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すぴーどすた~☆ ~近衛学園初等部女子フットサル部~  作者: 四季 雅
第1章 ☆チーム結成編!☆
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☆17話 シャワールームは桃源郷?


「今日はこれで練習終わりだ。また明日もバリバリ練習するからへこたれずに頑張ろう。家に帰ったらちゃんと休むこと。これが一番大事だからな」


『はい!!』


 あれから考えておいた色んなメニューの練習を皆に伝えて、それを皆はちゃんとこなしてくれた。

 やはり本格的な練習は初めてだからか顔に疲労の色が見える。初日ということでキツくやったわけではないからすぐに今くらいの練習量は慣れるだろう。


「あー疲れたー。シャワー浴びようーっと」


 亜子が床にペタンと座り込みながら何やら気になることを言っていた。


「ここってシャワールームもあるのか?」


「うん、あるよ! ほら、あそこに」


 亜子が指さす先には確かに用具倉庫ではなさそうな部屋の扉が2つあった。あれシャワールームだったのか……。


「シャワーを浴びる前に! まずは体育館を片づけないといけませんよ。モップ掛けも」


「ちぇー。んじゃ早く終わらせよー!」


「ちょっと亜子! 走るなー! もうっ!」


「もっぷもっぷ~」


 牧野は倉庫からモップを持ってくる。体育館を使わせてもらっている者、ありがたみを忘れず去る時はしっかり片づけていかないとな。

走る亜子とそれに続く宇津木、なゆちゃんが牧野からモップを受け取る。


「あの、楓さん」


「うん? なんだ?」


 あれ? 舞依は……と思ったら、声と共に俺の服をクイッと少しだけ引っ張って「こっち向いて」の意思を伝えてくる。振り返るとそこに舞依はいた。当たり前だけど。


 だが、振り返ると同時に舞依はススス、と3歩分くらいの距離を取る。何か話があるのだと思ったのだがなぜわざわざ離れるのか?

 俺はその行動を不思議に思い1歩2歩と距離をつめる。でも舞依は近づく俺にビックリしてまたさらに3歩くらい離れる。


「なぜ離れる」


「い、いえ……! その、汗をかいてるので……匂いとか……そのぉ……」


「匂い? 全然大丈夫だぞ。むしろ良い匂いがする」


「えぇ!?」


 これは俺がド変態ということではなく本当に舞依からは良い匂いがするのだ。汗をかいているはずなのにむしろそれがプラスになっているかのような。

 なんかまさにド変態みたいな感想だが良い匂いということに嘘偽りはない。

 男は汗をかくと嫌なイメージは強いしまさにそのイメージの通りひどいものなんだが、女の子は汗をかくと元の匂いと相まってむしろ良い匂いにでもなるのか……? ううむ……


「楓さん?」


「ん? ああ悪い。考え事をしてた。で、なんだ?」


「はい。あの、この後、時間ありますか?」


 この後? 今の時間は6時くらい。まぁ高校生の俺からすればそこまで遅い時間でもないしな。


「大丈夫だ」


「そうですか。でしたら、私と一緒に来てほしいところがあるんです」


「来てほしいところ?」


「はい。詳しくは帰る時にお伝えしますので」


 それだけ言って舞依はパタパタと走り皆と合流して片づけに入った。一体どうしたんだろう?




   ☆




「お疲れさん」


「どうも。お前はもう少しマネージャーの仕事をやった方がいいけどな」


 近くにある自販機に行って買ってきたのか、白戸は俺にコーラを渡してきた。俺、強い炭酸はそこまで好きじゃないんだけどなぁ。


「改めてどう? おチビ達は」


「そうだな……前言撤回だ。案外練習をやらせてみるとそこまで酷いもんじゃなかった。ちゃんとサボらずに最後までやってくれたしやる気も感じられた。今のところ問題はないな」


「ふーん」


 カシュッという音が聴こえたと思ったらこいつ自分用にもコーラ買ってやがった。お前どこも疲れてねえだろ。グビグビ飲んで「ふはー」とか言って頑張ったーっていう雰囲気を出してるのがまた腹立つ。


「ここってシャワールームあるんだろ? 俺も使っていいのか?」


「いいと思うよ。あ、タオルは入ってすぐ横に積まれてるから。それ使って」


 タオルまで設置されてるのか。なんて太っ腹なんだ。

 それで思い出したがこの学園ってけっこうお金持ちって聞いたことがある。特に初等部なんかはお金持ちの子がほとんどらしい。中等部、高等部になると外部から入ってくる子が多くてそうでもないんだけど。


「そうなのか。じゃあ行ってくるわ。あ、俺コーラあんまり好きじゃないからやるよ。悪いな」


「ふーん。ま、あんたの父さんからそのことも聞いてたから知ってたけど」


「は? お前なぁ……」


 元から俺のコーラも自分が飲む気だったんかい。このちょっと「ありがとう」と思ったらすぐに落とされる気持ちはなんなんだよ。まったく。



 俺はシャワールームに入る。当たり前だが男女の区別があったので俺はよく確認して男性の方に入った。こういう時は女の子と遭遇してしまうというお約束があるがそんなの現実ではありえん。

 ……だが気のせいかな。妙に部屋の中がピンクだし石鹸まで置いてあるぞ。なんかどことなく女子っぽい……? いや、でも張り紙では男子ってなってるし。大丈夫だよな?


