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#05.神さま、お金を理解する

 街の中に入って通りを歩く。かなりの数の人間が行き交っていた。


「ほう。人間がたくさんだな」

「当然よ。この街は、ここいらじゃ一番大きいんだから」


 アリアは胸を張る。

 街が大きいのと、アリアが威張ったポーズで胸を張っているのとは、なにか関係があるのだろうか?


「あたしたちと一緒だったの、ほら、よかったでしょ?」

「なにがだ?」


 入口をすぐに通り抜けることができず、無駄な話をしていただけに思えるのだが……。

 アリアたちのいないほうが、速やかに通過できていたのでは?


「あのままだったら、入市税、取られていたところよ」

「入市税?」

「レオ君、お金、持ってないでしょ?」

「お金?」


 首を傾げた。意味がわからない。


「ほうら、やっぱり。――どんな田舎から出てきたのよ?」

「レオ君。お金っていうのは、こういうものよ」


 エレノーラが革袋から、円形の金属片を取り出す。


「ただの金属だな」


 受け取った一枚を、しげしげと見つめて、そう言った。


「それは小銀貨。こっちが大銀貨で、あとこれが小金貨。大金貨は……、あったっけかなー?」


 アリアも自分の革袋をかきまわして、材質と大きさの違う様々な金属片を出してくる。

 だがみんな単なる金属だ。それぞれAuとAgとCuが、それなりの含有量で含まれた金属片に過ぎない。


 どこでも見かける金属だ。どの世界(、、)にも、だいたい存在している。


 神さまは、世界を作りあげるととき――。たいてい似たような元素配列を採用していた。

 色々と試してみた結果、いちばん安定して生物が繁栄する組み合わせは一つだということが判明している。


「小銅貨と大銅貨もあるんだけど。かさばるから、あたしたちは持ってない」

「その金属片が、どうかしたのか?」

「だから、これがお金! 見たことないのは知ってるけど、わかろうよ? お金がないと、街ではなんにもできないの」

「なに? ……では、その金属片がないと、街には入れないと、そういうことか?」

「ようやくそこかー!」

「なにを怒っている?」

「怒ってない! はじめからそう説明してるのに、いま頃わかってるから、怒ってんの!」

「やっぱり怒っているではないか」

「怖いお姉さんねえ」


 エレノーラが、後ろからぎゅっと抱きしめてくる。


「だからそこ! 隙を見つけては、ひっつかない!」

「我慢していないで、アリアもすればいいのに……。ほら、レオ君っ、ぎゅーっ」


 頭の上に、柔らかい物体がまた載せられる。

 べつに邪魔にもならないので、神さまは、そのままにしておいた。

 若干、重たいだけである。


「しかし、入れるとか入れないとか、誰が決めているのだ?」

「さあ……? 貴族とか?」

「入市税は領主の権限で決められるものですよ。……アリアもそのくらい知っておいたほうが」

「し、知ってたわよ! も、もちろん!」


 ああ。人間の決めた決まりか。

 なら自分には関係ないな。


 ――と、神さまはそう思った。


 神さまは世界を作るにあたって、およそ、ひとつの決まり事しか作らない。


 スタンド、アンド、ファイト。――勝ったら、食ってよし。


 〝進化〟のために必要な決まり事だ。

 人間の言葉では「弱肉強食」と呼ばれている。


 そのとき、神さまの嗅覚に、なにか訴えるものがあって――。

 そして、ぐう、――と、どこかで音がした。


 なにやら体に違和感がある。腹のあたりだ。


「あら、おなか空いてるの?」

「う……む?」


 聞かれるが、よくわからない。

 こんな感覚は知らない。なにかエネルギー的なものが欠乏しているような感じはするのだが……。


「あら、いい匂いね」


 エレノーラが見ている先には、なにかを焼いている台がある。


「あれ食べたいの? レオ?」

「……食べる?」


 そういえば、被創造物に対して、神さまは命じていた。


 立て。戦え。勝ったら食え。――と。


 だが〝食う〟――という行為をやったことはない。

 神族は永久循環の中にいるために、存在を維持するためにエネルギーを摂取する必要はないからだ。


 だが、そうか……。

 いまは人間の肉体なのだ。

 当然――食わなければならない。


「ほしいの? 食べたいの? ほーら、この小銀貨が一枚あれば、あの肉の串焼き、何本も、たーっぷり食べられるんだけどー?」


 神さまは手を伸ばした。

 小銀貨を掴もうとすると、アリアの手はふいっと遠ざかった。


「どーしよーかなーっ? レオが、お金の大事さをわかってくれたらー、あげるんだけどなー」


 手を伸ばす。ふいっと遠ざかる。手を伸ばす。またふいっと遠ざかる。


「おやめなさい」

「いたい!」


 アリアの脳天に、エレノーラの鉄拳が、ごちんと落ちた。


 小金貨を掴んで、そして神さまは肉の串焼きのところに走った。


「なにをいじめているのですか。貴女は」

「教育! 教育だからっ!」


「おおお。金属片がっ。肉の串焼きに替わったぞっ」


 神さまは串焼きをいっぱい持って、二人のところに戻った。

 〝金〟というものは、よくわからなかったが……。

 いまこの瞬間、すっごく、よくわかった。


「どうだ? 金というのは、肉の串焼きになるのだ! これはよいものだぞ!」


 神さまは、肉の串焼きを見せびらかせて、二人にそう言った。


「ああもうっ……!? ちょっとあたし……、だめかも――っ!?」


 アリアがほうが、ぎゅーっとやってきた。

 頭の上が重いのだが。

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