表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

#06.神さま、冒険者ギルドに向かう

「金というものは、どうすれば手に入るのだ?」


 指をぺろぺろと舐めながら、神さまはそう聞いた。


 だいぶ経ってからの質問だった。


 何本もの串焼きを三人で分けた。アリアが二本で、エレノーラが一本。

 残りは全部、神さまが夢中で食べた。


 はじめての〝食事〟は、鮮烈だった。

 生物は有機物を摂取し、消化吸収する必要がある。――ということは知っていたが、実際の「食べる」という行為には、神さまをしばらく夢中にさせるだけのなにかがあった。


 そういえば、そんなふうに設計していたのだった。

 生存のため、繁栄のため、そして進化のため。食事が快楽となるように生物は作ってある。


「普通の街の人は……。ええと? 働くんだっけ?」

「貴女も大概ですわねえ」


 ほっぺたに手を当てて、エレノーラがアリアを不憫そうに見る。


「うるさい! あたしは小さな頃から王宮で訓練を受けていたの! 装備はみんな支給されてたの!」

「けど、お金を得るために、働くのは、あんまりお勧めできませんわよ? 市井の方々のお給金って、知ってます?」

「だから、よく知らないって」

「大銀貨三枚ぐらいですから」

「え? それ、一日で?」

「……一ヶ月です。三万ナールあれば、家族四人が、なんとか一ヶ月、食べていけます」


 エレノーラのじっとりとした目が、アリアに向けられる。


「レオには! 冒険者を薦めるわっ!」


 アリアは話題を大声で変えると、背中をばしんと叩いてきた。

 痛いぞ。


「冒険者……とは?」

「冒険者っていうのは、冒険する人のことね。あたしたちみたいな」

「魔物を倒したりするのよ。薬草や素材の採集やら、害虫の駆除やら、護衛などもありますけれど」

「あたしたちは、討伐オンリーよね。強くならなきゃいけないし。――レオだって、あんなに強いんだから、絶対、冒険者になるべきよ! 武者修行にいいわよ!」


 武者修行は関係ないのだが。

 だが強い魔物とやらには興味があった。


「ふむ……。その冒険者とやらになるには、どうしたらよい?」

「これから行くわよ。冒険者ギルドに。ワイバーンの魔石を換金しなけりゃならないし」


 そういえば、ワイバーンの残骸から、なにかを回収していたな。

 魔石といっていた。


 ふむ。……あれが金になるのか。


「レオ。ほらっ。貴方のお金よ」

「そうそう。ワイバーンの魔石なら、かなりの大金よ。やったね。大金持ち!」

「俺の?」


 神さまは、首を傾げた。あの魔石はアリアが持っていたはず。


「あったりまえでしょ。――だってワイバーンを倒したのはレオなんだし」

「そういうものなのか」

「そういうものよ」


 死体の価値など、まったく気づいていなかった神さまであったが……。あのまま当然、置き去りにして立ち去っていたはずだが……。


 まあ、アリアがそういうものだと言うのなら、そういうものなのだろう。

 金が手に入るのはよい。あれはよいものだ。


 串焼き、うまかった。

 もっといっぱい食べたい。


 神さまはアリアとエレノーラに連れられて、冒険者ギルドとやらに向かった。


    ◇


「わ……、ワイバーン――ですかっ!?」


 受付嬢は、目をいっぱいに開いて、びっくりとしていた。


 冒険者ギルドとやらの建物の中に入り、カウンターテーブルの向こうの受付嬢の前に、アリアは拳サイズの魔石をごろりと転がして、「ワイバーンよ」と言ったのだ。


 そうしたら、この反応だった。


「あ、貴方がたが倒されたんですか……? Aランクモンスターのワイバーンを?」

「え? それはこっちのレオが――」

「さすが勇者様! 賢者様!」

「あっ、ちょっと聞いて――。倒したのは――」

「お二人ともBランクなのに! Aランクモンスターを討伐されるなんて凄いです!」


「目撃例があったんで、今日、討伐依頼を張り出すところだったんです!」


 受付嬢は、文字の書かれた紙を突き出してきた。


「もういりませんよね! これっ!」


 目の前でびりっと破く。


「皆さーん! 勇者アリア様がまたやってくれましたーっ!」


 ――うおーっ!!


 ギルドの中にいた他の男女たちが――冒険者というのだろうか? 一斉に、歓声を張りあげる。


「あはははは……」


 アリアは困ったような顔で、愛想笑いをしていた。


    ◇


「ごめん! レオ、ごめんっ!」


 冒険者ギルドでさんざん賞賛を食らって、魔石の代金とやらを受け取って、人垣を抜け出したあと――。

 アリアは路地裏で、神さまに向けて両手を合わせていた。


「お前はなにをしているのだ?」


 大きな金貨を手の中で弄びながら、神さまは、不思議そうにアリアを見た。

 この大金貨で串焼きが何本食えるのだろうか。――と、そっちのほうを考えたいのだが、なにやらアリアが不思議な踊りをやっている。


「だから、謝ってるんだってばー。ごめん。あたしたちの手柄にしちゃって!」

「手柄?」

「だから、レオの倒したワイバーンが、あたしたちの倒したことになってたでしょ?」

「何度も言ったのですけれど。レオ君が倒したって、信じてもらえませんでしたわねぇ……」


 エレノーラが自分の頬に手をあてて言う。


「それのどこが問題なのだ?」


 まるでわからない。


「あと、その変な踊りの意味を教えろ。手を合わせるその仕草だ」

「踊りじゃないって。これは謝ってるの」

「謝るとは?」

「そこからかー!」

「まー、レオ君、かわいいわぁ!」


 レオノーラにぎゅーっと、された。

 のっし、とされた。


「まあ……。レオが気にしないなら、いいんだけど……」

「俺はこれが手に入れば気にしない。……で? これで串焼きはどれだけ食える?」

「ああもうっ! そういうとこだよ!」


 アリアまで、ぎゅーっとやってきた。

 なんなんだ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