなんでそこまで考えが読めるのよ……エスパー?」
「言っただろ。長いことあいつの思考に付き合ってると─」
「あーはいはい。ほんとあんたらみたいにはなりたくないわぁ……」
余計なことを言わんでいい。俺だって望んであいつの考えを読めるようにはなったわけではないんだ。あいつがいつも俺を振り回すから慣れてしまっただけで。
それに、今の俺でも時々あいつが何を考えてんのか、何手先まで読んで行動しているのかわからないこともある。
一見バカそうに見えてこれだからタチが悪いのだ。父さんが初見の人間はこのギャップに大体やられる。
「じゃあちょっと行ってくる! 後は頼んだ」
「了解。はぁ……やるしかないかぁ」
「楓さん!?」
俺は白戸と舞依達にいきなり別れを告げ、靴を履いて外に飛び出した。
待ってろよ……! まさか、たかが練習試合に偵察が来るなんて思いもしないだろうな。こっちも理由が理由だから仕方ないんだ。覚悟しとけ…………来栖谷!




