表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fランク冒険者がじつは神さまなのは、お姉さんたちだけの秘密です  作者: 新木伸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/9

#01.神さま、地上に立つ。

#01.神さま、地上に立つ。


 荒野の真ん中に、つむじ風が生まれた。

 砂をはらんだ風は回転を続け、充分な密度を得ると、さらに圧縮され、核種変換されていった。


 まず骨ができた。肉がそのまわりを覆いはじめる。

 血管と神経がまとわりつきにいって、最後に皮膚が生じる。質素な服が肌を覆う。


 一〇歳前後の少年の肉体が、なにもない場所から生み出された。

 風が消えると、少年は、どてっと、地面に落ちた。


「あ痛っ」


 思わず声がでた。


 おお……っ! 痛い(、、)ぞ!

 はじめての感覚(、、)に、少年は驚きと喜びをあらわにした。


 少年は――〝神〟だった。


 受肉して生物の〝肉体〟というものを持ったのは、遙かな昔に存在をはじめて、これがはじめてのことだった。


 手を、ぐーぱー、と握ってみる。握ったその手を、びしゅっと突き出してみる。

 足で、だんだんと地面を踏みしだいてみる。


 遠くの雲にまるい穴が開いた。足下の地面がすり鉢状に粉砕された。

 肉体には感覚がある。そして物は力を与えると壊れる。


 物質界。おもろい。


 神さまは、気をよくして、周囲を見わたした。

 物質界の〝生物〟というものに逢いに来たのだ。


 非常に貧弱な感覚器官――〝目〟というもので見える範囲に、ちょうど生物がいた。

 大型の飛行生物と、小型の地上型生物二匹とが、なにやら闘争をしている真っ最中のようだ。


 神さまは、そちらに向けて歩いていった。


    ◇


「――もうっ! なんでこんなところにワイバーンがいんのよ!!」


 勇者(、、)アリアは、剣を振るいながら悪態をついた。


「手がお留守になってますわよ! 絶望している暇があったら、攻撃なさいな!」


 賢者(、、)エレノーラが、防御結界と、強化の祝福と、回復魔法を同時に扱いながら、さらにアリアを叱咤してくる。


「誰が絶望なんてしてるのよ!」


 アリアは叫び返した。


 ……だが、ちょおぉ~っと、分が悪い。


 勇者と賢者という、選ばれしジョブの二人ではあったが、冒険者ランク的には、まだBランク……。


 対してワイバーンは、Aランクの魔物。

 ソロ討伐にはSランクが必要とされる。Bランクでの討伐実績がないこともないが、それは六人のフルパーティが複数あってのこと。

 通常、討伐には軍隊が出るようなモンスターである。


 だがアリアとエレノーラは、たった二人のパーティだ。

 〝魔王を倒す〟なんていう非常識な旅路に、そうそうついてこようとする者はなく、いたとしても、通常職では、そのうちついてこれなくなる。


 よって彼女らは、二人だけで旅を続けていた。それが今回は裏目に出た。


 ワイバーンが距離を取って、ホバリングする。

 大技の気配を察しとって、エレノーラがすさかず全魔力を防御結界に振り向ける。


 ワイバーンは炎を噴いた。


「このあたりに、こんな強力なモンスターがいるなんて……!! 聞いてない!!」


 防御結界の障壁で防がれる炎を見つめながら、アリアは言う。


 なわばりから追い出された「はぐれ」だろう。

 その証拠に、もうだいぶ傷を与えているのに、逃げていこうとしない。


 ワイバーンは凶暴ではあるが、野生のモンスターだ。つまりは生物であり、「食う」ために、「生きる」ために獲物を狙っている。よってある程度のダメージを与えれば、捕食を諦めて、撤退してゆくものだ。


 だが腹を空かせている場合は別だ。

 棲息地を追われて、行き場をなくしたはぐれ個体は、普通のモンスターとは違う行動を取るよううになる。

 食わないと死ぬ、というところまで追い詰められている場合は、少々のダメージでは逃げていってくれない。


 このワイバーンからは、必ず食ってやるぞという決意のようなものが見えていた。


 アリアとエレノーラは、ワイバーンに多少のダメージは与えているとはいえ、倒すまでには至らない。

 こっちのHPは乱高下を繰り返している。回復魔法がすこしでも遅れれば、前衛のアリアは倒されてしまうだろう。そうなったら後衛のエレノーラの運命も決まってしまう。


「アリア……! あれ(、、)をやりますわよ!」


 エレノーラが言った。


「ちょ――!? 待っ――!? あれ(、、)はだめ! やめなさい! エレナ!」


「そんなこと言ってる場合ですか! このままワイバーンのお腹に収まって、うんちになるなんて、わたくし、ごめんですからね!」

「うんち――!?」


 それはアリアも嫌だった。


 しかし賢者は、魔術師であると同時に、神に仕える聖職者でもあるはずなのだが……。普段は上品なのに、エレノーラはたまに口が悪くなる。


あれ(、、)――。やりますわよ?」


 エレノーラの目に妖しい光が宿る。


「くっ――!」


 アリアは腹をくくった。

 彼女にやらせるぐらいなら、いっそ自分が……!


「アリア!」


 エレノーラの声が飛ぶ。全身を包んでいた妖しいオーラは、驚きによって霧消している。


 決して使ってはならない〝奥の手〟を持っているのは、エレノーラばかりではない。

 勇者にだって、〝奥の手〟の一つぐらいあるのだ。


「おやめなさい! アリア! 貴女はだめ! その力を使っては――!?」

「使わなきゃうんち(、、、)なんでしょ!? ――やってやるわよ!?」


 アリアは足を止めて剣に力を注ぎはじめる。


 死すら覚悟して、技の準備をしていると――。


 てくてくてく、と、男のとこが歩いてきた。

 一〇歳くらいに見える――その可愛い盛りの男の子は、無造作に、アリアたちとワイバーンたちの間に立った。


「ちょ――!? ぼく! 危ないから! どきなさい? ――逃げてっ!」


 アリアは叫んだ。

 なんでこんなところに――。一般人が――。男の子が――。


 そんな断片的な思考が、アリアの脳裏を駆け回る。

 だが体は反応できない。もう間に合わない。ワイバーンが襲いかかる。


 勇者の――。勇者である自分の目の前で、あんな可愛い年頃の男の子が死ぬなんて――。あってはならないことだった。


 だが――。

 男の子は、ワイバーンに向かって、パンチを一発、繰り出した。


「え……?」


 なにが起きたのか、アリアには理解できなかった。


 ワイバーンが、突然、爆散したのだ。


 数秒か、あるいは十数秒も経った後――。

 血と、肉と、骨の破片が、周囲に降り注ぎはじめた。


「……え?」


 アリアはエレノーラと顔を見合わせた。

 エレノーラも、ぽかんとした顔をしていた。


「いま……、なにが起こったの?」

「あの子が……、パンチしたように……、見えましたけど?」


 どちらからともなく、ふらっと体が揺れる。

 ふたりで抱きあうようにして体を支えあったが、へなへなと地面に座りこんでしまった。


 やば……。腰抜けた。


「ぱ……、パンチで、ワイバーンが爆散する?」

「で、でも……、見たとおりですわよ……?」


 二人は男の子を見た。

 ワイバーンを一撃で爆散させた男の子は、自分の手を見つめている。握ったり開いたりして、自分の掌をじっと見つめる。

 その幼いながらも端正な顔には、「信じられない」という驚愕の色が浮かんでいる。


 それともあの表情は、怖がっている表情なのだろうか?

 あんな強さを持っていても、戦いは、やっぱり怖いとか……?


 力の入らない足を叱咤激励して、アリアは立ち上がった。


「ねえ……? ちょっと……、ぼく? ……ねえ、キミ?」


 アリアは、男の子に、おそるおそる声を掛けてみた。


 男の子は、声が聞こえないのか、まったく反応を返さない。

 茫然とした表情をしている。いったいなにが信じられないのか。

 そして、その口から、言葉を洩れて――。


「弱い……。なんたる弱さだ……!」


 なに言ってんの? ワイバーンは……、ぜんぜん、弱くないよ?

 アリアは心の中で、つっこんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