 個室は6つあり俺は一番奥に入った。

 服は袋に入れて各自個室の中に入れることと書いてあったのでそうした。どうやら盗難対策みたいだ。過去にそういう事件でもあったのだろうか?

 シャワーを出すといきなり温かい水が降ってくる。すごく気持ちいい。激しく運動したというわけではないが一仕事終えた後のシャワーというのは最高だ。せっかくだからしばらく浴びよう。




   ☆




「あれ?」


 夏月はふとシャワールームの扉を見ると違和感を感じた。


「これ、男女逆だった気がするんだけどなー。またどっかの誰かがイタズラしたのかな」


 自分の違和感に従いシャワールームの男子と女子の張り紙を入れ替えた。


「ふあ~眠いしあたしはお先にか~えろ」


 小さく欠伸をしながら自分のカバンを持って勝手に帰って行った。5人の少女達は掃除用具を倉庫の中に片づけている最中だったためこの姿を見た者はいなかった……。




 ~数分後~


 ガチャッ!


 ん? 誰か入ってきた? でも、俺以外の男なんて一体誰が─



「あ~早くシャワーあびた~い。一番端も~らい」


「どこ入っても一緒でしょうが……って、……?」


「どうしました詩織さん?」


「いや、あれ見てよ」


 詩織はシャワールームの最も奥にある6番目の個室を指さす。


「あれ? 私達以外に誰が……?」


「ゆーれい?」


「やめなさいよなゆ! そういうこと言うの!」


「もしかして夏月さんでしょうか?」


「あ~、夏月いなかったもんね!」


 俺はシャワーを浴びながら立ち尽くす。

 最初は混乱して気づかなかったが皆の声でようやく俺は今の現状に気付いた。


 お約束、発生……!


 カ〇ジばりにワナワナとした顔で床に手をつきながら絶望する。まずい。俺、ほんとのほんとに変態になっちまうよ。

 あ……ああ……俺の横からシャワーの音がいくつも聞こえてくる。5人全員が部屋に入ったんだ。



 ん?……5人全員?



 待てよ。今がちょうど皆シャワーを浴びてて誰にも見られずに出ることができる瞬間なんじゃないか?

 まさかのいきなり現れたビッグチャンスに俺は個室を出る準備をする。短期決戦……! 乗るしかないこのビッグウェーブに!


 俺は荷物を持って扉を開けた!……が、その直後


「くらえ~! ナイアガラの滝!」


「ちょっと亜子! こっちの部屋にシャワー向けるなバカ!」


 バンッ!と別の場所の扉が開いた。そこからシミひとつない綺麗な肌をした生まれたままの姿の宇津木が出てきて文句を言いながら隣の個室(おそらく亜子がいる)をバンバンと叩いている。ちょいちょいちょいっ! やばッ!!!!


 俺はすぐにUターンしてまた個室の中に戻って勢いよく扉を閉めた。あまりの焦りからか思わず、ドパァァンッ!と爆発音かというくらいの音を響かせるほどに扉を強く閉めてしまう。

 さすがのその音に宇津木は「な、なによ!?」と声を上げてビビっていた。怖がらせてごめんね。


 だが、あぶ、あ、危なかった。って、亜子……! お前ぇ……!! この恨みは一生忘れんぞ。


 それよりも事故の形とはいえ思いっきり宇津木の裸を見てしまった。

 後ろ姿だったが形の良いお尻に綺麗に伸びた脚。長い髪の奥から見えたほのかにピンク色になっていた耳はどこか艶めかしい印象与えた。って感想なんか考えるな俺っ!


 また宇津木は個室に戻ってシャワーを浴びてるみたいだ。またチャンス到来……!

 だが、またさっきのような事故が起こってしまえば次は助かるかわからんぞ。こ、これはどうすれば……


 その時、自分の近くに置いてあった衣服などを詰め込んだ袋に目が入った。そういえば……。 ! やっぱりあった! スマホだ!!


 ポケットにスマホを突っ込んでいたため脱いだ服と一緒にこの袋に入っていたんだ。これで白戸に助けを求めればいいんじゃないか? また弱みを握られることになるがそんなの今更だ。

 それに何もしなくたってマザコン、シスコン、ロリコンというレッテルのトリプルスリーを頂いてるくらいだしもう何も変わらん。さて……



 ……。


 …………。


 …………あ、しまった。あいつのLINE、知らなかった!



