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邪眼の薬師ラト  作者: むらべ むらさき
薬師ラトの誕生
1/21

1 赤い瞳の少女

はじめて長い物語をかいてみたいと思いました。

よろしくお願いします。

カツン!

勢いよく飛んできた小石が、黒髪の少女の後頭部にぶつかる。小石が飛んできた方向を少女が見遣ると、もう一粒、飛んできた小石が今度は少女の額に当たった。少女の白い肌に小さな傷ができ、血がにじむ。

小石を投げたのは、少女と同じ山村に住む少年たち、サイとレンチだ。年はそれぞれ9歳と7歳。兄弟である。二人とも少女を睨みつけ、その敵意を隠すつもりもない。少女は困ったように眉間をよせ、小さくほほ笑んだ。幼い兄弟は舌打ちをし、少女から背を向けて走り去った。周囲で畑仕事をしている大人たちは、見て見ぬふりだ。少女は額をこすり、自分の家に向けて再び歩き出した。


ガララ・・・。

静かに引き戸をしめる。誰もいない家の中に戻ってきた少女は、井戸から運んできた水桶を震えながら足元に置き、そのまま崩れおちた。その赤い瞳には、涙がたまっている。

「ウッ・・・ヒック・・・。」

なるべく声を押し殺し泣く少女であったが、コン、コンという家の裏の窓を叩く音に気付き、すぐに涙をぬぐった。再び、笑顔を作り、窓に向かう。


「ねぇ、ラト・・・大丈夫だった?血が出てたみたいだけど・・・」

そこにいたのは、少女の幼馴染の一人、レイハだった。キョロキョロとまわりを気にしながら、小声で語りかける。

「うん、大丈夫。私けっこう丈夫なんだ!お父さんだって、いっつも褒めてくれたんだから!」

少女は・・・赤い瞳を持った少女、ラトは明るく笑った。現に、額の怪我は既にふさがり、元通りの美しい白い素肌が蘇っている。その様子をみて、レイハはびくりと一瞬震えたのち、なんとか明るい声を出してラトに笑いかけた。

「そ・・・そっか・・・ラトは、すごいね!」

「うん!」

そして、周囲に人の目が無いことを再確認したのち、ポケットから芋餅をとりだした。この村では主食として食べられているものだ。

「・・・あのさ、これ、あげる!こっそり持ってきたの。」

「わぁ!ありがとう!レイハのおばさんの芋餅、私大好きなんだ!大事に食べるね!」

「うん!それじゃ、私はもう行くから・・・その、気を付けてね、ラト。」

「・・・いつもありがとう、レイハ。」

ラトは伏し目がちに去っていくレイハを笑顔で見送った後、すぐにしゃがみこみ、芋餅を口の中に放り込んだ。再び、瞳には涙が溜まる。

(お父さんが・・・お父さんがいてくれたらなぁ・・・。)

ラトは味のしない芋餅をのみこみ、もう会うことのできない父の笑顔を思い浮かべた。血のつながらない、拾い子であったラトに対し、深い愛情をそそいでくれた、父。明るくて、楽しくて、優しかった、ラトが誰よりも大好きで、尊敬していた父。涙が止まらない。村人から辛くあたられるよりも、父にもう二度と会えないのだという事実の方が、ラトにとっては悲しかった。ポタポタと、涙が床に落ちる。ラトの父、薬師であったフィド・バイカスが魔物に殺され命を落としたのは、2週間前の事であった。


フィドは腕の良い薬師であった。その知識は深く、山に自生する薬草のありかも正確に把握していた。物々交換で薬草や調合した丸薬などを分けてくれるフィドは、ラトたちの住む村・・・ゼリ村にとって、無くてはならない存在であった。こんな田舎に薬師がいるなど、普通に考えればあり得ない事なのだ。

しかしフィドは村人たちに重宝されてはいたが、それと同時に腫れものを触れるように扱われていたのも事実だ。その原因はラト。フィドがかつて王都で働いていたときに拾ったという、彼の娘だ。

今年で10歳になる美しい黒髪の少女は、赤い瞳を持っていた。赤い瞳・・・この世界でも珍しいその瞳の持ち主は、その希少さ故に好奇の目にさらされるし、謂れのない差別も味わうことになる。ゼリ村のような田舎村では、特にその傾向は激しかった。

「赤い瞳は“邪眼”であり、周囲に不幸をもたらす不吉の象徴である。」

村人たちは信じてそう疑わず、フィドに対して、ラトの排除を何度も何度も主張してきた。・・・時にはラトの眼前であるにも関わらず。それもこれも、フィドの為を思った彼らなりの“善意”の発露なのであった。

フィドは決して村人たちの主張を受け入れなかった。いつも悲しそうに笑い、彼らを家から追い返した後、心配そうに見つめるラトに対し、わざとおどけてこう言った。

「赤い瞳は不吉だと言うが、そんなことあるわけないよなぁ?村で皆が食べているおいしい“赤眼鹿”だって、赤い瞳じゃないか!」

鹿と私を一緒にしないでよ!とラトは怒るのだが、父があまりにふざけた調子でこう言うので、最後にはいつも笑わされてしまうのだ。笑顔を見せたラトに対し、父は決まってこう言った。

「そう、笑顔だ。生きていく上で、笑顔はすごく大切なんだよ。私も師匠から、『辛い時ほど笑顔を忘れるな』と、何度も叱られたものだ。・・・月並みだけどね、この言葉には何度も救われたと思っている。」

フィドはラトをだきしめ、落ち着いた声で彼女に言い聞かせた。

「つらくても、諦めちゃいけないよ、ラト。辛い時ほど笑うんだ。二人で、笑顔で明るく乗り越えていこうじゃないか!・・・君のことは、私が必ず守るから。」

“辛い時ほど笑うんだ。”・・・父のこの言葉は、ラトの宝物だ。彼女のことを愛してくれた、大切な父からの贈り物だ。

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