 完全に頭から抜けていた。ここでは声を出せないため電話を使用することは出来ないし、そもそもあいつの電話番号すら知らない。チクショウ、圧倒的敗北……!

 父さんや妹に知られるのはもちろん論外。自首してるようなもんだ。そもそもあの二人に連絡してどうなるわけでもない。


 こうなったらもう一度特攻だぁっ!


 俺はまた袋を持って扉を開ける。進め! 前へ!!


 が、またもや進む先で別の扉が開く。そこからアフロのようなモコモコとした泡を頭に携えた子が出てきた。な、なんだこの物体は?


「まえ、見えな~い」


「うおっ!?!?!?!?」


 その子は大きすぎる泡で視界が塞がっているせいかフラフラとした足取りでこっちに向かってくる。

そして、俺の体にぶつかり、しがみついてきた!! 裸のままで……!!!!


 この身長からしてなゆちゃんか……!?


 プニプニとした感触が触れ合っている肌から伝わってくる。お腹のあたりにポフッと頭の泡がぶつかってそこから熱を感じる。こ、これは、アカン……!


「むむむ? めぐ?」


 おや? どうやら視界が塞がっているという効果が大きいのか。俺を牧野と間違えているみたいだ。これならなゆちゃんを剥がして外に出れば問題は─


「呼びましたか~?」


 また別の扉が開く。その主は牧野。その音と声で反射的に体が動いた。

 なゆちゃんを体から剥がしてまた自分の個室に光の速さで舞い戻る。ドォォォン!と扉を閉めて再び振り出し。籠城へ。

 って、こっちに戻るんじゃなくてこのまま外に出れば良かったじゃん! さっきのがトラウマになってて反射的に戻っちゃったよ! 何やってんだ俺!


「あれ? めぐ?」


「はい。何かありましたか?」


「?????」


 なゆちゃんはさっきしがみついた相手は誰だったのかと不思議がってるっぽい。そのまま真相に辿り着かないでくれ。

 あ~、もうこのまま皆が出るまで耐えた方が良さそうだぞ……。




 ~10分後~


 よし。皆出たはずだ。もう音は聴こえない。しかしこうなると外に出た時に鉢合わせないのを祈ることになる。まぁ、裸のままここで出会うよりマシか。


 一応、警戒して個室の扉をソロォ~っと開く。

 誰もいない……な。他の個室も全て扉が開いている。誰も入ってないよという証だ。

 俺は安心して個室から出て、入口前のタオルを手に取る。女子のシャワールームにいるというのに随分呑気なものだが体はちゃんと拭いておかねばならない。風邪をひくからな。


 さて、服を着るか……


と、その時だった。



「リボンどこに置いたかなぁ…………」


「え?」


「へ?」


 ばったりと、出会ってしまった。


 片や、シャワーを浴びたばかりでまだ乾いていないのか、少しだけ濡れた髪を下ろしていた舞依。


 片や、今拭いたばかりでまだ若干濡れている全裸を解放していて女性に見せてはいけないモノを下ろし……ってこれ以上は言えない状態の俺。



「きゃ、きゃあああっむぐっ!」


「スマン。ほんとスマンが叫ばないでくれぇ……!」


 俺はこれから起こることを予測したのかすぐさま舞依の背後に移動し、口を手で押さえる。全裸のままで。


「ん~~~~~~~~~~~!!!! んんんんん~~~~~!!!」


「本当にスマン!!」


 全裸で小学生の口を押えるこの今の状況。見られたら確実に逮捕だ。だが誤解はしないでほしい。俺は決してロリコンなんかじゃないから。ほ、本当だよ?

 少し時間が経って舞依が落ち着いたのを確認してから手を離す。


「はぁ……はぁ……」


「悪い舞依。でも、これには事情が……」


「大丈夫、です。楓さんを……信じてますから。それより、ふ、服を……」


 そうだ。まずは服だ。これ以上全裸で小学生と会話するわけにはいかん。



「一体何があったんですか?」


「ありのままを伝えると入口の扉の張り紙には『男子』と書いてあったんだ。この目で確認した。でも入ってシャワーを浴びてたら皆が入ってきた。以上だ」


 これが真実。これ以上、以下もない。


「張り紙は『女子』ってありましたよ?」


「そんなバカな。俺はいつの間にか小学校で習う漢字すら読めなくなるほどに頭が悪くなっていたのか。割とショックだぞ」


「あ、でも最近男子の中で男子女子の張り紙を交換する悪戯が流行ってるって聞いたことあります」


「なんじゃそら……」


 なんてものが流行してるんだ。最近の男子はよくわからん。女子のスカートめくりとかそんなベタなものは聞いたことあるがシャワールームを入れ替えるってもうこの世の終わりを感じるよ。


 その後、舞依の協力のおかげでなんとかバレずに脱出することが出来た。もう二度とこんな思いはしたくない。



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